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東京高等裁判所 昭和25年(ラ)152号 決定

本件抗告の理由は、末尾添付別紙記載のとおりであつて、右に対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

裁判所の管轄は起訴の時を標準としてこれを定むべきことは民事訴訟法第二十九条の明定するところであつて、行政訴訟の場合でもこの理を異にする理由を発見することができない。記録によれば、抗告人等は、清水郵便局長が昭和二十三年十月一日同年政令第二〇一号並びに逓信部内雇員規程に基き抗告人山本昭一同加藤哲夫に対してなした解雇処分を違法なりとし同年十二月十日同局長を被告として静岡地方裁判所に本訴を提起し右処分の取消を求めるとともにこれに併せて右政令第二〇一号の無効確認並びに給料の支払を求めたものであるところ、(但し右給料支払請求訴訟はその後原告たる抗告人等において相手方の同意を得て取り下げた。)右被告たる清水郵便局長は、単に右訴訟の目的たる解雇処分をした行政庁であるばかりでなく、右訴提起の当時においてなお同郵便局勤務の雇員に対し懲戒免職の権限を有していたのであるから、(逓信部内雇員規程第五条第二十八条第二十九条参照)本訴は、裁判所法第二十四条第一号行政事件訴訟特例法第四条により、被告である清水郵便局長の所在地の裁判所である静岡地方裁判所の専属管轄に属し適法に同裁判所に係属したものというべきである。しかるにその後昭和二十四年六月一日郵政省設置法の施行に伴い、清水郵便局長は、雇員に対する減給及び戒告の処分はこれをなしうるも免職の処分は郵政大臣において直接これを行うこととなり同局長はもはやこれをなしえざるに至つたので、(郵政省設置法第四条第五号第二十条国家公務員法第八十二条第八十四条、郵政省組織規程第六条第三号参照)本件係争の処分についても主管行政庁が清水郵便局長から郵政大臣に変更せられ、同局長は郵政省設置法の施行と同時に本訴追行の権限を失い、これに代つて郵政大臣が本訴を承継したものというべきである。しかして原審における昭和二十五年三月二十三日の口頭弁論期日において、原告代理人佐々木茂が右事実に基き被告の表示を郵政大臣小沢佐重喜と訂正する旨の陳述をなしたことは、同調書の記載により明らかであるが、右は、行政訴訟特例法第七条によつて被告を変更したものではなくて、既に訴訟承継の事実ある以上、訴訟代理人あるため訴訟手続の中断は未だ生ぜざるも訴訟追行の正当権限ある郵政大臣において本訴を追行せられんことを申し立てたるものであつて、さればこそ郵政大臣においても訴訟代理人の選任書を裁判所に提出して爾後郵政大臣において本訴を受継し追行すべきことを明らかにしたものと認めるを相当とすべく、従つて抗告人等は、当初から被告とすべき行政庁を誤つたため被告の表示を郵政大臣に変更したのでないのであるから、右事実は毫も当初適法に係属した本訴の管轄に影響を及すものでなく今更ら管轄の有無を詮議する必要は毫末もないのである。従つてこれを訴訟係属中における単純なる被告の変更と解し、本訴は変更せられたる被告郵政大臣の所在地の裁判所たる東京地方裁判所の専属管轄に属すべきものとし、同裁判所に移送する旨の裁判をなしたる原決定は、法律の解釈を誤つたものであつて到底取消を免れず、又本訴中政令の無効確認を求める部分もその当否は別として本件解雇処分取消請求の関連請求として右請求に併合して提起したものであるから、抗告人等が右請求の被告を国に変更した場合であるならば格別右変更の事実がないのにかかわらず、原審が右請求は国を相手方とすべきものであり従つて国を代表する法務総裁の所在地即ち東京都を管轄する東京地方裁判所の管轄に属するものと判断したのも失当であるといわねばならぬ。

