東京高等裁判所 昭和26年(う)2272号 判決 1951年10月05日
控訴人 被告人 丸山末蔵
弁護人 奥田三之助
検察官 大久保重太郎関与
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人奥田三之助提出の控訴趣意書に記載の通りであり、之に対する当裁判所の判断は左の通りである。
右趣意第一点について
略式命令手続は公判手続に従たる手続であるから当事者が略式命令の結果について不服ある場合は正式裁判の請求権を認めているのみならず、略式命令の請求に際し被疑者に異議あるときは異議の申立を為し得るとし通常の公判手続による審理を保障している。而して刑事訴訟規則第二百八十八条は「略式命令請求書には被疑者に対し略式命令の請求をする旨及び七日以内に異議の申立ができる旨を告げたこと並に其の期間内に被疑者から異議の申立がなかつた旨を証明する検察官の保証書を添附しなければならぬ」ことを規定していて、異議ある場合なるに拘らず略式命令が発せらるる如き場合を防止せんとしているから、右規定の保証書を略式命令請求書に添附しないことは違法であるには相違ない。然しながら仮に略式命令請求の手続について刑事訴訟法第四百六十一条第二項刑事訴訟法第二百八十八条所定の異議申立権の存在を告げられなかつた如き違法があつた場合に於ても裁判所により発せられた略式命令に対し正式裁判の請求があり公判手続が開始され手続の進行をみるに至つたときは、略式命令に対し異議ある場合に正式裁判手続を保障するという刑事訴訟法及び同規則の意図するところは自然達成されたのであるから、右違法を以つて公訴手続の無効を来すとする必要はないのである。今本件について之をみるに、記録編綴の起訴状(略式命令請求)には所論の如く刑事訴訟規則第二百八十八条の要求する保証書の添附がないが、其の理由は右規則第二百八十八条の要件が満されていなかつた為であるか、或は正式裁判の請求があり通常公判手続に移行した場合であるから記録上添付の必要がないというのか必ずしも明ではないが、いづれにせよ被告人から略式命令に対する正式裁判の請求があり、公判手続の開始をみた上被告人並に弁護人から何等異議の申立もなく結局原判決の宣告に至つたのであるから、仮に略式命令請求の手続に右規則違反があつたとしても右違法を捉えて公訴手続の無効を来たすと論ずるが如きことは許されない。論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 藤嶋利郎 判事 飯田一郎 判事 井波七郎)
弁護人奥田三之助の控訴趣意
第一点、原判決は判決に影響を及ぼすべき法令違反の違法がある。原判決は判決で公訴を棄却すべきものである。
即ち本件は昭和二十五年十一月二十五日川口区検察庁副検事林宇吉より川口簡易裁判所に対して公訴を提起し略式命令の請求がなされたため、同裁判所に於いて略式命令が発せられ、之れに対する被告人の適法なる正式裁判の申立により判決を受けた事件であるが、本件記録綴込の起訴状には、刑事訴訟法第四百六十一条第二項の事項を保証する同規則第二百八十八条所定に係る検察官の保証書が添付せられて居ないのみならず、記録を精査するも之れを発見することが出来ない。
従つて本件はその公訴提起の手続が前記法条に違反し、その効力を認めることが出来ない場合であるから、原裁判所は刑事訴訟法第三百三十八条第四号に拠り判決で公訴を棄却すべきもので、被告人に対し有罪の判決をしたのは明白に、判決に影響を及ぼすべき法令違反の違法があるものと思料する。
(その他の控訴趣意は省略する。)