東京高等裁判所 昭和26年(う)3390号 判決
刑の執行猶予の制度は、犯人を個別化するところにその特質がある。従つて刑法第二五条に所謂情状の内容を逐一尽すことはできないにしても、当該被告人の改悛の程度は勿論その健康、精神力、精神の均衡、気質、態度その他近親者交友関係というような事項も参酌すべきであるが、同時に公安維持の必要のような事項をも除外さるべきものでないのは勿論軽視されてもならないと解するのが相当である。さて本件の犯情その他諸般の事情を記録について詳細に検討するに、本件が厳格に法を適用すれば強盜傷人に該り、まかり間違えば致死の結果をも招来する可能性ある案件である点が相当重視さるべきことは洵に所論のとおりである。原判決は本件に刑の執行猶予を与える理由を相当詳細に説示しておるが、これによつては未だ被告人が独力で又はその近親者の助けをえてはたしてよく所定の猶予期間中、その善行を保持しうるという保障充分であると断ずることは稍早計に失する。のみならず、本件犯行は前記のような性質のものである外白昼であるとはいえ弱い一婦人に対する暴力の行使である点などを考えると、本件は公安保持の必要を、ぎせいにしてまで刑の執行を猶予すべき情況にあるかどうかは記録上明白でない。従つて原判決は審理不尽の結果刑の量定を誤つたもので、右違法は判決に影響があるから論旨は畢竟理由あるものである。そして本件は当審において直ちに判決するを相当と認めないから刑訴法第四〇〇条本文に従つて本件を原裁判所に差戻すべきものである。
よつて主文のとおり判決する。