大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1049号 判決

控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴人訴訟代理人において「(一)本件訴願の原因である本件土地に対する堅倉村農地委員会の買収計画につき控訴人(当時茨城県農地委員会と称した以下同じ)が、さきに昭和二十四年六月三十日になした承認は、その後昭和二十五年十二月二十二日同委員会代行者茨城県知事によつて取消され、更に当該買収計画自体が昭和二十六年一月十一日堅倉村農地委員会によつて取消され、その旨の通知が同日中に被控訴人になされている。従つて訴願の裁決もその基盤である買収計画が取消された以上、あえてその取消を俟つまでもなく当然失効し、被控訴人において本件訴訟追行の利益を欠くものである。(二)しかも本件取消訴訟の対象となつている訴願棄却の裁決は、昭和二十六年三月一日の茨城県農地委員会(控訴人の前身)の議決によつて取消され、その頃被控訴人に対しその旨の通知がなされているから、右訴願棄却の裁決の取消を求める本訴はその目的を失い全く訴の利益がない。」と述べ、被控訴人訴訟代理人において「控訴人主張の村農地委員会の買収計画及びこれに対する県農地委員会の承認並びにこれらの各取消があつて、その旨被控訴人に通知されたことは争わないが、本件訴願棄却の裁決の取消及びその通知が被控訴人に対してなされたとの点は否認する。しかし被控訴人の提出した甲第四、第五号証によれば、右買収計画承認の取消は、自作農創設特別措置法第四十七条第三項により茨城県知事が同県農地委員会の権限に属する事項を代行してこれをしたもののようであるが、右の場合同条項の適用によつて、かかる代行をなし得ないこと、右法条の趣旨に照らし明らかであるから、右買収計画承認の取消は無効のものである。いずれにしても本件訴願棄却の裁決が判決によつて取消されない以上右裁決の趣旨に反する前記買収計画乃至承認の各取消が適法且つ有効なりや否や終局的に判明しないわけであるから、被控訴人において本件訴願棄却の裁決の取消を求める法律上の利益あるものである。」と述べた。外は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。(証拠省略)

三、理  由

茨城県東茨城郡堅倉村農地委員会が昭和二十四年三月三十一日被控訴人主張の土地につき農地(畑)として買収計画を樹てたこと、及び被控訴人がこれに対し同年四月十日同農地委員会に異議の申立をしたところ却下されたので、更に同年五月六日控訴人委員会に訴願をしたが、これまた同年六月三十日の裁決で棄却され、同年七月二十三日被控訴人がその裁決書の謄本を受領したことは、当事者間に争のないところである。

控訴人は前掲事実摘示の(一)及び(二)の事由を主張して、被控訴人において本件訴願棄却の裁決の取消しを求める法律上の利益なしと主張するから、先ずこの点につき審究する。

(一)  について。

前記堅倉村農地委員会の農地買収計画樹立から、被控訴人が訴願棄却の裁決書の謄本を受領したまでの経過は、冒頭判示のとおりであつて、右裁決の日である昭和二十四年六月三十日、右農地買収計画につき同県農地委員会の承認があつたこと、その後昭和二十五年十二月二十二日茨城県知事が自作農創設特別措置法第四十七条第三項により、同県農地委員会の権限に属する事項を代行して右承認を取消し(但し右代行による取消が適法且つ有効なりや否やの点を除く)、前記村農地委員会が昭和二十六年一月十一日さきに定めた本件農地買収計画を取消し、その旨同日被控訴人に通知したことはまた当事者間に争のないところである。

以上の事実によつて考えてみると、右農地買収計画の承認取消並びに農地買収計画の取消は、訴願棄却の裁決があつた後になされたものであつて、かくの如く訴願庁たる県農地委員会の訴願棄却の裁決があるに拘らず、原処分庁たる村農地委員会が訴願の対象となつた処分を、違法不当として自ら取り消すことが許されるかどうか、訴願法第十六条の規定その他に照らし法律上疑義あるを免れず、被控訴人としては、右買収計画の取消あるも、これと牴触する右訴願棄却の裁決の現に存する以上は、右法律上の障害を除くため、判決によつて右裁決の取消を求める利益ありと謂うべく、単に形式上前記訴願の対象となつた農地買収計画の取消のあつた一事を以て、本件訴訟追行の利益なしと断じ難い。

