大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1967号 判決

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人株式会社三和銀行は別紙目録<省略>記載の約束手形三通につき被控訴人社団法人東京銀行協会に対してした不渡返還を受けた旨の届出を撤回すべし、被控訴人東京銀行協会は右約束手形三通につき不渡の旨の公示及び加盟銀行への通知をなすべからず、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とするとの判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において次のように述べた外原判決に事実として記載されたところと同一であるからここにこれを引用する。

(一)  本件でいう不渡処分とは東京手形交換所交換規則に定められるものであつて、(イ) 不渡の届出、(ロ) 不渡の公示(場内の掲示並びに加盟銀行への通知)、(ハ) 取引停止処分の三要素から構成されている。このうち(イ)は被控訴銀行の行為であり、(ロ)及び(ハ)は被控訴協会の行為であるが、被控訴銀行が(イ)の不渡の届出をした後でも、被控訴銀行の行為はこれをもつて終了しそれ以後はなんらの行為をもする余地がないというものではなく、また被控訴協会としては被控訴銀行から(イ)の不渡の届出があつたとしても必ずしも自動的機械的に右(ロ)及び(ハ)の行為をしなければならないものではないのである。本件三通の約束手形の支払拒絶は右東京手形交換所交換規則にいわゆる信用に関せざるものであるから、被控訴銀行としてはすでにした不渡の届出を撤回すべき義務があり、被控訴協会としては右(ロ)の不渡の旨の掲示及び通知をしてはならないものである。

(二)  本件約束手形三通の支払拒絶が控訴人の信用に関せざるものであるとするのは次の事情にもとずく。すなわち当初控訴人振出の金額五百万円の約束手形は訴外株式会社三菱商業株式会社専務取締役と称する光村忠三郎及び株式会社西口商店代表取締役西口東作らが共謀の上控訴人に対し他で割引の上割引金を交付する旨申向け、その旨誤信せしめて振出さしめて騙取したものにかかり、被控訴銀行はこの事情を知りながら右約束手形の譲渡を受けた悪意の取得者である。本件約束手形三通は右金五百万円の約束手形の支払を延期しその内金四百五十万円の支払を担保するために振出したものであつて、この事情はもとより被控訴銀行においても承知の上その所持人となつたものであるから、控訴人としてはその当初の金五百万円の約束手形につき支払義務のない以上本件約束手形三通についてもその支払の義務はない。従つて本件手形の支払を拒絶することはなんら控訴人の信用に関するものではないのである。

(三)  被控訴協会の東京手形交換所交換規則に定める不渡処分の規定は憲法に違反する無効なものである。すなわち右規則はたんに営利法人の内部的契約にすぎないのに手形取引の信用の向上とその安全を保持するとの美名を借りて主として加盟銀行以外の第三者の利益を害する結果を招来する規定をしている。元来不渡処分の効果は手形上の請求権と別個に発動するものであるが、不渡処分に付せられた者に対し三年間加盟銀行との間の取引を停止してその経済的活動を封じ(規則第二十二条第一項)、また甚だしきは「手形裏書人にして償還請求を履行せざる者又は手形交換所を経由せざる手形の支払を怠りたる者其他銀行の取引に関し信用を毀損する行為を為したる者に対しては関係銀行の申立により理事は審査委員の審議を経て取引停止の処分をなすことを得る(規則第二十二条第二項)」というのであるから、これらの規定は

(イ)  憲法第十四条第一項中総ての国民は法の下に平等であつて経済的に差別されないという条規に違反している。すなわち手形上の請求権の外に不渡処分という過重な負担、破産以上の過酷な破滅的負担を負わされる結果となるのみならず、当該社団法人組織地域以外の銀行取引をする者にはこのような不渡処分制度が存在しないのであるから日本国内において地域的に経済不平等が生じ憲法の精神に反するものである。

(ロ)  憲法第十八条前段に何人もいかなる奴隷的拘束も受けないとある条規に、その効果において実質的に違反するものである。

(ハ)  憲法第二十一条第一項財産権はこれを侵してはならないとあるに違反する。手形の請求権以外に測り知るべからざる過重冷厳な損害を被るからである。

(ニ)  憲法第三十一条何人も法律の定める手続によらなければその生命もしくは自由を奪われないとあるに違反する。けだし手形交換規則は法律の定める手続ではないのにこれにより人はその自由を奪われ、遂にはその生命さえも失うにいたるからである。

