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東京高等裁判所 昭和26年(う)3844号 判決 1952年1月17日

控訴人 被告人 飯田忠次

弁護人 小林直人

検察官 渡辺要関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審並びに当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は末尾に添附した弁護人小林直人作成名義の控訴趣意書のとおりで、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

第一点原審第一、二回公判調書の記載によれば、所論原審証人飯田兼太郎は検察官並びに弁護人双方の取調請求にかかり、その尋問の方法は交互尋問の方式によるものであるのに、同証人の供述は単に検察官、弁護人の各尋問の部分と被告人の尋問の部分丈に分けて記載されていて、検察官の主尋問、それに対する弁護人の反対尋問及び弁護人の主尋問、これに対する検察官の反対尋問というように判然区別して記載されていないことは所論のとおりである。しかし検察官、弁護人双方から取調請求のあつた証人で、交互尋問の方法による場合であつても、相互に主尋問反対尋問と形式上厳格に区別してこれをしなければならないものとは現行刑事訴訟法上は解せられない。要は訴訟関係人に対し当該証人を尋問する機会が正当に且つ充分与えられればよいのである。而して原審第二回公判調書中証人飯田兼太郎の供述記載を検討すれば、弁護人の尋問の部分には検察官の主尋問に対する反対尋問と弁護人の主尋問とが自から包含されているもので、弁護人に対し主尋問をする機会は与えられたものと認めるのを相当とする。弁護人の主尋問に対する検察官の反対尋問は尋問する事項がなかつたので検察官はこれをしなかつたものと認められ、所論のように弁護人の主尋問を行わせなかつたものと認めることはできない。なお被告人にも尋問の機会が与えられて、被告人も同証人を尋問しているのであるから、原審は訴訟関係人に対し同証人を尋問する機会を充分与えたものであることが認められるので、原審は弁護人の証拠調請求を許容しながらこれを実施しなかつたものとは到底解することはできない。原審には所論のような訴訟手続違背は認められず、論旨は理由のないものである。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 石井文治 判事 鈴木勇)

弁護人小林直人の控訴趣意

第一点原判決は、検察官及び弁護人双方の申請にかゝる証人の交互尋問に際し、弁護人の主尋問及び検察官の反対尋問の機会を与えなかつた違法がある。

原審第二回公判調書の記載によれば、検察官及び弁護人双方の申請を容れ且つ交互尋問を行うことに決定していた証人飯田兼太郎の尋問に際し、裁判官は、検察官に対し、「本証人は検察官弁護人双方の申請であるがまづ検察官より尋問するように促した。」そこで検察官は、自己の尋問事項に基いて主尋問を行い、弁護人及び被告人は反対尋問を行つたことが記載されてある。そのあとで裁判官は、弁護人に対して自己の尋問事項に基く主尋問と検察官に対して反対尋問を促すことなく、直ちに「証人尋問終了の旨を告げ」たことに記載されている、そうしてみると、原審裁判所は、証人飯田兼太郎に対して、検察官の主尋問及び弁護人の反対尋問を行つたのみで結審し、弁護人の主尋問及び検察官の反対尋問を行つた証跡がないといわなければならない。

これを要するに、原審裁判所は、証人飯田兼太郎についての弁護人の証拠調申請を採用する旨の決定をなしたにも拘らず、これの証拠調を実施せずに結審したことに帰し、かゝる手続違背は判決に影響を及ぼすことが明であるから原判決は、この点において破毀を免れない。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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