東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2161号 判決
思うに借地法第一七条第一項但書にいう朽廃とは、同法第二条第一項但書にいうところと同じく、建物がその構造部分に生じた腐触状態により、全体として、もはや通常の保存方法によつてはその存立を維持し得ず、建物としての社会的経済的効用を失い、建物としてなんらの価値と意義を有しなくなつたものをいうと解すべきものである。
当審における検証の結果によると、本件建物は、木造建物部分の骨格部分というべき柱、桁、屋根の小屋組等の一部に多少の腐蝕個所のあることが見られるけれども、とにかくこれら部分の構造にもとずく自らの力によつて屋根を支えて独立に地上に存立しているものであり、もとより内部への人の出入に危険を感ぜしめるようなものではないことが認められる。もつとも現在この建物には周壁の大部分がなく、床、間じきりなど内部の造作がついていないことは右検証の結果によつて認められるところであるけれども、これは自然の作用によつてそうなつたのではなく、控訴人が前記修繕をし、かつ内部を歯科医院風に模様替するためにとりはずしたものであり、その途中で工事禁止の仮処分命令が執行されたのでそのままになつているものであること、本件における弁論の全趣旨によつて明らかである。したがつてむしろ、本件建物について現に見るような腐蝕部分は、日本海に面した寒冷のこの地帯で右仮処分以後相当長期にわたり雨露にさらされ、風雪におかされた結果、急速にその進行の度合をすすめたもののあることは容易に推認し得るところである。この現状からみて本件建物につきその存在を維持するためには、少くとも柱一本をとりかえ、屋根を部分的にでも葺きかえた上、右人為的にとり去られた周壁及び内部造作を再びそなえるならば、そのままで十分に通常の住居その他の使用に耐えるものであることはおのずから明らかである。しかも原審証人渡辺富松の証言によれば控訴人が右修繕にかかる直前までは控訴人においてこれを訴外渡辺富松に賃貸し渡辺において別段の支障なくこれに居住していたものであることを認めることができる。以上の事実によつて考えてみれば、本件建物は未だ建物としての社会的経済的効用を失う程度にはいたらないものであり、借地法第一七条第一項但書にいう朽廃の程度には達しないものというべきである。