大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ナ)18号 判決

原告 河西一郎 外一名

被告 東京都選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告等は、「昭和二十六年四月三十日執行せられた東京都足立区における東京都議会議員選挙を無効とする」、との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

(一)  原告両名は、昭和二十六年四月三十日執行された東京都足立区における東京都議会議員選挙の選挙人であつた。

(二)  右選挙にあたつて、足立区から立候補した加藤千太郎は、公職選挙法施行令第八十八条第一項の規定に従つて、候補者届出書を、該選挙の選挙長に提出したが、右届出書に職業として自動車運転手と記載した。かつ同人は、右届出書に、同人が東京都交通局自動車運転手である旨の東京都交通局長作成の公務員のまま立候補することのできる証明書を添付した。

(三)  加藤千太郎は、戦傷によつて右手首を失い、当時自動車運転手の免許を有せず、従つて同人の職業は自動車運転手ではなかつた。

(四)  しかるに選挙長、及びその指揮を受けて選挙事務を行う職員は、加藤千太郎が自動車運転手を職業とするものでないことを知りながら右届出書を受理し、選挙長告示に、同人の職業を自動車運転手と記載した。また、前記証明書に記載された東京都交通局自動車運転手とは、公務員としての職制上の職務であり、職業としての自動車運転手を意味しない。従つて、右証明書の記載と、右届出書の記載とは職業の点において相違しているにもかかわらず、選挙長、及びその指揮を受けて選挙事務を行う職員は、これを受理した。

右の選挙長及びその指揮を受けて選挙事務を行う職員の行為は、選挙の規定に違反し、かつ特定の候補者のために有利に選挙を導いたものである。

(五)  加藤千太郎の右選挙の得票数は一万四千三百五十七票である。そこで同人の得票の有無は、他の候補者全般の当選に重大な影響があり、従つて、右選挙の規定の違反は、本件の選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあることが明かである。

(六)  よつて原告らは、昭和二十六年五月二日東京都選挙管理委員会に異議の申立をしたところ、同委員会は、昭和二十六年六月六日異議申立棄却の決定をなし、原告らは同月八日決定書の交付を受けたが、これには不服であるから、本訴において、足立区における前記選挙を無効とする旨の判決を求める。

(証拠省略)

被告は、主文第一項同旨の判決を求め、次のとおり答弁した。

(一)  原告らが、本件選挙の選挙人であることは認める。

(二)  加藤千太郎が、原告ら主張の候補者届出書に、職業として、自動車運転手と記載し、かつこれに原告ら主張の公務員のまゝ立候補することのできる証明書を添付したことは認める。

(三)  加藤千太郎が、戦傷によつて右手首を失い、当時自動車運転手の免許を持つていなかつたことは知らない。

(四)  加藤千太郎が東京都交通局の自動車運転手であることは認める。選挙長田中広吉は、原告ら主張の公務員のまま立候補することのできる証明書によつて、加藤千太郎の職業が自動車運転手であることを確認し、同人の候補者届出書を受理したので、その間何らの違法がない。

(五)  右選挙における加藤千太郎の得票数は認める。

(六)  原告らの異議申立、これに対する決定、及びその送達についての主張事実は、これを認める。

(証拠省略)

三、理  由

原告らが昭和二十六年四月三十日執行された東京都足立区における東京都議会議員選挙の選挙人であること、原告らが、その主張のように異議の申立をなし、申立棄却の決定書の交付を受けたことは、当事者間に争いがない。

しかして、また、右選挙に立候補した加藤千太郎が、選挙長に提出した候補者届出書に、職業として、自動車運転手と記載したこと、選挙長が、これをそのまゝ受理したことも、当事者間に争いがないが、原告らは、右職業の記載は虚偽であり、選挙長は、その虚偽であることを知りながら、これを受理したもので、これは選挙の規定に違反すると主張するので、案ずるに、証人加藤千太郎の証言及び成立に争いのない乙第四、五号証を合わせ考えれば、加藤千太郎は、昭和三年から東京市電気局に自動車運転手として雇われ、自動車の運転に従事してきたが、のちに、昭和九年以来度々東京都交通労働組合の専従者に選挙され、本件立候補届出当時は、東京都交通局に自動車運転手として雇われながら、右労働組合の事務をとり、現実には、自動車の運転をしていなかつたこと、また同人は、昭和十七年十二月十四日以前には自動車運転免許を受けていたが、応召中免許期間が経過し、その後は免許を受けることができなかつたことを認めることができる。このように加藤千太郎が、東京都交通局に自動車運転手として雇われている以上、たまたま同人が本件立候補当時労働組合の事務に専従していたため現実には自動車の運転をなさず、また免許も失効中であつたとしても、同人の社会的職域は即ち自動車運転手であると認むべく、同人が本件立候補届出書にその職業を自動車運転手と記載したことは決して真実に反するものではない。

従つて該記載はまた、東京都交通局長作成の公務員のまま立候補することができる証明書の記載と相違するということもいえない。

それ故加藤千太郎の候補者届出書を右交通局長の証明書と共にそのまま受理して、本件選挙を施行した選挙長及びその指揮下の職員の行為は、別段選挙の規定に違反したものではなく、この点においてすでに原告らの主張は理由がないから、その余の点について、判断する迄もなく、原告らの請求を失当として棄却すべく、訴訟費用は民事訴訟法第八十九条により敗訴の当事者たる原告らの負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判官 斉藤直一 藤江忠二郎 猪俣幸一)

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