よつて抗告人等の抗告は理由あり原決定はこれを取り消すべきものとし、主文のとおり決定した。

(裁判官 大江保直 梅原松次郎 奥野利一)

抗告の趣旨

原決定を取り消す。

抗告の原因

一、原決定の理由とするところは、本件訴訟が行政事件訴訟特例法第二条所定の行政処分の違法な処分の取消を求めるものであるから同法第四条によつて被告である行政庁の所在地の管轄に専属するものであり、原告が被告の表示を訂正した以上、本件訴訟は被告の所在地の管轄裁判所の専属管轄に属するに至つたものであるというにある。

二、然し乍ら、原決定は、左の理由によつて不当である。

(1) 裁判所の管轄は起訴の時を標準として定むべきであり以後被告の所在の変動に影響がないことは民事訴訟法第二十九条により明らかであり、本件に於て被告の応訴した際被告の裁判籍が受訴裁判所に属していたことも当事者間に於て争のない事実であつた。従つて郵政省設置法の施行(昭和二十四年六月一日)に伴い、雇員の懲戒解雇は郵政大臣が直接行うことになつたとしても、被告が本件請求を争うとする以上は当然訴訟の受継をすべきものであるからこれが為めに管轄に変動を来たす理由は毫も存しない。

(2) 原決定は被告の表示の変更を以つて被告の変更である旨判示しているが、右表示の変更については、昭和二十五年三月二十五日の口頭弁論期日に於て懲戒解雇権は郵政大臣が郵便局長に対する委任をやめて直接行うことになり郵便局長の懲戒解雇権並びにこれに伴う取消事件の当事者となつたことが明らかにされたので、原告は、被告に於て右訴訟の受継を為すべき旨の申立をしたのに対し、原裁判所は、右訴訟の受継は被告の表示の訂正申立を以つて足る旨の指示があつたので、原告は、裁判所の右指示に従い被告郵政大臣に訴訟受継の趣旨を以つて被告の表示の訂正をしたのであつて、行政事件訴訟特例法第七条にいう被告とすべき行政庁を誤つた場合に被告を変更した場合と全くその性質を異にするものであり、被告表示の変更は移送の理由とならないものである。

(3) 原決定は第四条の専属管轄は行政庁の応訴の便宜を考慮するものである旨判示するが、既に訴訟が相当期間継続した後に於て本件の如く処分権者の変更した場合直ちにこれを訴訟の承継の被告の裁判籍所在の裁判所に移送することが出来るとするのは行政庁の立場のみを重視し行政事件訴訟特例法の立法趣旨に戻り且つ余りにも原告の利益を無視したものであるというべきものである。特に行政事件訴訟特例法第十条の規定があるにより仮の地位を定めて仮処分が許されない被解雇公務員に関しては身分関係の速かな確定を求める原告の不利益は甚しいといわねばならないから原決定の理由は不当である。

尚本件の問題事件は原裁判所の隣接都市内であるから審理上便宜も大きいといいうるに於ては原決定は更に不当である。

(4) 原決定は、事件の迅速円滑なる処理に資せんとするものである旨判示するが訴訟繋属してより昭和二十五年三月二十五日迄には約一年三ケ月余経過しており且つ審理も証人数名を以つて結審の直前にあつたことは記録上明らかであるから、右事件の移送は却つて事件の「迅速円滑なる処理」を殊更に阻害するものであつて原決定の理由は成り立たないものである。

(5) 本件中法令の無効確認を求める部分に於ては、原告は国を相手にしないものであるから右請求が郵便局長に対しては認められない場合あるとしても、原告はこれが被告の変更を申し立てる意思がないからこの点に於ける原判示の移送の理由は成立しない。

三、以上の理由により、本件は受訴裁判所たる静岡地方裁判所に於て引き続き審理するのが相当であり原決定の理由は不当であるからこれが取消を求めるため民事訴訟法第三十三条により即時抗告に及んだのである。

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