大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1667号 判決

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、すべて原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

昭和二十三年十二月一日被控訴人が控訴人に対し、東京都千代田区神田神保町一丁目二十七番地所在木造亜鉛葺二階建二戸建家屋一棟建坪八坪八合二階八坪三合の内、向つて右側の一戸建坪四坪四合二階四坪一合五勺を、賃料一ケ月金五十五円毎月二十八日払の約で、期間の定めなく賃貸したこと、その後当事者合意の上昭和二十五年八月一日以降の賃料を一ケ月金千円に増額したことは、当事者間に争がない。

次に成立に争のない甲第一号証の一、二によれば、被控訴人は控訴人に対し、昭和二十六年三月二十八日附書面を以て、控訴人において昭和二十五年十二月一日以降同年三月分まで前示増額による賃料計四千円の延滞があるとして、右延滞賃料を右書面到達の日から三日以内に支払ありたい旨の催告並びにこれが支払のないときは前記賃貸借契約を解除すべき旨の条件附解除の意思表示を発し、右書面は同月二十九日控訴人に到達したことが認められる。

よつて控訴人主張の抗弁につき判断する。

(一)  先ず本件賃借建物に関する前示賃料値上の特約が、地代家賃統制令との関係上果して有効であるかどうかを審究するに、この点に関する当裁判所の判断は原判決理由第三段以下に説示するところ(判断の前提たる事実の認定をも含む)と全く同一であるから、ここにこれを引用する。即ち前示値上の特約は原判示停止統制額の範囲内即ち昭和二十五年八月一日以降同二十六年二月末日までは一ケ月金四百四十円、同年三月一日以降は同金六百八十七円八十九銭の限度において有効であるが、これを超える部分については無効であると断ぜざるを得ない。

(二)  次に成立に争のない乙第一乃至第三号証と原審における被控訴人本人訊問の結果並びに原審証人堀江藤子の証言(但し後記措信しない部分を除く)を総合すると、控訴人は昭和二十六年二月二十八日までの間に、昭和二十五年八月分から同年十一月分まで前示値上の特約による月額千円の約定賃料として合計金四千円の支払をしているが、その後は賃料の支払をなさず、前記催告に対しても新たに賃料の支払は勿論、何等特段の意思表示もせず、そのまま右催告期間を徒過したことが認められる。尤も成立に争のない乙第四、第五号証及び前顕堀江藤子の証言の一部によると控訴人は被控訴人に対し、本件家賃の支払として昭和二十五年十二月末頃及び同二十六年一月末頃、各千円宛合計二千円を郵便小為替により送金したことを認め得るけれども、前顕乙第一、二号証(いずれも家賃領収証)の日附と対照し且つ前顕被控訴人本人訊問の結果に徴すれば、右郵便小為替による送金分は、前段認定の既払分の家賃の中に包含されていることは明白であつて、これに反する前記堀江藤子の供述部分は信を措き難いところであるから、控訴人の抗弁中、控訴人において前記催告までに前認定の額金四千円以上の金員の支払を了したとの事実は到底之を肯認することはできない。

(三)  以上認定の事実に照らし本件催告並びに条件付解除の意思表示の適否につき按ずるに、控訴人が右催告までに昭和二十五年八月分以降同年十一月分までの値上げによる約定賃料として支払つた金四千円については、前示統制額を超過する部分はもとより過払となる筋合であるけれども、前段認定の如く控訴人は右催告にかかる昭和二十五年十二月分以降同二十六年三月分までの賃料の支払請求に対し、右過払金を以てこれに充当するとか、或は右過払金返還債権と相殺する等の特段の意思表示もせずに、右催告期間を徒過したものである以上、昭和二十五年十二月分以降の賃料債権が当然消滅に帰するいわれなく、従つて控訴人としてはこれが履行遅滞の責を免れることはできない。

尤も前記催告に係る賃料は、特約による月額千円の割合による額で、もとより過大の請求ではあるが、債務の同一性に影響なく且つ又前示認定の合法な値上額を提供するも相手方において受領しない意思が明確であつたとの特別の事情の認められない本件にあつては、右の如く過当の請求であるとの一事を以てその催告の効力を否定すべきものではない。

してみると本件賃貸借は、前記催告期間満了の日である昭和二十六年四月一日の経過と共に、有効に解除せられたこと明らかであるから、控訴人は被控訴人に対し、前記建物の明渡並びに昭和二十五年十二月一日から右解除までの賃料及び解除後右明渡済まで賃料相当の損害金として、前示認定の統制額の限度の金員の支払義務あるものと謂わねばならぬ。

仍て被控訴人の本訴請求を右の限度で認容した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条に則り本件控訴を棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第八十九条第九十五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斉藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

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