東京高等裁判所 昭和25年(ラ)94号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事實)
抗告人は疎開建物が除却された当時におけるその敷地の賃借人であつた。よつて疎開命令解除後、罹災都市借地借家臨時処理法に基き従前の敷地所有者斎藤に右敷地の優先賃借方を申し出たところ右土地は既に本件相手方に賃貸してある旨告げられた。そこで今度は相手方に対し賃借権讓渡申出の意思表示をした。ところが実際は右土地は相手方に賃貸せられたものでなく、相手方に売渡されたもので所有権移轉登記も完了せられていた。相手方は右抗告人の借地権讓渡申出に対し何ら拒絶の意思表示をしなかつた。
抗告人は東京地方裁判所に対し右敷地につき借地権設定並に條件確定の申立をなしたところ、同裁判所は抗告人が相手方に対し爲した本件土地の借地権讓渡の申出は無効であり、これを以て借地権設定の申出としての効力なきものとして抗告人の申立を却下した。
(判斷)
原決定を取り消し、事件を原裁判所に差し戻す。しかして抗告審の決定理由とするところは次の通りである。「思うに罹災都市借地借家臨時処理法は、今次戰爭により住居を失つた罹災建物の借主又は疎開建物の所有者借主等に対し、優先的に借地権を取得する機会を与えて、その住居の安定を計り併せて罹災都市の復興に資せんとするものであり、これが爲め罹災建物の敷地又は疎開跡地につき、他に借地権が設定されてないときは土地所有者に対し借地権設定の申出を爲すことにより、既に借地権の存するときはその借地権者に対し借地権讓渡の申出を爲すことによつて、他の者に優先して借地権を取得することができる途を開いたのである。各場合によりその爲すべき申出の形式は異にするけれども、法の所期する所はいずれもかかる意思表示によつてその者に借地権を取得せしめんとするに在るのであるから、苟くも右意思表示の内容において罹災都市借地借家臨時処理法に基く借地権取得の趣旨を含み、且つその意思がこれを受けた者にとつて合理的に推測されうる限り、仮令これが表現の形式を誤つた欠陷があるとしても、右意思表示はこれにより同法の定める借地権設定若くは讓渡等それぞれの場合に適合する借地権取得の効果を生ずるものと解するのと同法制定の趣旨に合致するものとすべきである。本件において相手方は抗告人より借地権讓渡の申出に接したのであるが、右は借地権設定の申出を爲すべき所をかく誤つたにすぎず、抗告人の本意はこれにより疎開跡地に借地権を取得せんとするにあること明かであるから、右申出は同法による借地権設定の申出としての内容をも包含するものと見るのが相当である。尤も相手方がこれに対し法定の期間内に拒絶の意思表示をしなかつたのは原決定説示の如くこれを法律上無効と解したが爲めであつて、相手方としては固より右申出を容認する趣旨ではなく、若しこれに借地権設定の申出としての効果が認められるならば、右申出を拒絶せんとの意思を有していたことは本件記録上これを窺いうる所であるから、かかる場合期間の経過により直ちに借地権の設定を承諾したものと看做するのは不当に相手方の利益を害する結果となるので、相手方が右申出の効果を爭う以上は相手方において借地権設定の申出を拒否するに足る正当の事由を有していたか否かを審理しなければならぬこととなる。よつて原決定を取消し、更に審理を盡さしめる爲めこれを原審に差戻すべきである。」