大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)4198号 判決

原判決が、その理由において、「第一事実起訴状記載の公訴事実の通り(中略)第三法令判示事実中無謀な操縦をした点は道路交通取締法第二十八条第一号第七条第一項第二項第三号(中略)に各該当するが(後略)」と判示していること、及び、原判決の引用にかかる起訴状記載の公訴事実中に「被告人が無謀な操縦をした」という文言の記載がないことは、いずれも、所論のとおりであるが、しかし道路交通取締法は、その第七条第一項において「車馬又は軌道車の操縦者は、無謀な操縦をしてはならない。」と規定し、その第二項において、「前項において無謀な操縦とは、左の各号の一に該当する行為をいう。」として、その第三号に、「前号の外、酒に酔いその他正常な運転ができない虞があるにかかわらず、諸車又は軌道車を運転すること。」と規定しているのであるから、苟も、酒に酔い、その他正常な運転ができない虞があるにかかわらず、諸車又は軌道車を運転した行為は、これを道路交通取締法からみるときは、同法第七条第二項第三号所定の行為であつて、同条第一項に違反し、無謀な操縦をした場合に該当するものというべく、即ち、同法にいわゆる「無謀な操縦」なる行為は、同法第七条第一項違反罪の構成要件ではあるが、ひつきよう、ある具体的行為に対する法律上の価値判断であつて、その内容をなす具体的行為は、同条第二項各号所定の行為に外ならないのであるから、同条第一項違反罪の犯罪事実を判示するには、同条第二項各号所定の具体的行為を判示した上、「もつて無謀な操縦をした」旨を判示することが、適切妥当であることは勿論であるけれども、既に、無謀な操縦の内容をなす具体的行為を判示している以上、法律上の判断に過ぎない右「無謀な操縦をした」との文言を示さなかつたからとて、必ずしも、破棄の原因たる理由不備の違法があるものということはできない。

今、本件につき、記録を調査するに、原判決が、その認定事実として引用する起訴状記載の公訴事実中には、「被告人は自動車運転者であるが第一、昭和二十六年一月二日午前十一時五十五分頃東京都台東区南稲荷町八番地先道路に於て酒に酔い正常な運転ができない虞があるのに拘らず浅草方面より上野方面に向け時速約四十粁にて小型貨物自動車第二七五一二号を運転し」なる記載があつて、該記載事実が、同法第七条第二項第三号所定の要件を具備していることは明らかであるから、原判決が、前述のように、「もつて無謀な操縦をしたものである。」との旨を判文に示さなかつたからとて、原判決に、所論のような判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあるものということはできない。

論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決が、判示第一、第二の事実として、各前記のような犯罪事実を、同第三の事実として「その際同人の救護その他必要な措置を講ぜず逃走したものである。」との事実を、それぞれ認定した上、法令の適用として、「判示事実中無謀な操縦をした点は道路交通取締法第二十八条第一号、第七条第一項第二項第三号罰金等臨時措置法第二条に業務上過失致死の点は刑法第二百十一条前段罰金等臨時措置法第二条第三条に救護等必要な措置を講じなかつた点は道路交通取締法第二十八条第一号第二十四条第一項道路交通取締令第五十三条罰金等臨時措置法第二条に各該当するが以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから道路交通取締法違反罪については孰れも所定刑中懲役刑を選択し業務上過失致死罪については所定刑中禁錮刑を選択した上同法第四十七条第十条に従い最も重い業務上過失致死罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を禁錮八月に処するものとする」と判示していることは、所論のとおりであつて、所論は、被告人の原判示所為中、第一と第二とは、結局、業務上過失致死の単純一罪とみるべきであり、仮りにそうでないとしても、一個の行為であつて数個の罪名に触れる場合であると主張するが、しかし、道路交通取締法第七条は、道路における危険防止及びその他の交通の安全を図る目的をもつて、車馬又は軌道車の操縦者に対し、これらの目的を阻害するような無謀な操縦を禁止する趣旨の規定であつて、同条第一項の違反罪は、車馬又は軌道車の操縦者が同条第二項各号所定の「運転」ないし「操縦」をすることによつて成立する犯罪であるから、右「運転」ないし「操縦」という行為の性質上、多少時間的に、同一違法状態を継続するいわゆる継続犯の性質を有するものと解せられるのに対し、右業務上過失致死罪は、ある業務に従事する者が、その業務上必要な注意を怠つたことに基因して、人を死に致すことによつて成立する犯罪であつて、右道路交通取締法第七条違反罪のように、継続犯的性質を有するものではないと解すべきであるから、たとえ、本件において、自動車の運転者たる被告人が、右道路交通取締法第七条に違反して、無謀な操縦行為を継続中、たまたま、その業務上必要な注意を怠つたことに因つて、前掲宮本としを死に致したものであつたとしても、前示無謀操縦行為と、右業務上過失致死行為とは、それぞれ、別個の行為であり、従つて、別個の犯罪とみるべきものであつて、これを一個の行為とみることはできないものといわなければならない。

又所論は、被告人の原判示所為中第二と第三との間に、手段結果の関係がある旨主張するにより、案ずるに、右原判示第二の所為のあつた機会に、その直後、同第三の所為が行われたものであつて、後者が前者の存在をその前提としていることは、まことに、所論のとおりであるが、しかし、それだからといつて、直ちに、前者が後者の通常の手段であるとも、又、後者が前者の当然の結果であるとも認められないのであるから、結局、右両者の間には、所論のような手段結果の関係があるものということはできない。

してみれば、原判決が、被告人の原判示所為に対し、所論のように、その第一と第二とを単純一罪、又は、一所為数法の場合にあたるものとはみず、又その第二と第三との間に、手段結果の関係があるものとはしないで、前示のように、第一ないし第三の各所為が、それぞれ、別罪を構成するものとみて、その全部に対し、刑法第四十五条前段その他の併合罪の規定を適用処断したことは正当であつて、原判決には、所論のような法令の適用に誤があるものということはできない。

故に論旨はすべて理由がない。

(註 本件は量刑不当により破棄自判)

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