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東京高等裁判所 昭和25年(行ナ)13号 判決

本件出願における当初の明細書及び図面は甚だ簡単なもので、「発明の詳細なる説明」の項にも詳しい実施例を挙げることなく各種の用途について抽象的な説明を加へているに過ぎなかつたがその後製鉄炉としての実施例の説明及び図面並に蒸気罐としての実施例の説明を補充し、更に昭和二十四年三月二十二日抗告審判に係属中指令に応じて蒸気罐としての実施例の図面を補充した結果、出願公告されるに至つたものだが、特許異議申立があり、その為め特許されなかつたものである。上記明細書中発明要旨としては「特許請求の範囲」の項に『圧縮されたる空気又は酸素等の助燃気体を圧入しつつ密閉炉中に於て炉内の適宜燃料若くは助燃気体或は金属処理に必要なる還元瓦斯の存在と共に供給せらるる燃料瓦斯を加圧の下に燃焼せしむることを特徴とする燃焼加熱装置』と記載され一度も訂正を加へられてないが、明細書及び図面の記載全体を検討して見ると『密閉炉』というているものが実際は弁を附した排出管を有し、運転開始後僅小時間を経過すれば燃焼ガスの排出を必要とし、密閉されているのは非常に短時間で平常はただ無制限の排出を許さず内部をある程度の高圧に保持し得るに過ぎないものであり、又燃料及び助燃気体の種類及び供給方法並に還元ガスの存在等についても、何等の限定が加へられていないことになり(実施例も各種の場合が記載してある)、結局それ等が加圧の下に燃焼されることが要件として残るのみである。以上を綜合して見ると、本件発明の要旨は『炉の排気を弁その他によつて制限して炉内を高圧に保持しつつ燃料を助燃気体と共に供給し加圧の下にてこれを燃焼させることを特徴とする燃焼加熱装置』に存するものと認められる。

審決は特許異議申立人がその申立に当り証拠として提出した日本機械学会編『機械工学便覧』(昭和十二年十二月十五日発行)第一二一一頁及び第一二一二頁(乙第一号証)の記載を引用し本件出願発明が右刊行物に容易に実施し得べき程度において記載されたものと同一であると述べている。右の記載というのはヴエロツクス蒸気罐に関するもので、その記載によれば、燃焼室(b)の「バーテー」(a)には燃料たる重油あるいは「ガス」が圧縮機(g)で圧縮された空気と共に供給され、燃焼ガスはその圧力を利用して高速度にて垂直蒸発管(c)内の伝熱面に沿うて流れ、伝熱係数を大きくした結果、小形にして大出力のものができる点が特長であり、又燃焼室内の燃焼ガスの圧力については具体的の数字の記載はないが、燃焼室(b)から過熱器(d)を通過した燃焼ガスが空気圧縮器(g)、罐水循環ポンプ(k)等を回転するガスタービン(e)原動力に利用され、更に節炭器(f)を経て機外に放出される点を見れば、燃焼室内には相当の圧力が保持されていることが認められる。又過熱器(d)節炭器(f)殊にガスタービン(e)は燃焼ガスに対して可なりの抵抗を与へてその流れに相当の制限を加へ、燃焼室内の圧力を高めていることは明である。なお、成立に争のない乙第三、四号証によれば、本件出願日前である昭和十二年五月十七日以来東京大学工学部機械工学科図書室にて一般学生の閲覧に供されたと認められる独逸書アー、ロシユゲ著『デイー、ダンプケツセル』の第二三五、二三八乃至二四〇頁に亘りヴエロツクス蒸気罐の構造その他に関する記載あり、ヴエロツクス蒸気罐の燃焼室内では一乃至一〇気圧の圧力の下に加圧燃焼が行なわれ、燃焼ガスの高圧であることがその高速度と相俟つて熱の伝達を極端に高めていること及び高速高圧なるため罐全体が小形にできる点がその特長であることを明記してあり、前記乙第一号証の記載を更に詳しく説明している。以上の記載によればヴエロツクス蒸気罐の燃焼室ではその排出部に燃焼ガスの排出を制限する装置が設けられて室内は高圧に保持せられ燃料及び空気はバーナーに圧送せられ、燃焼は加圧の下で行はれ、燃焼室の燃焼ガスの高圧であることは高速であることと相俟つて熱の伝達に有効に利用されているものと認められる。

