東京高等裁判所 昭和26年(う)4502号 判決
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(判旨)原判決が認定した事実の要旨は、被告人は同人が経営している飯場の被傭人夫の食糧獲得に窮したので、二個所の配給所においてその各係員に対し、家庭用主要食糧購入通帳に記載してあるK外多数の並帯主、世帯員が被告人方に実在していないのにも拘らず恰かも実在するかのように装つて右各通帳を呈示し、主食米換算合計三二九六瓩余を受け取り、もつて、それぞれこれを騙取したものであるというのであるというのであつて、原判示事實中被告人に関する部分は原判決挙示の各関係証拠を総合すればこれを認められないわけではないのである。そして、右原判示によれば、原判決は原判示K外多数の人々がいわゆる幽霊人口と称する架空の人物である場合はもとより、かりに右小泉三郞等が実在の人物であつても、原判示の各年月日に被告人方に実在していなかつたものであるから、被告人が原判示のような方法をもつて同人等の受配分としての主要食糧の配給を受けとることは詐欺罪を構成するとの趣旨を明らかにしているものというべきである。本件の場合において原判決のいうKその他の者がもし架空の人物でいなとすれば、同人等はわが国内のいずれかにおいて所定量の主要食糧の配給を受け得る筋合であるから、国全体の見地に立てば、被告人が同人等の名義で受けた主要食糧の配給も結局不正受配とはならないかのような観があるけれども、主要食糧の配給制度というものは、需要供給の原則に従う自由経済の状態のまま放任しておいては到底全国民に最少限度の必要量の主要食糧の分配を期待することができない食糧事情に対処する必要上定められたものであり、国は国民に所定量の主要食糧を供給するため、予め各地に実在する受配者の氏名、年令、性別等を綿密に調査し、これに対応する配給機構を整備し、その所要量を一定の計画に従つて割り当てる等諸般の準備を遂げ、もつてその円滑な実施を期しているのであるから、各人が正規の手續によらないで任意に主要食糧の配給を受けられるとすれば、この制度の円滑な運営は到底これを期待することができないことはいう迄もなく、ひいては主要食糧のいわゆる闇売買を増加せしめることとなる虞があるから右制度の円滑な運営を期待する以上、主要食糧購入通帖に受配者として記載された者以外の者は該通帖によつて主要食糧の配給を受けることは許されないものと解すべきは当然のことといわなければならない。また、被告人の経営する飯場には原判示受配人員に相当する他の被傭人夫がいたことは、証人、A、Bの当公廷での各供述を総合してこれを窺い知ることができないわけではないが、かかる事実があつたからといつて、被告人の原判示各受配については、ただ、受配人名を異にするに止まり、受配人員数は正しいのであるから、被告人の右受配の各所為は何等配給制度を阻害することがないのは勿論、詐欺罪を構成するものではないということはできない。されば、被告人は前記K等の受配分として主要食糧の配給を受けられなかつたのにも拘らず、欺罔手段により原判示のように多数回に亘り敢えてこれを受配したことは前説明のとおりであるから、被告人の原判示各受配の行為がいずれも詐欺罪を構成することは疑のないところである。従つて、原判決には何等所論の違法はない。
(説明)架空の人物を作り又はその場所に実在しない人名によつて主要食糧の配給を受ける行為が詐欺罪を構成することは、既に数多の判例の示すところであつてこと新らしい問題ではないが本判決はこの点について懇切に説示しているので特にここに掲げることとした次第である。