大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)5494号 判決

依つて進んで各被告人に対する検察官の控訴趣意につき審案する。

本件公訴事実の要旨は、

被告人等はいずれも法定の除外事由なく

第一、被告人中筋恵は

(イ) 昭和二十四年十一月二十日東京都中央区銀座五丁目所在百貨店松坂屋附近路上外二箇所において、連合国占領軍所属財産たるドル表示軍票三百七十六ドルを所持し、

(ロ) 同月二十一日同区銀座四丁目P・X附近路上外一ケ所において連合国占領軍所属財産たるドル表示軍票五百六十七ドル二十セントを所持し、

(ハ) 同月二十二日同区銀座西五丁目所在みどりや内において、連合国占領軍所属財産たるドル表示軍票百五十ドルを所持し、

第二、被告人中筋敏子は

(中略)

第三、被告人中村光治は

(中略)

第四、被告人赤塚巳之助は

(中略)

たものである。

というのであるが、原審はこれに対し、

被告人中筋恵に対する前示第一(ハ)の内五十ドルを所持したとの点

被告人中村光治に対する前示第三(ハ)の内五十ドルを所持したとの点

被告人赤塚巳之助に対する前示第四の内五十ドルを所持したとの点

についてのみ犯罪の証明ありとして夫々同被告人等に対し有罪の判決をなし、その他の点については犯罪の証明なきものとして、被告人中筋敏子に対しては無罪、被告人中筋恵に対しては第一の(イ)(ロ)の事実につき、被告人中村光治に対しては第三の(イ)(ロ)の事実につき、それぞれ主文において無罪の言渡をしたものである。

しかし当裁判所は一件記録を検討し、なお当審における事実の取調の結果に徴し、原審には左記の事由により事実の誤認があり且つその違法は判決に影響を及ぼすことが明かであると認める。

即ち、原審において取り調べた中筋恵の司法警察員に対する供述調書四通(弗取引明細表二通を含む)、中筋敏子の司法警察員に対する供述調書五通(ドル取引関係明細表、弗売買表及び洋服生地売買一覧表を含む)中村光治の司法警察員に対する供述調書四通(弗取引表を含む)及び赤塚巳之助の司法警察員に対する供述調書四通(弗売買一覧表を含む)と、押収にかかる米国拾ドル軍票五枚(昭和二六年押第一五九三号の一)中筋恵の手帖(同押号の三)の内容記載並びに当審における中筋恵の供述の一部を総合するときは、被告人等がそれぞれ、起訴状記載のようにドル表示軍票を所持していたことが認められるのである。今右各証拠の内容その証拠能力並びに信憑力につき検討すると、

(イ) 右米国十ドル軍票五枚は被告人中筋恵が昭和二十四年十一月二十二日現行犯として逮捕された際所持していたものであつて且つ右軍票は当日同被告人並びに被告人中村光治が被告人赤塚巳之助方において同人より受け取つたものであることは一件記録に徴し明白である。

(ロ) 被告人等の司法警察員に対する供述調書は原審において被告人等がその任意性を争つたため、検察官が一旦その取調請求を撤回し、その任意性を立証した後更にその取調を請求し、原審もこれらの供述調書記載の供述は任意になされたものと認め、その証拠調をしたものであることは、原審第十四回第十六回及び第十七回公判調書の記載に徴し明白である。そして右各調書はその形式、その供述内容及び他の証拠との関係並びに原審における証人皆川登、松井貞明の各供述等を総合すれば、原審の認めたようにその供述内容が任意になされたものと認められるのである。次にそれらの供述が信憑し得るものかどうかの点について考えると、右各調書に記載された供述内容は各被告人毎にその前後を通じて一貫したものでなく、概して回を逐うに従い漸次起訴事実の内容と趣旨を同じうするに至つたものであり、又被告人中筋恵の供述調書によれば押収にかかる同被告人の手帳に基ずいて取調が行われ供述がなされたことを推認させるに足る記載があり、又被告人中筋敏子の供述調書添付のドル取引に関する表の作成については、被告人中村光治がこれに関与したことが認められるのであるが、以上の事実があるからと云つて右各供述は警察職員の取調に迎合してなされたもので信憑力なきものであると云うことはできない。元来本件のようにドル表示の軍票を目的とする取引の如きは法の認容しない不法な取引であるから、その当事者は将来にその痕跡を止めぬように留意し、右取引の内容を正確な帳簿に記載しておくことなどは殆どありえないところであり、専らその場限りの取引として隠密のうちにこれを遂行するのが例であるから、起訴状記載のような多数回の且つ多額に上る取引が行われた場合においては、仮令被告人等がその取引を隠蔽しようとして故意に虚偽の陳述をすることがなくても、当初各人の供述が区々となることはむしろ当然であつて、数回の取調を経るに従いその間の過誤が改められ、相互に供述が合致するに至ることはまた当然の成行である。

然して本件被告人等の供述は後記の中筋恵の手帳の記載とも大体において合致し、又原審証人矢島安久利の供述により裏付けられる部分もあり、前記のように現に所持していた軍票五十ドルも押収せられているのであるから、右供述は真実に合致し信憑するに足るものと認められるのである。

(ハ) 次に押収にかかる中筋恵の手帳(昭和二六年押第一五九三号の三)について考察すると、右手帳は、被告人中筋恵が本件ドル表示軍票の取引に関し自ら記入したものであり、且つ同被告人が前示のように現行犯として逮捕された際そのオーバーのポケツトに入れていたものであることは同被告人の当審公廷における供述に徴し明白である。しかしてその内容は本判決末尾に添附した写のとおりであつて、十一月二十日(昭和二十四年)から同月二十二日に亘りドル表示軍票の不正取引に関するメモと認められるものである。同被告人は右手帳の記載はドル(ドル表示軍票の意以下同じ)売買の予定を記載したものであつて、十一月二十二日被告人が現に所持していた五十ドル以外は現実に授与されなかつた旨弁疏しているのであるが、右手帳の記載に徴するときは、その内容は、一部不明確な部分もないではないが、大部分は現実に行われたドル表示軍票及びその資金としての日本金円の授受をその都度心覚えとして書き留めたものと認められるのであつて、同被告人の弁疏するように単にドル取引に関する予定のみを記載したものとは到底認められない。

以上説示したように右手帳の記載は、その内容記入方法並びに同被告人がこれを所持していた状態その他諸般の情況に徴し本件のような取引においては、特に信用すべき情況の下に作成された書面として証拠能力を有するものと認むべく、且つその内容は相当強度の信憑力を有するものと認めるのが相当である。

しかして以上の各証拠を総合するときは本件取引の概要は次の如きものと認定されるのである。

(後略)

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