大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和26年(う)3903号 判決

しかし、記録によれば、弁護人が原審第二回公判期日において、本件被告事件につき、「本件はロクロク食事を摂つていない。家族の生命、身体の危急を救わんが為めになした所為で、本件以外の行為を期待し得なかつた。」との意見を述べなお原審第四回公判期日には、弁論要旨に基いて、被告人一家の生活困窮の情況を詳細に述べて、被告人の所為は緊急避難行為に当ると主張した後をうけて、「又、本件の場合、被告人の家族情況、精神情況等よりして、本件行為に出でざるを期待し得なかつた情況にあつたものである。(期待可能性欠缺の問題)」と主張したにも拘らず、これに対して、原審は判決において「弁護人は、被告人の所為は貧困なる家族の生活の苦難を救う為め己むを得ず為した緊急避難行為であつて、刑の減免の事由ありと主張するけれども、当裁判所は右の事由は之を認めず、弁護人の右主張は採用しない。」との判断を示したのみであつて、特に期待可能性がないという主張があつた事を明示して、これに対する判断を明示しなかつたことは所論のとおりであるが、原審における弁護人の期待可能性がないという主張は、要するに、被告人の本件所為が、貧困な家族の生活の苦難を救うため、己むを得ずなされたものであることを前提として、これが一面緊急避難行為に当るとともに、他面期待可能性を欠く場合にも当るものであることを主張しているのであつて、これに対して、原判決が、その表現はやや簡に失する嫌はあるが、結局所論のような緊急避難行為に当る事由がないと判断した以上、これと同一の事実関係を前提とした、期待可能性を欠く場合に当るとの主張に対しても、すでに判断を示したものと認めることができ、特にこの点を原判決に明示しなくても、敢て違法というには当らないから、この点に関する論旨は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!