東京高等裁判所 昭和26年(う)2537号 判決
本件記録によれば原審において検察官は市川信次の検察官に対する第七回供述調書謄本渡辺充の小林検事に対する供述調書謄本、同人の丸物検事に対する供述調書謄本及び高橋清一郞の検察官に対する第九回供述調書謄本を刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号に該当する書面としてその取調の請求をなしたこと並びに被告人及び弁護人は右供述調書謄本を証拠とすることに同意せずその供述に任意性信用性がないから、証拠調には異議があると申立てたところ裁判官は検察官の請求を容れ右供述調書謄本の取調をしたことが認められる。しかしながら刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号の書面には供述者の署名若しくは押印のあることを要することは同条に明定するところであるから相手方において特に謄本によつて証拠調をすることに同意している場合は格別、その然らざる本件においては供述者の署名も押印もない右供述調書謄本はその要件を充たしていないものと言わなければならない。
敍上のように原審には証拠能力のない書面について証拠調をし更にこれを証拠に採用して原判示第二第三の事実を認定した訴訟手続に違背せる廉があり之が判決に影響を及ぼすことも亦明らかであるから論旨はこの点において理由あり原判決は破棄を免れない。