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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2373号 判決

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方は事実上の関係につき原判決事実摘示と同一に陳述し、なお控訴代理人において「指名債権を担保の目的に供する方法としては、(イ)質権の設定、(ロ)担保の目的を以てする譲渡、(ハ)取立金を弁済に充当せしめる目的を以てする取立委任の三方式が行われている。しかして、(イ)は典型的の担保権の設定であり、(ロ)及び(ハ)は信託的の特約により経済上担保の目的を達せんとするものであつて、それぞれ一長一短の特質を備えているが、就中(ハ)の取立委任即ち代理受領の方式は第三債務者が質権設定又は債権譲渡を快しとしないような場合に、債務者と第三債務者とが普通に取引を継続しながらしかもその債権を事実上担保の目的に供しようとするときに用いられるのを常とする。即ちこの方式は債権質の場合と異り第三債務者を強く覊束しない所にその特色があるが、それ丈けに担保力は薄弱であつて、従つて債権者が債務者に強度の信用を置きうる場合であるとか、他にも有力な担保があつて、更に添加的に担保を徴する場合に、この方式に拠るのが取引界における実情である。かように債権の取立委任は受任者をして事実上委任者に属する債権を代つて行使せしめ、その取立金を特約により債務の弁済に充当せしめる限りにおいては担保的作用を営むことは明かであるが、法律上は飽くまでも債権者に対する代理受領の権限を付与する行為以外の何者でもなくこれと質権の設定とは截然別個のものであり、両者を同視混淆することはできない。」と述べ、被控訴代理人において「右控訴人の主張はすべてこれを否認する。本件の如く担保の為にする債権の取立委任を為す当事者の真意は、担保の目的たる債権が直ちに第三債務者から債権者に移転せず、しかも他の何者にもこれを侵されることなくして、終局的に第三債務者より債権者に直接支払われてその目的を達せんとするにあつて、終始これが完全なる実現を意図しているのであるから、これは取りも直さず質権設定そのものであり、本件においても表面質権設定なる文言こそ使用してないが、その趣旨は被控訴人が東京中島電気株式会社と連署して控訴人に差入れた本件委任状の文面上明白にこれを看取し得るのである。要するに本件債権は第三債務者たる控訴人により債権者たる被控訴人に対し、しかして被控訴人に対してのみ直接に支払わるべき意思の下に権利質を設定し、控訴人も当時これを承諾したものである。」と述べた。

<立証省略>

三、理  由

控訴会社と訴外東京中島電気株式会社(以下東中電気と略称する)との間に、被控訴人主張の各日時その主張のような各請負契約が締結され、控訴会社が昭和二十四年三月中右東中電気より該請負契約に基く製品全部を受領したことは当事者間に争なく、又原判決の挙示した証拠(原判決三枚目裏五ないし八行目所載)によれば、東中電気は控訴会社より原判決添付別表第一に記載する各物件の製作納入の注文を受けた際、所要資金の前渡が得られなかつたので、被控訴銀行よりこれが融通を受けることとなり、昭和二十三年十二月二十二日被控訴銀行及び東中電気より控訴会社に対し被控訴銀行を東中電気の代理人とし前記別表第一記載の代金債権の内金百二十万三千四百五十四円の請求及び受領を被控訴銀行に委任したから、該代金は直接被控訴銀行に支払われ度く、右委任契約は特種の委任契約であるから、特に両者連署の委任状を作成して置くのであつて、将来これを解除する場合も双方連署の上でなければ効力を生じないことを含み置かれ度い旨を申入れ両者連署に成るその趣旨の委任状(甲第一号証)を控訴会社に差入れたところ、控訴会社はこれを承諾し、該委任状の末尾に「右承諾す」と奥書したこと、東中電気は翌二十三日右代金の内金百二十万三千四百五十四円の債権を見返りとして被控訴銀行から金三百万円を利息百円につき日歩三銭、弁済期昭和二十四年二月二十日と定めて借受け、更に昭和二十三年十二月中被控訴銀行に対し原判決添付別表第二記載の請負代金債権七十六万百八十八円を右借受金の担保とすることを約し、その頃被控訴銀行と連名で前同様の書面(甲第二号証)を控訴会社に提出しこれが承諾の奥書を得た事実を認めることができる。

