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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1040号 判決

(一) 第一、控訴人岡田勝平、同西村留吉、同小池鶴吉、同榎本きみの被控訴人立石知正に対する請求について。

被控訴人石井常吉が以前被控訴人立石から、その所有にかかる別紙目録記載の第一ないし第四の土地を賃借していたところ、右賃借権は東京都の昭和十九年五月三十一日の第五次強制疎開に際し、東京都に買収せられて消滅したこと、及び昭和二十一年四月二十五日該強制疎開は解除となり、右土地は東京都からその所有者である被控訴人立石に返還されたことは、右当事者間に争がない。

そして証拠によれば、控訴人岡田、同西村、同小池、同榎本等は昭和十九年五,六月当時それぞれその主張のように被控訴人立石所有の右第一ないし第四の土地上に建てられてあつた被控訴人石井所有の建物を賃借していたところ、右建物はいずれも当時行われた前記第五次強制疎開によつて除却せられたことが認められ、右控訴人等四名が昭和二十三年九月十三日到達の書面をもつて、前記土地の所有者である被控訴人立石に対し、臨時処理法第二条、第九条にもとずき右各土地の賃借の申出をなしたところ、同被控訴人から法定期間内にその申出を拒絶せられたことは、右当事者間に争がないところである。

被控訴人立石は、該土地は同被控訴人において、右控訴人等から賃借の申出のあつた以前、昭和二十一年七月中訴外厨川末吉にこれを賃貸し、同訴外人は同年十二月三十日ここに木造平家建十二棟十六戸建の建物を建築して現に右土地を使用していたのであるから、右控訴人等の土地賃借申出は失当である旨抗争するについて審按する。右当事者間において成立に争のない乙第一号証の一、二、原審証人菅原仁寿の証言によつてその成立の認められる同第一号証の三等の証拠を総合すれば、被控訴人立石は和和二十一年七月中訴外厨川の懇請により、前記第一ないし第四の土地を、賃料一ケ月金三十六円八十八銭、期間一年とし、事情によりその期間を延長することができる約定で、同訴外人に対しマーケット用建物所有のため賃貸し、訴外厨川は建築許可を得て昭和二十一年十二月末頃までに、右土地上に木造平家建建物を十数戸建築したが、その後当事者合意の上期間の定めのない賃貸借に改め、同訴外人においてその建物所有の目的をもつて、引続き右各土地を使用していることを認めるに十分である。

もつとも右当事者間に成立に争のない甲第九号証(第五地区換地予定調書)、同第十号証(第五地区換地予定地位置図)、同第十一号証(図面)には、本件各土地の表示に△の符号が附されてあり、当審証人照井源治の証言によれば、右は土地所有者自用地の符号であることが認められるけれども、さらに同証人の証言によれば、本件土地一帯は昭和二十一年十月一日区画整理地区に指定されたので、東京都の当該区画整理課においては各土地所有者に対し昭和二十二年三月頃、貸地もしくは自用地についての申告をなさしめ、その申告にもとずいて昭和二十四年頃に右甲第九ないし第十一号証のような書面図面が作成せられたものであることが認められるから、被控訴人立石において右土地についての厨川との賃貸借の期間が一年と定められていた当時、区画整理の将来を見越して自用地として申告した結果、右各書面図面に自用地の符号が附されたものとも推認せられる。又同成立に争のない甲第十三号証の一ないし三及び五(各地区名第五地区土地所有権申告書)には、各本件土地の貸付内訳欄に、貸地又は自用地区分ー貸地、権利種別ー借地権、貸付期間ー一ケ年、借地人ー厨川末吉等の記載があるが、右貸地、借地権、一ケ年厨川末吉等の文字は全部赤線にて抹消せられていることが認められるけれども、当審証人菅原仁寿の証言によれば、右土地についての訴外厨川との賃貸借は当初の期間は一年の定めであつたので、被控訴人立石において右甲号各証の申告書にそのまま記載したところ、区画整理事務所においてはわずか一年の期間では借地権を認めることができないというので、訴外厨川の借地権についての記載を抹消したものであることが認められる。したがつて右甲第九ないし第十一号証、第十三号証の一ないし三及び五も、前段認定をなす妨げとなるものではない。その他右認定を左右するに足りる確たる証拠はない。

なお右控訴人等は、本件土地上の各建物はいずれも臨時建築物(臨時マーケット)であるから、臨時処理法第二条第一項但書の「権原により現に建物所有の目的で土地を使用する」場合に該当しない旨主張するけれども、証拠によれば、本件土地附近は区画整理上公園、緑地、道路等にする予定であつたから、木造二階建以上の建物を建築することは許可されず、且つ建築許可された建物も臨時建築物の取扱を受けていたが、訴外厨川が右土地上に建築した建物は、当時としてはマーケットとして立派な建物であつたことが認められ、右建物が訴外厨川の被控訴人立石に対する土地賃借権にもとずいて建築せられたものであることは、前説示のとおりであつて、しかも臨時処理法第二条第一項但書の規定は、土地使用の権原が賃貸借、使用貸借もしくは一時使用貸借によることを区別せず、又その建物が恒久的建物たると臨時的建物たるとにかかわらず、いやしくも正当の権原によつて現に建物所有の目的で土地を使用している場合に関するものと解すべきであるから、右控訴人等の主張は理由がない。

さすれば右控訴人等が本件土地に対する賃借申出をなした昭和二十三年九月十三日当時には、すでに訴外厨川が右土地を権原によつて建物所有の目的で使用していたのであるから、臨時処理法第九条第二条第一項但書の規定上、疎開建物除却当時におけるその建物の借主であつた右控訴人等と雖も、被控訴人立石に対し有効に賃借申出をすることができなかつたものというべきであつて、被控訴人立石の前記抗弁は理由があるものといわなければならない。したがつて右控訴人等の本訴請求は爾余の争点についての判断を俟つまでもなく失当であるから、これを棄却すべきものとする。

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