東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1880号 判決
横浜地方裁判所横須賀支部昭和二十五年(ワ)第六十二号株主総会決議無効確認事件について同裁判所支部が昭和二十六年七月三十一日言渡した判決に対し、控訴会社代表取締役山崎勇は控訴会社の代表者として、又、控訴人補助参加人山崎勇外二名は控訴人の補助参加人として、それぞれ当裁判所に控訴状を提出して控訴を提起した。
よつてまず右控訴の適否について審査する。
本件控訴の提起に当り控訴会社の代表者となつた山崎勇は、控訴会社の代表取締役であるところ、横浜地方裁判所横須賀支部の昭和二十五年八月二十九日附仮処分決定によりその職務の執行を停止せられ、同時にその代行者として梅津芳三が選任せられ、同月三十日それぞれその旨の登記を了したが、右梅津芳三は、同月二十九日千葉武哉外二名と共に原告として控訴会社に対し本訴を提起していたので、本訴において控訴会社を代表することができなくなつた。そこで同人等は、同年十月二日受訴裁判所である同裁判所支部の裁判官に対し特別代理人選任の申請をなし、同裁判所支部裁判官石原辰次郎は、右申請を容れ、同年十一月八日弁護士久留義郷を本訴について控訴会社の特別代理人に選任し、爾来同弁護士において控訴会社の特別代理人として本訴を追行し、ついに昭和二十六年七月十一日口頭弁論の終結を見、同月三十一日判決の言渡があり、その判決正本は、同年八月四日同弁護士に送達せられた。そして、本件控訴状が当裁判所に提出せられたのは、同年九月五日である。
以上の事実は、いずれも記録上明らかなところである。
ところで本件において問題となるのは、右控訴会社の特別代理人久留義郷が判決正本の送達を受けた後もなお特別代理人としての代理権を有しているかどうか、殊に上訴についての特別権限を有しているかどうか、及び山崎勇がその停止せられた控訴会社の代表取締役としての権能を回復し本訴において控訴会社を代表しうるにいたつたかどうかである。
特別代理人の選任がその審級に限りなされているとすれば、上訴の権限なき限りその代理権はその審級における判決正本の送達と同時に消滅し訴訟手続は中断することは論をまたないところであり、又その間においても本来の法定代理人、代表者又は当事者本人が完全に訴訟行為をなしうるにいたつたときはその代理権は当然消滅し同様訴訟手続の中断を来すことも説明を要しないところである。しかしながら、本件において、控訴会社の特別代理人久留義郷の選任命令書には単に同人を本訴について控訴会社の特別代理人に選任する旨の記載があるだけで特に第一審に限る旨の文詞なく、又上訴についての特別授権は特に明記されていないけれども、訴の取下、和解、請求の放棄又は認諾等とちがい、個別的に明記するを要せず、右につき一般的授権さえあればよいものと解すべきところ、特に第一審に限る旨の制限のないところからみて、同人は上訴についての権限をも有するものと解するのが相当である。そして、又、第一審判決正本の送達のあつた時までは固よりその後においても、控訴会社代表者山崎勇がその職務の執行停止をとかれ、又は、その職務代行者梅津芳三が本訴を追行しうるにいたつた証左がない。果して然らば、本訴において控訴をなしうるは、ひとり特別代理人久留義郷のみであつて、その提起期間は同人に対し第一審判決正本の送達のあつた昭和二十六年八月四日の翌日より起算し二週間内に限るものといわなければならない。従つて、控訴会社代表取締役山崎勇のなした本件控訴は、右控訴期間経過後になされた不適法なものであるばかりでなく、仮りに右久留義郷に上訴の権限なく訴訟手続の中断を来しているものとしても、まず第一審裁判所に受継の申立をなし、しかる後控訴を提起するか、少くとも当裁判所に受継の申立をなすと同時に控訴状を提出することを要するにかかわらず、右山崎勇は、単に控訴状を提出したのみで受継の申立をなさず、さらに、同人が控訴会社を代表して控訴を提起する権限のあることも記録上証明されないのであるから、同人のなした本件控訴はいずれの点からしても不適法であるといわなければならない。
次に山崎勇、山崎とめ及び山崎五郎がそれぞれ原審における被告(控訴会社)の補助参加人であつたことは記録上明らかであり、従つて同人等が原判決に対し独立して控訴を提起しうることは、民事訴訟法第六十九条の規定に照し疑のないところであるけれども、補助参加人は、その補助参加の性質上、被参加人のために定められた控訴申立期間にかぎつて控訴の申立をなしうべく、又、訴訟手続中断中においては、受継申立後又はそれと同時になしうべきものといわなければならない。しかるに本件補助参加人等の控訴申立は、昭和二十六年九月五日なされているのであつて、しかも受継の申立もないのであるから、前記被参加人である控訴会社のため定められた控訴期間経過後の控訴申立であるか、又は、第一審判決が控訴会社特別代理人久留義郷に送達せられた後訴訟手続の中断ありたるものとすれば、右中断中の控訴申立であつて、いずれにしても不適法であるといわなければならない。
よつて、本件各控訴は、いずれも民事訴訟法第三百八十三条によりこれを却下すべく、控訴会社代表取締役山崎勇のなした控訴の費用については、同法第九十五条、第九十八条第二項を適用して右山崎勇の負担とし、控訴人補助参加人等のなした控訴の費用については、同法第九十五条、第九十四条、第八十九条を適用して右補助参加人等の負担とすべく、よつて、主文のとおり判決した。
(裁判官 大江保直 梅原松次郎 奥野利一)