被控訴人は右の如き形式の下に為された本件取立委任は実質上質権の設定であり、控訴会社が右甲第一、二号証のこれに関する委任状に承諾の旨奥書したのは即ち質権設定を承諾したのに外ならないと主張する。然しながら当事者が或る経済上の目的を達成する為に法律上あたかもこれに適切な手段方法が設けられているに拘らず、諸種の理由から殊更らこれを用いることを避けて、或る場合にはその目的よりすればこれを超過する強度の法律的効果を齎らす手段を採ることもあれば、又或る場合にはその目的の為には法律的効果において劣弱であつても、その足らざる所は当事者間の信頼関係を以てこれを補うことにより満足することもあるのであつて、これ等各種の場合経済上の目的が同一であるからとて、その施用する法律的手段の異なるに従い法律的効果に差異の生ずるのは当然であり、単に経済的目的の同一である点にのみ着眼して当事者が明かに異なる法律的手段を採るに至つた趣旨を没却することは許されないのである。 当審証人後藤薫、秋田孝四郎の各証言及びこれによりその成立を認めうる乙第八ないし第十一号証の一、二によれば、控訴人主張の如く金融取引界の実際においては、指名債権を担保とする金融については、(イ)民法の規定する債権質の方法の外、実情に応じ債権担保の目的を達する手段としては法律的効果に過不足あるに拘らず、(ロ)債権譲渡、(ハ)取立委任の方法も広く用いられ、等しく債権担保と云つても取立委任と質権設定とは取引上明かに区別されて用いられていることが認められる。しかして本件において東中電気が被控訴銀行より金融を受けるに際し、若し事実本件債権に質権を設定する趣旨であつたとすれば、何よりも取引の正確を尊ぶ健実なる銀行業者としては特別の事情なき限り質権設定契約書を作成し債権証書があればこれを差入れさせ、且つ第三債務者たる控訴会社に対しては民法の規定に従い質権設定の通知をするかその承諾を求め、以て後日の紛紜を防止する措置を採るのが常識上当然であると認むべきところ、被控訴人がかかる措置に出でなかつたことにつきこれを首肯せしむべき何等の事情も認めることはできないのである。甲第一、二号証の委任状はその文面によつても明かな如く、委任者東中電気と受任者被控訴銀行との間における被控訴銀行を代理人とする本件請負代金債権の請求並びに受領の委任状に併せて、その裏面に右両者より控訴会社に対し右委任契約に基き代金は受任者たる被控訴銀行に直接支払われ度き旨の依頼とこの委任は双方の連署によらなければ委任者が一方的に解除できぬ趣旨であることを諒承され度き旨を記載し、控訴会社これに承諾の奥書をした書面にすぎないから、これによつては到底東中電気と控訴会社との間に質権設定が為されたことを窺うに由なく、控訴会社の右奥書も前記趣旨を承諾したというに止まり質権設定の承諾とは認め得べくもない。原審証人倉富幹郎はそれは質権の設定であると思いますと供述しているけれども、その供述の基礎は明確を欠き採用するに値しない。その他本件一切の証拠によるも被控訴人の主張する質権設定及びその承諾の事実を認めることはできないのである。

これを要するに被控訴人の主張は指名債権を経済上担保に供した以上は、前記の如き取立委任の形式を採つた場合と雖もそれが即ち質権の設定に外ならないと即断するものであつて、かく断定する合理的の根拠なく、右質権設定を前提とする請求は失当といわなければならない。原判決が右被控訴人の請求を認容したのはその認定を誤つたものであり到底取消を免れない。よつて被控訴人の本訴請求は排斥すべく、本件控訴を理由あるものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十六条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 薄根正男 岡崎隆 奥野利一)

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