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東京高等裁判所 昭和26年(う)1027号 判決

元来所得税法及び法人税法等における租税逋脱に関する罪は既往年度内における確定した所得の申告に関聯するものであるところこれ等に関する規定のみをもつてしては所謂国家財政の予算計画並びにその遂行上等において支障若しくは困難を来す虞ある為当該年度内における国民所得について予定的中間的若しくは概算的申告制度を定めると共にこれが不正申告者に対する制裁規定を設けもつて前掲本来の逋脱犯を段階的に防止し徴税の目的使命を完からしめんとする傾向を辿つて来たことはこれ等法規の立法経過並びに税の本質上疑のないところである。しかし右予定申告、中間申告、若しくは概算申告に違背する詐欺その他不正申告に関する罪は本来の逋脱犯の前提的、補則的に特に定められた一種の秩序罰的刑罰の性格を有するものであるから本質的には逋脱の有無に拘らず若しくは逋脱の領域に達しない程度をもつて足る犯罪であると謂うべく従つて稍もすればこれ等に関する刑罰は行政上徴税の目的使命を達する為定められた延滞利子税、加算税、重加算税、追徴税等の純粋の行政罰的の規定や徴税強行に関する厳格な手続規定の趣旨と漫然比較対照若しくは混同せられる虞があるのでこれ等と截然区別することを要し苟も右行政罰的規定若しくは徴税強行手続規定に拘泥する余り若しくは漫然所謂経済九原則第二項所定の「徴税計画を促進強化し脱税者に対しては速かに且広範囲に徹底的な刑事訴追措置をとるべき旨」の要請に即応せんとしその倉卒の間に我が国の刑罰法令が所謂罪刑法定主義を恪遵せる根本理念を閑却すべからずや当然の事理に属するところであり況や所得税法並びに法人税法の如き国民生活に直結し、かつ極めて厳格かつ細微に亘つて定立された税法就中所定の実体的な刑罰法令を明文無くして濫りに類推拡張することの不当たるや言を俟たないところである。翻つて本件を看るに本件が現行法人税法の改正前の法人税法に関するものであることは明白なところである。而して所論引用の改正前の所得税法第六十九条によれば詐欺その他不正行為により第二十六条第一項第一号(確定申告)に規定する所得税額の全部又は一部につき所得税を免れたものは云々と右本来の逋脱税を規定し又同法第七十条各号において各予定申告その他に関し虚偽の申告を為した者等について特に右に所謂秩序罰的刑罰を明定しあるところ改正前の法人税法第四十八条には単に詐欺その他不正行為により法人税を免れた場合には云々と規定したのみでその所謂秩序罰的刑罰に関する同法第四十九条各号には概算申告又は中間申告に関する虚偽申告について何等の処罰規定がないことは所論のとおりである。しかし同法第十九条所定の概算申告及び同法第二十一条所定の中間申告は当該事業年度若しくは看做事業年度内における既往の所得に関関するとは言えなお暫定的、仮決算的なものであり而も当該法定事業年度全体としては不確定なものであつて、かつこれ等に関する罪は前掲秩序罰的刑罰の性格を有するものであるから前記改正前の所得税法第七十条のように特にこれが刑罰に関して明文なきに拘らず右改正前の法人税法第四十八条について所論のように該法条若しくは関係法条と比較対照してこれを類推拡張し同条は確定申告に関する場合は勿論中間申告たると将た又概算申告たるを問わず汎ねく法人税を免れた場合をも包含するものと解するが如きは畢竟前段説示のように純粋の行政罰的規定又は徴税強行に関する手続規定の趣旨等を顧慮する余り若しくは前示逋脱犯等に関する立法経過並びに税に関する処罰規定の性格を閑却した為不知不識の間に刑罰法令の本義から聊か遊離した不当の解釈であると推断せざるを得ない。然らば改正前の法人税法第四十八条は確定申告に関する詐欺その他不正行為に因る逋脱罪を定めるものであつて所論のように概算申告並びに中間申告に関する罪をも包含するものと為すことは当を得ないから原審が結局右と同趣旨の見解の下に本件は所謂概算申告に関するものと為し同法第四十八条の適用なき故をもつて被告人等に対し無罪の言渡をしたのは寔に正当とすべく従つて原審には本件について所論のように法令の適用を誤つた違法があるとの非難は採用するに由なきものとする。

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