大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)5863号 判決

原判決挙示の証拠によれば、原判決認定の第一の(一)の昭和二三年一〇月一〇日にはその期日における早期供出米三六俵が、(二)の同年一〇月一九日にはその期日における早期供出米一〇〇俵が、(三)の同年一〇月三〇日にはその期日における早期供出米四〇〇俵がいずれも未だ供出はされておらず、且つその供出米代金(早期供出奨励金を含む)が判示群馬県信用農業協同組合連合会勢多支所から下川淵村農業協同組合の貯金口座に各振込まれた当時((一)は昭和二三年一〇月一二日、(二)は同年一〇月二一日、(三)は同年一一月二日)においてもなお現実に供出はされていなかつたことが認められるので、原審は被告人等が判示支払証票及び振替通知書を作成させてこれを群馬県販売農業協同組合連合会勢多支所を通じて右信用農業協同組合連合会勢多支所に提出行使して同支所をして下川淵農業協同組合の貯金口座に右三六俵、一〇〇俵、及び四〇〇俵の各供出米代金を夫々振り込ませたことをもつて虚偽公文書行使の外早期供出奨励金を含む右各当該供出米代金全額((一)は三万六千七百二十円、(二)は九万四千円、(三)は六十五万七百五十五円)相当の財産上不法の利得を右下川淵農業協同組合をして得させてこれを騙取したものであることはこれを認めうるところであるけれども、原判決挙示の証拠によれば(一)については昭和二三年一〇月一四日頃三六俵、(二)については同年一〇月二四日頃一〇〇俵、(三)については同年一一月三日頃四〇〇俵が夫々現実に供出されていることが認められ、且つ被告人等が早期供出奨励金以外の基本供出代金までを不正に領得しようという意思のあつたことはこれを認めるに足らないことは所論のとおりである。のみならず本件起訴状によれば右(一)乃至(三)に該当する詐欺公訴事実の訴因は(一)は金二八八〇円(一俵につき金八〇円の割合)、(二)は金八〇〇〇円(一俵につき金八〇円の割合)、(三)は金六四〇〇〇円(一俵につき金一六〇円の割合)の各早期供出奨励金を被告人等は騙取したというのであつて原判決認定のように当該供出米代金全額を騙取したというのではないことは明白である。

よつて按ずるに、詐欺罪における騙取した物の種類、数量又は金額は罪となるべき事実を特定する事項であつて裁判所はその訴因の範囲内において審理判決すべきものであるが、公訴事実と同一性を有する限りは必ずしも訴因のとおり種類、数量又は金額を認定しなければならないものではない。しかし起訴状に明示された詐欺の目的物の種類、数量又は金額と著しく異る多量多額の種類、数量又は金額を認定する場合には公訴事実の訴因変更の手続を履践しなければ、それは被告人に対し抜打となり被告人の防禦に実質的な不利益を生ぜしめる虞がある場合と解するのを相当と認める。

しかるに本件においては被告人等に対する公訴事実中の前記騙取したという事実と原判決認定の右事実とは公訴事実の同一性はあるが、目的物の金額が著しく異り原判決認定の金額は著しく多額であり、公訴事実の訴因に対し原判決のように認定することは被告人等の防禦に実質的な不利益を生ぜさせる場合と認められるのに本件記録を精査しても原審が訴因変更の手読をした形跡は何等認められない。

しからば原判決は審判の請求をうけない事件について審判したという違法は認められないとしても訴因の変更を為すべき場合であるのにその手続を為さず判決をしたという訴訟手続違背の違法があり、しかもその違法は判決に影響を及ぼすものと認められるから、原判決は破棄をまぬかれない。

本件控訴は結局理由がある。

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