(二)  について。

控訴人の主張によれば、本件取消訴訟の対象となつている前記訴願棄却の裁決は、昭和二十六年三月一日県農地委員会の議決によつて取消され、その頃被控訴人に対しその旨の通知をしたと謂うのであるが、成立に争のない乙第一、二号証の記載を対象してみると、乙第二号証は、昭和二十六年三月三日附の茨城県農地委員会長から同県東茨城地方事務所長及び堅倉村農地委員会長経由被控訴人宛の本件訴願棄却の裁決が昭和二十六年三月一日の同県農地委員会の議決によつて取り消された旨の通知書の写であつて、右書面はその記載によつて明らかなように右堅倉村農地委員会長を経て被控訴人に交付せらるべき文書(なおこれとの関連において訴願法第十五条参照)なるに、乙第一号証は、茨城県農地委員会長から水戸地方裁判所民事部宛の前記乙第二号証(写)と同一内容の書面を同委員会から被控訴人に送付した旨の報告書であつて、直接被控訴人に前記通知書を交付すべき経由庁である堅倉村農地委員会長の報告書でもないから、右乙第一、二号証によつては少くとも訴願棄却の裁決の取消の書面を訴外人である被控訴人に交付済であることを肯認するに由なく、真正に成立したと認める甲第六号証も堅倉村農業委員会において調査の結果前記乙第二号証と同一書面が同委員会に送達済なることが判明したとの報告書に過ぎず、これによつてもまた被控訴人に対して右裁決取消の書面を交付済であることを認めるに足らない。してみると仮りに控訴人主張のような訴願棄却の裁決の取消が、同一訴願庁によつて適法になされ得たとしても、訴願人たる被控訴人にその取消の書面が交付せられない限り(訴願法第十五条参照)右取消の効力は被控訴人に対し未だ発生しないものと断ずるの外なく、右裁決の取消が効力を発生したことを前提として、前の訴願棄却の裁決の取消を求める訴の利益なしとする控訴人の主張も採用できない。

よつて進んで本案の請求につき按ずるに、当裁判所が被控訴人の本訴請求を正当とする理由は原判決理由に説示するところと同一であるから、ここにこれを引用する。

従つて被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条に則り本件控訴を棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

原審判決の主文および事実

一、主  文

被告茨城県農地委員会が昭和二十四年六月三十日別紙目録記載の土地に付き為した訴願棄却の裁決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求の原因として、別紙目録記載の土地は原告の所有であるが、堅倉村農地委員会は昭和二十四年三月三十一日右土地に付き農地(畑)として買収計画を樹てたので、原告は之に対し昭和二十四年四月十日同農地委員会に異議を申立てたところ同月二十七日却下されたので、更に同年五月六日被告茨城県農地委員会に訴願をしたがこれ亦同年六月三十日の裁決で棄却され原告は同年七月二十三日其の裁決書を受取つた。然し前記買収計画には次のような違法がある。即ち(一)被告は本件土地を畑として買収しようとしているが、同土地は地目は畑であるが昭和十四年頃以来宅地となり、現に建物の建設してある現況宅地であるから之を買収するには宅地買収の手続に依らなければならない。然るに畑買収と宅地買収とは其の目的を異にし法規の基準も違うから、宅地たる本件土地を畑として樹てた買収計画は違法である。(二)本件土地は原告の祖先が長年月をかけて辛苦して開発した血と汗との結晶であるから之を買収するには対価として反当り米五十俵を相当とするところ、現在対価として定められている価格は僅かに闇米二、三升の価格に過ぎないものであつて貴重な所有権の代償としては余りにも不均衡であるから斯かる対価を以てする買収計画は違法である。(三)右のように買収対価が極めて低廉であつて所有者に著しく不利益である反面、之が売渡を受ける小作人は殆んど無償に等しい対価で取得できるので其の間の均衡を甚しく失する為自作農創設特別措置法が上程された際当局は買収計画を為すに当つては事前に地主に予告交渉することにした旨答弁した程であるのに、堅倉村農地委員会は本件土地の買収に当り所有者たる原告に対し何等交渉もせずに買収計画を樹て、其の旨の公告をしたのみで之を確定せんとしたものであるから其の手続に違法がある。(四)原告が所有する農地の面積は本件土地を含めても三町五反七畝十五歩に過ぎないので保有面積三町七反以内であるから、之に対し樹てた買収計画は違法である。従つて右違法な買収計画を維持し、原告の為した訴願を排斥した被告茨城県農地委員会の処分も亦違法たるを免れないので、原告は其の取消を求める為本訴請求に及んだと述べた。(立証省略)

被告茨城県農地委員会訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め答弁として原告主張事実中、(一)乃至(四)の点を除き総て認めるが右(一)乃至(四)は否認する。なお右(一)に対し本件土地は宅地ではなく原告主張の地目通り畑である、又同(二)に対し買収価格は法規に準拠して決定されたものであるから違法ではない、と述べた。(立証省略)

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