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東京高等裁判所 昭和26年(う)5359号 判決 1952年8月13日

控訴人 被告人 大岩富次

弁護人 小野謙三 内水主一

検察官 小出文彦関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

弁護人小野謙三、同内水主一の各控訴趣意は各同人作成名義の控訴趣意(但し内水主一の控訴趣意書(追加)と題する書面を含む)と題する末尾添附の書面記載のとおりである。これに対し当裁判所は次のように判断する。

弁護人小野謙三の控訴趣意について

第一、児童福祉法第三十四条第一項第六号の罪は、各個の淫行毎にそれと同数の罪が成立するものであるという論旨は容認できない。蓋し、罪数は、常に必ずしも、自然的行為の数又は犯罪構成要件を充足する結果の数とも一致するものでないことは今更説明を要せぬところであり原判決挙示の証拠によれば、被告人は、判示市川節子、渡辺礼子、新関美枝子及び白井リヨ等が、いづれも満十八歳未満の児童であること、及び同女等が各別に継続的営業的に売淫行為をすることの情を知りながら、被告人が売淫行為の便宜に供するために設営した特殊飲食店「富士」の各室をそれぞれ同女等にあてがい提供した事実が認められるから、原判決が被告人の行為を児童一人毎にそれぞれ包括的に観察して各一罪として処断したのは相当である。少くも、弁護人の本件被告人の犯罪行為の数は原判決認定のそれよりも、なお多数存するという主張は、被告人にとつて畢竟不利益に帰するから、これを控訴の趣意とすることは適切ではないからである。原審には所論のような審理不尽も理由の不備もなく、論旨は理由がない。

第二、しかし、原審並びに当審が調べた証拠に現われた事実に徴すると、前記説明のように被告人が経営する新潟市本町通り十四番町三千百三十二番地特殊飲食店「富士」は同市のいわゆる花街の一角にある同種の店が軒を連らねるのみでなく、「富士」の屋内の設備、調度等はすべて売淫行為を目的として設営されておる外、判示各児童に対し、その十八歳未満のものであることを知りながら、それぞれ売淫のため使用させる目的で、いわゆる自分の部屋を与えかつ当該児童から売淫の都度その収益を受取り、その中から一定率の金銭を徴していた事実が明白であるから、たとえ判示各児童の売淫行為自体は各児童の任意に出たもので些も被告人がそれ等の者をして、かかる行為をするように直接かつ積極的に勧誘も強制もしなかつたとしても、判示各売淫行為に関する前記一連の被告人の行為は児童福祉法第三十四条第一項第六号にいわゆる児童に淫行をさせる行為であると認めるのが相当である。なお記録を調査しても、被告人が所論のように前掲法条の罪の成立を阻却するに足りる「拒止」をしたと認めるに足りる証拠はない。故に原判決には所論のような罪とならない事実を罪となると認めたという事実誤認も擬律錯誤その他の法令違反もない。論旨はいづれも理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 谷中薫 判事 石井文治 判事 鈴木勇)

弁護人小野謙三の控訴趣意

第一、原審判決の認定する犯罪事実は起訴状掲記の公訴事実と同一なので茲に之を引用する(中略)法律に照すと被告人の判示各所為は孰れも児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六十条第一項に該当するので所定刑中懲役刑を選択し尚以上は刑法第四十五条前段の併合罪となるので同法第四十七条、第十条に従い犯情の重い渡辺礼子に対する児童福祉法違反に法定の加重をなした刑期範囲内で被告人を懲役六月に処し主文の如く判決するとなし、起訴状記載の公訴事実は被告人は、(一)昭和二十五年八月上旬より同年九月中旬迄の間市川節子(当十六年)が満十八才に満たない事を知り乍ら(中略)特種飲食店「富士」に於て売淫させ以て児童に淫行させ、(二)昭和二十五年九月上旬頃より昭和二十六年四月二十日頃迄の間渡辺礼子(当十六年)(以下同様なるを以て中略)、(三)昭和二十五年十月中旬頃より昭和二十六年五月初旬頃迄の間新関美枝子(当十七年)(以下前同様なるを以て中略)(四)昭和二十五年十一月下旬頃より昭和二十六年一月下旬頃迄の間白井リヨ(当十七年)(以下前同様なるを以て中略)、と表示し被告人が市川節子、渡辺礼子、新関美枝子、白井リヨに判示期間内に於て淫行させたことを夫々包括一罪とし、然る後右四名に対する包括一罪を夫々併合罪なりとして刑法第四十五条前段及同法第五十七条を適用し居るも児童福祉法第三十四条第一項第六号は淫行せしめたことの各行為を処罰の対象として居るもので一定の行為を職業犯乃至常習犯的に犯したことを処罰の対象として居るものではない。従つて右児童四名に夫々淫行せしめたことを包括的一罪として法条を適用したるは明らかに擬律錯誤に陥りたる違法あるものと思料す。若し原判決が仮りに各行為につきても併合罪の規定を適用したるものと解するならば右四名の児童の司法警察員に対する供述調書中には被告人方に止宿し居りたる期間と其の期間中に淫行をなしたる旨の供述あるのみにて其の淫行行為自体甚だ漠然たるものにて捕捉し難きものであり、従つて右解釈をなすには審理不尽か理由不備の譏を免れざるものにて此の点よりもするも破棄さるべきものと思料す。

第二、児童福祉法第三十四条第一項第六号には「児童に淫行させる行為」とありて児童に淫行をさせる行為即ち児童に積極的に淫行をさせる行為を禁止することは法文自体より明白である。飜つて本件を見るに被告人は本件児童市川節子、渡辺礼子、新関美枝子、白井リヨに淫行させた事実は認められぬ。むしろ右児童は自ら進んでその自由意思に基き淫行をなしたるものにて被告人の勧誘乃至強制によつて淫行したるものに非ず。却つて被告人は之を拒止し居りたるものである。此のことは右四名の児童の司法警察員に対する供述調書並に被告人の司法警察員に対する供述調書によつて明白である。果して然らば原審は事実を誤認し罪とならざる事実につき法律を適用したる違法あるものにして破棄さるべきものと思料す。

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