大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)2963号 判決

記録を調べてみるに、被告人星野英誠事李英誠に対する昭和二十五年十一月二十九日附検察官の起訴状には、公訴事実として「被告人は昭和二十五年十一月六日東京都北多摩郡昭和町中神千二百四番地の自宅に於て何人も所持してはならない麻薬であるモルヒネ塩類末〇・五瓦入一包を隠匿所持したものである」と又、罰条として、麻薬取締法第四条、第五十七条と各記載してあつたところ、昭和二十六年四月十九日の原審第四回公判調書の記載によれば、同日の公判廷において、検察官が、右起訴状認載の公訴事実中「何人も所持してはならない」とある部分を削除し、同記載の罰条中「麻薬取締法第四条」とあるを同法第三条と訂正し、同被告人、並びに、弁護人において、右削除及び訂正に異議がなかつた事実を認められるが、被告人が麻薬取扱者でなかつたかどうか、及び、他に法定の除外事由がなかつたかどうか等の点につき、全然触れていないことは、所論指摘のとおりであつて、更に、原審判決書によれば、原判決も、亦、適条としては、同被告人の所為につき、麻薬取締法第三条を挙示しながら、これに対応する犯罪事実としては、その判示第一の(二)に、「昭和二十五年十一月六日頃東京都北多摩郡昭和町中神千二百四番地の自宅に於て麻薬であるモルヒネ塩類未〇・五瓦入一包を隠匿所持」と判示しているのみであつて、同被告人が、麻薬取扱者でなかつたかどうか、及び、その他法定の除外事由がなかつたかどうか等の点については、全然判示しなかつたことが認められるのである。而して、麻薬取締法第三条には、「麻薬取扱者でなければ麻薬を所持し、輸入し、製造し、製剤し小分し、施用のため交付し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用し、若しくは麻薬を記載した処方せんを交付してはならない。但し、この法律の規定により麻薬施用者から施用のため交付を受け、又は麻薬小売業者若しくは家庭麻薬業者から譲り受け、若しくは譲り受けた者が、その麻薬を所持することは、この限りでない。2麻薬取扱者は、その業務の目的以外のために前項本文に規定する行為をしてはならない。3この法律の規定により麻薬を所持する者は、麻薬をその所持の目的以外の目的に使用してはならない。」と規定しているから、同法第五十七条所定の同法第三条第一項の違反罪は、麻薬取扱者でない者が、同項に列記する麻薬の所持その他の行為をすることによつて成立するものであつて、同違反罪の主体は、麻薬取扱者でないことを要件とするもの、言い換えれば、麻薬取扱者でないことは、同法第三条第一項の違反罪の特別構成要件に属するものと解すべく、従つて、同違反罪の公訴事実につき審理するには、先ず、被告人が、麻薬取扱者でないかどうかの点につき審理するを要すべく、又判決において同違反罪の犯罪事実を判示するには、必ずや、被告人が、麻薬取扱者でなくして、同法第三条第一項掲記の一種又は数種の行為をしたことを具体的に判示するを要するものと言わなければならない。然るに、原審公判調書により、原審における審理の経過をみるに、検察官が原審公判廷において、訂正、削除の上朗読した起訴状には、被告人が麻薬取扱者でないことにつき、何らの記載もなかつたことが前示のとおりであつたにもかかわらず、原審裁判所はこれに対し、何らの釈明をも求めることなくして、まん然審理を進め、その公判廷で取り調べた証拠中にも、この点につき何ら確然たる証拠が顕われないにもかかわらず、被告人自身に対して、この点についての陳述を求めることすらしないで、そのまま、弁論を終結したことが窺われるのであつて、而も、原裁判所は、右審理の結果裁判をするにあたつても、前示のとおり、犯罪の特別構成要件に属するこの点について、全然判示するところがなかつたのであるから、原判決には、この点において、審理不尽に基ずく理由の不備があるものと言うべく、結局、刑事訴訟法第三百七十八条第四号所定の判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあることに帰するものと言わなければならない。

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