東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1782号 判決
次いで原審及び当審における証人長谷川ミス、長谷川佐一の各証言、同被控訴人及び控訴人の各供述、その成立に争のない甲第一号証、右被控訴人の供述によつて真正に成立したと認める甲第七号証の一及び三、四によれば、控訴人は先代伝蔵の死後永く他所へ行つていたが、昭和二十年再びこの地に帰つて住むこととなつたので、被控訴人に対し改めて前記土地の賃借を申し込み、昭和二十一年一月一日から前記土地百七十二坪を賃料年三十九円六十銭毎年末日支払の約で賃借することとなり、昭和二十二年三月十日、同二十一年度分の賃料の支払をしたが、その後全然賃料の支払をしなかつたことを認めることができる。そこで被控訴人が控訴人に対し、昭和二十三年九月十三日、同二十二年度分の賃料三十九円六十銭を同月二十日までに支払うように催告したが、控訴人はこれに応ぜず、次いで被控訴人は昭和二十五年九月二十六日右賃貸借契約解除の意思表示をなしたことは、当事者間に争がない。控訴人は被控訴人の右契約解除権の行使は権利の濫用であると主張するが、当審及び原審における控訴人の供述と弁論の全趣旨とを併せ考えると、控訴人は、前述のように自ら賃借の申込をしながら、その後間もなく被控訴人の土地所有権を否認したために前記賃料の支払をしないようになつたものであつて、しかもその間これを否認するについて十分な根拠もないことが認められる。すでに以上のように賃貸地の所有権を否認し、賃貸借関係の基本をなす信頼関係が根底から覆されたような事情の存する場合、賃貸人としては無為に延滞賃料が多額にかさむのを待つ必要なく、賃貸借関係を解消しようとすることは、まことに止むを得ないことであつて、延滞賃料額の少ないからといつて、右契約の解除を権利の濫用とはいい難く、その他控訴人の主張の理由も採用できない。して見れば、被控訴人控訴人間の前述の土地賃貸借契約は、右解除によつて消滅したものであるから、控訴人は被控訴人に対し、右地上に存する前記建物を収去して、右土地を明け渡す義務がある。