本件出願の発明要旨と審決引用のヴエロツクス蒸気罐に関する記載(乙第三号証として新に提出された記載と綜合して)とを比較すれば両者は共に『炉の排気を制限して炉内を高圧に保持しつつ燃料を助燃気体と共に供給し加圧の下にてこれを燃焼させる燃焼加熱装置』である点にては全く一致している。ただ前者が炉の排気の制限を行うために弁その他を設けて調節するようにしてあるに対し、後者が排気の熱及び圧力を利用する設備即ち過熱器、節炭器及びガスタービンを以てした点で相違するに過ぎない。しかも、後者においても燃焼ガスの高圧であることはその高速度と共に熱の伝達上にこれを利用しているのであつて、上記の諸設備を設けた結果不用の圧力が発生したわけでない。そして炉内に圧力を保持する目的で炉の排出部において排気に制限を与へる手段としては後者が既に公知状態に置かれている以上前者のように弁その他でその通路を調節できるようにすることは特に発明力を要する程度のことでなく単なる設計の問題と認められる。従つて、本件出願の発明は結局前記刊行物に記載されたものと同一発行に係るものと認めることができる即ち本件出願の発明は特許法第四条第二号に該当するものである。なお

1 原告等は特許庁抗告審判において明細書の訂正を命じて特許しなかつた点を違法であると主張しているが発明要旨を「特許請求の範囲」の項の記載のみに拘泥して考へるのは間違であつて、明細書及び図面全体によつて要旨を認定すべきこと勿論であるが、前項に述べたように前明細書から認定した発明要旨が新規の発明と認められないとき更に他の部分にまで検討を加へなければ違法であるということはできない。従つて審決はその説明の字句には不備の点はあつても、本件出願発明が乙第一号証の刊行物の存在によつて新規性を欠いているものであると認定している点で間違のない以上前記訂正を命じなかつたとしてもこの点で審決は違法でない。そして本件出願発明の場合のように炉内の圧力が七気圧のとき特別に効果が大であるというものでもないのに(この効果の点については明細書にも更に原告が審査官に提出した実験表にも七気圧が特によいことを明示していないので明瞭である)七気圧に限定するのは何の意味もないことである。又本件出願発明は製鉄炉の場合を第一義としているというが出願当初の明細書には製鉄炉に関する特別の記載がなく炉内の圧力を高めて熱の伝達を良好にする点を発明とする本件出願の場合ではその点に関する特殊の効果が明示されない以上その応用範囲を限定しても別個の発明を構成するものと考へられない。つまり,原告の希望する明細書の訂正は何れも必要を認められないものである。

2 原告は本件出願発明では圧力の程度及びその目的が引用例のものと相違すると主張しているが前者の圧力も必ずしも七気圧に限られているものでなく後者にも相当高圧の場合ありて差異を認め難いものであり、又両者共に熱の利用率を良好にするために高圧を利用していること前述の通りであり、この点も差異は認められない。

3 原告は乙第二、三、四号証は抗告審判当時提出されていたものでないからこれによつては審決の審理不尽、理由不備を免れることはできないと主張しているが、事実審理が行はれる当裁判所では審決の理由を正当なりとする証拠として新な証拠を提出することは毫も差支ないことであり、殊に本件の乙第二、三、四号証は審決における認定事実即ちヴエロツクス蒸気罐の燃焼室内の圧力が原告の主張するように低圧でなく相当の高圧であるという事実を更に別の記載例によつて立証したもので審決の理由と別個の理由を加へるのでなく当然証拠として採用されるべきものである。  以上説明によつて明かなように本件出願発明と引用例とを比較して両者を同一発明に係るものと認めた審決は正当であるからその取消を求める原告等の請求は理由がないものとして棄却さるべきものである。

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