大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)4056号 判決

売買により不動産の所有権が買主に移転したに拘わらず、登記簿上その所有名義が依然として売主に存するときは右不動産は売主において有効に処分しうべき状態にあるものであるから、売主はこの場合刑法上他人の不動産を占有しているものと言うべく、これを自己の物として第三者に売却し、又は第三者に対する債務の担保に供する等、右不動産に関し不正に領得する意思を外部に表現させたときは、橫領罪を構成することは判例の示すところである。そして売買当時不動産が未登記のものであつた場合において、その売主が売買後その不動産につき売主名義の保存登記を経由した場合でも、右保存登記自体はそれのみでは売主の不法領得の意思を外部に表現したものとは言えないから、爾後右不動産の売主は既登記の不動産を売却し未だ移転登記を経ない売主と同じく、刑法上右不動産の占有者と解せらるべきものというべきである。

今本件記録を調査すると被告人が昭和二十年七月十九日松谷正雄に売却した原判決表示の合計四筆の不動産中所論の住家一棟は売買当時は未登記であつて、右売買後である昭和二十五年十月十一日に至り被告人名義の保存登記を経由したものであることは所論のとおりであるけれども、被告人は右登記後は右住家についても、既に登記がなされていた他の三筆の不動産と同じく、買主たる松谷正雄のためその所有に係る不動産を占有していたものと認められるから、これを判示のように他の三筆の不動産と共に被告人自身の高橋秀次郞に対する債務の担保に供し抵当権設定登記をした場合には右四筆の不動産につきそれぞれ不法領得の意思を外部に表現したものとして橫領罪を構成することは勿論である。被告人が売買の目的物たる前記不動産を買主に引渡しこれを占有せしめていたかどうかは右犯罪の成否に影響を及ぼすものではない。

所論は以上と異る独自の見解に基ずき原判決の事実の認定並に法令の適用を攻撃するものであつて採用に値しない。同第二点について。

売買により不動産の所有権が買主に移転した後、未だその移転登記がされないで、売主の所有名義となつている間に、売主がこれを奇貨とし、自己の債務の担保として右不動産に抵当権を設定しその旨の登記を経た場合には右抵当権設定登記は有効であり且つ右抵当権設定登記を申請して登記官吏にその旨の登記をさせること自体が橫領罪を構成するものと解すべきであるから、右抵当権の設定行為が虚偽仮装と認められるような場合は格別、その他の場合は橫領罪の外に公正証書原本不実記載の罪を構成するものではないと解すべきである。原判決が判示一の事実につき右抵当権設定登記を申請しその旨の登記をなさしめたことを以て橫領罪の外に公正証書原本不実記載の罪を構成するものとして判示したのは法令の解釈を誤つたものと言わねばならぬ。しかし原判決は、右公正証書原本不実記載の罪は橫領罪に吸収せられるものとし結局橫領罪の一罪として処断しているのであるから原判決にはひつきよう判決に影響を及ぼす法令の適用の誤りはないものと認められる。従つてこの点の論旨も結局理由がない。

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