東京高等裁判所 昭和25年(ラ)27号 決定
一、当事者
抗告人 甲野三太郎
二、主 文
本件抗告はこれを棄却する。
三、理 由
本件抗告理由の要旨は、抗告人は昭和二十四年九月横浜家庭裁判所に対して名の変更許可の審判を申立てたところ、同裁判所は正当の事由がないとして右申立却下の決定をした。しかし抗告人は許可申立書にも書いてある通り、折角親の付けて呉れた名前ではあるが「三太郎」とは普通世間では馬鹿の代名詞のように用いられ、抗告人が幼少より現在までこの名のために悪友達より散々辱めを受けて来たのであり、殊に今回抗告人が子供がないので他から養女を迎える談が進渉中であるが、これまた抗告人の名「三太郎」を苦にして養女となることを肯じない有様である。それゆえ抗告人は戸籍上の文字を使用しなければならない時以外は(伸太郎)なる文字を用い、現在では友人間は素より勤務先会社等でもこの名を使用している次第であるから、原決定を取消し本件を横浜家庭裁判所に差戻す旨の裁判を求めるため本件抗告に及んだというのである。
しかしながら名が三太郎であるからとて必らずしも馬鹿扱いにされ冷笑されるとは限らない。要はその人の心掛次第ないしは日常の行状如何によるべきものと思考される。本件記録中の本籍役場の調査回答書及び抗告状添付の健康保険被保険者証、予防接種済証各写によれば抗告人は幼少の頃より不幸な境遇に置かれ過去において悪友に染まりたる形跡が窺われ、最近は伸太郎なる別名を使用していることが窺われるが、抗告人にして悪友との交友を終ち真面目な会社員として又善良なる父として行動するにおいては敢えて別名を使用する必要なかるべく、又養女を迎えるに当つても大した支障を来すものとは考えられない。
従つて抗告人が名の変更をなすについては、未だ戸籍法第百七条第二項に所謂正当な事由があるものとはいい難いから原裁判所が抗告人の本件申立を却下したのは相当である。
よつて本件抗告を理由なしと認め主文の通り決定する。