<立証省略>

三、理  由

被控訴人社団法人東京銀行協会が東京手形交換所を経営し、その各社員銀行(加盟銀行)において収受した手形小切手等を交換決済する業務を行つていること、被控訴人株式会社三和銀行は被控訴協会の社員銀行であるが、別紙目録記載の三通の約束手形につき被控訴協会に対し不渡の届出すなわち右手形を交換所に持出し交換に付したところこれを受入れた株式会社大阪銀行大森支店からその支払を拒絶されその返還を受けた旨の届出をしたことは当事者間に争がない。成立に争いがない乙第一号証の記載によれば、被控訴協会の東京手形交換所における手形交換については被控訴協会の定めた内部規律である東京手形交換所交換規則の定めるところによるのであるか、これによれば手形の不渡に関しては次のような規定があることが認められる。

第二十条 当交換所において交換したる手形の内支払に応じ難きものあるときはこれを受入れたる銀行はその手形に不渡の事由を附記し速にこれを持出したる銀行に返還しその「代り金」を受取るべし。

前項の不渡手形の返還は当日の営業時限を過ぐることを得ず。(後略)

第二十一条 手形の返還を受けたる銀行は所定の書式により翌日交換開始時刻までにその旨を当交換所に届出づることを要す。但し支払義務者の信用に関せざるものと認めたる場合はこの限りにあらず。

前項の届出ありたるときは常務理事は直ちにこれを交換室に掲示し不渡の翌々日営業時限までに届出銀行より取消の通知なきときは取引停止の処分をなすべし。但し取引なき銀行を支払人又は支払場所に指定したる者及び一カ年内に二回不渡をなしたる者に対しては即時に取引停止の処分をなすものとす。

本条の届出に対しその手形の返還をなしたる銀行が信用に関せざるものと認め不渡の翌日営業時限までに不渡手形金額に相当する現金を提供して異議の申立をなしたるときは取引停止処分を猶予するものとす。この場合においては常務理事はその旨を届出銀行に通知するものとす。

第二十二条 当交換所において取引停止の処分をなしたるときは社員銀行はその通知の日より三年間その者に対して当座勘定及び貸出の取引をなすことを得ず。但し旧債権保全のため貸出をなす場合はこの限りにあらず。

手形裏書人にして償還義務を履行せざる者又は手形交換所を経由せざる手形の支払を怠りたる者その他銀行の取引に関し信用を毀損する行為をなしたる者に対しては関係銀行の申立により理事は審査委員の審議を経て取引停止の処分をなすことを得。

被控訴人はこれらの規定は憲法に反するものであるから、被控訴人らは右交換規則によつて不渡処分の手続をし得ないものであると主張するので按ずるに、右不渡の届出にはじまり取引停止処分に及ぶ一連の手続は、要するに手形交換の円滑な運用を担保するとともに、手形支払の義務ある者が故なくその義務を尽さないときはこの者の信用について一応疑いを生ずるのでこの者との取引を互いに警戒するためのものであることは明らかであつて、契約自由の原則の存する以上被控訴協会の社員銀行が信用について疑のある者との取引を拒むことはもとより当然のことであり、なんら憲法の条規に反するものではない。控訴人主張の憲法第十四条、第十八条、第二十一条、第三十一条はこのような場合を規定したものとは解することができないから、この点の控訴人の主張は失当である。

