東京高等裁判所 昭和26年(う)1595号 判決
本件記録を見ると、原裁判所が被告人の本籍地を管轄している橫浜市神奈川区役所に対し、被告人の本籍、出生地、住所、氏名、生年月日、職業、前科の有無等被告人に関する身分関係事項を問い合わせる旨を記載した書面及びその回答として右書面の余白を利用した同区役所から原裁判所宛の被告人に対する身上取調書が綴られていることは所論のとおりである。そして、右身上取調書には、被告人の本籍、氏名、生年月日並びに被告人の妻及び長男長女の氏名が記載され、その出生地欄や住所欄には、いずれも、不明と書かれており、又前科欄には「民刑事項通知ニ接セズ」との記載があり、更に、該書面には照会の年月日及び右区役所が該書面を収受した年月日として昭和二十六年二月八日の日附印が押捺され、又回答の年月日として同年二月九日という記載がある。ところで、記録に徴すると、本件起訴の日は昭和二十六年二月六日であり、原審の第一回公判期日は同月二十二日であるから、前記照会の書面は被告人の前記身分関係を取り調べる目的をもつて、本件起訴後二日以内に原裁判所から右区役所宛に発送され、同区役所は該書面を収受した翌日、その余白に前記回答事項を記入した右回答書を作成した上これを原裁判所に返戻する手続をとり、該書面は遅くも原審第一回公判期日前に原裁判所に到達したものと想像されるのである。そして、凡そ、第一審の裁判所が第一回公判期日前に被告人の本籍地を管轄する区役所から前記のような趣旨の回答書の送付を求めることは聊か穏当を欠く憾がないとはいえないけれども、原審がかゝる書面による回答を求めた趣旨は、要するに、原裁判所が人定質問その他の方法によつて被告人を特定する必要上、その資料とするにあつたものと考えるのが相当であつて、原裁判所がその第一回公判期日前においてあらかじめ、前記の回答書を見ることは、その書面の記載が前記のとおりである以上、毫も事件について裁判官に予断を生ぜしめることにはならないものと解すべきである。そして、原審が右書面を本件窃盜の事実認定の証拠としていないことは原判決の記載に徴して明らかであるから、右原審の措置は前記のとおり、穏当を欠く憾がないことはないけれども、未だこれをもつて、刑事訴訟法第三百七十九条にいわゆる判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続上の法令の違反ということはできない。
よつて原判決には何等所論の違法はなく、論旨は理由がない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)