よつて控訴人のその余の主張につき按ずるに、先ず、被控訴銀行に対する関係について見ると、控訴人が昭和二十五年七月八日訴外三菱商業株式会社を受取人として別紙目録記載の約束手形三通を振出し、これらの手形に右訴外会社及び訴外株式会社西口商店が順次裏書の上被控訴銀行がその所持人となり、被控訴銀行においてこれを東京手形交換所の交換に付したところその支払の拒絶があつたので、被控訴銀行は右交換規則第二十一条によつて前示のように不渡の旨の届出をしたものであることは被控訴銀行の認めるところである。従つてもし右約束手形三通の支払拒絶が同条第一項但し書にいう「支払義務者の信用に関せざるもの」であるならば、被控訴銀行のした右不渡の届出は不当であつて、被控訴銀行としては一たんその届出をした後といえどもその撤回をなすべきものであることは事理の当然といわなければならない。右乙第一号証によれば右交換規則には直接この旨の規定はないが、不渡の届出にはじまり取引停止処分に及ぶ一連の手続の趣旨が前段説明のようなものである以上支払義務者とされた者の支払拒絶であつても、なんらその信用に関しないものであるならば、右のような手続をとる必要はないことは明らかであるからである。

よつて本件約束手形三通の支払拒絶が右にいう支払義務者の信用に関しないものであるかどうかについて検討するに、原審における証人佐藤良輔の証言及び前示不渡処分の性質をあわせ考えれば、いわゆる信用に関しないものとは結局手形所持人に対して法律上支払の義務のない場合をさすものと解すべきものであることは明らかである。この点につき控訴人は、当初控訴人は昭和二十五年四月一日三菱商業株式会社を受取人として、金額五百万円、満期同年七月八日、支払地及び振出地ともに東京都大田区、支払場所株式会社大阪銀行大森支店なる約束手形一通を振出し、右手形は右訴外会社及び訴外株式会社西口商店の裏書を経て被控訴銀行がこれを取得したところ、右三菱商業株式会社というものは実在しない架空のもので、右手形は同会社取締役と称する訴外伊藤忠三郎(光村忠三郎)が同会社が実在するもののように装い、かつ株式会社西口商店代表取締役西口東作と共謀の上、割引名義の下に控訴人から騙取したものであつて、被控訴銀行はこの事情を知つて右手形を取得した悪意の取得者であるから、控訴人としては被控訴銀行に対しその支払の義務がないものであつて、本件三通の約束手形は右手形金の内金四百五十万円につき、その支払を延期し、かつその支払を担保するためのもので、その関係は被控訴銀行の知るところであるから、結局本件約束手形三通についても、控訴人に支払義務がないものであると主張し、控訴人がその主張の金額五百万円の約束手形を振出し、その主張の裏書を経てこれを被控訴銀行が取得したこと、本件約束手形三通が右金五百万円の内金四百五十万円につき振出されたものであることは、被控訴銀行の認めるところである。しかしながら控訴人の全立証によつても控訴人主張の金額五百万円の約束手形が控訴人において騙取されたものであつて、これを被控訴銀行が知つて取得したものであるとの事実は、とうていこれを認めることができない。もつとも右手形の受取人とされた三菱商業株式会社というものは存在しないものであることは、当審における証人光村忠三郎の証言によつて認め得るけれども、これは右会社の代表者としてこれに関与した光村忠三郎個人についてその関係を生ずるにとどまり、これによつて手形裏書の連続を欠くものとすることはできない。しからば右金五百万円の約束手形については控訴人は被控訴銀行の前者に対する関係はともかく、被控訴銀行に対してはその支払を拒み得ないものであるから、この手形金のうち金四百五十万円につき、その支払を担保するために振出したものであること控訴人の自認する本件約束手形三通についても、当初の金五百万円の約束手形金のうち金四百五十万円の支払がなされていないこと、本件口頭弁論の全趣旨により明らかである以上、その支払を拒み得ないものであることは明らかである。従つて本件約束手形三通について支払を拒絶することは、右交換規則にいう支払義務者の信用に関しないものであるとはいえないのであつて、被控訴銀行のした右不渡の届出は正当であり、その撤回を求める控訴人の請求は失当である。

次に被控訴協会に対する請求について検討するに本件約束手形三通の支払拒絶が右交換規則にいう支払義務者の信用に関しないものではない以上、被控訴協会が右交換規則によつてその後の手続をすることは当然であつて、控訴人においてこれが禁止を求めるべき権利はないことは明らかである。

よつて控訴人の本訴請求は理由のないものとして棄却すべきものであり、原判決は結局相当であるから、控訴人の本件控訴は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

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