大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2552号 判決

控訴人は被控訴人に対し新潟県北魚沼郡小千谷町字本町三百六十一番地、三百六十二番地所在家屋番号八十六番一、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建、物置一棟建坪二十坪外二階二十坪、但し造作畳建具一式附属有形の儘及び土蔵亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫一棟建坪七十五坪の内裏町通に面した別紙<省略>図面表示の間口三間、奥行九間この坪数二十七坪並びに右二棟の建物をつなぐ平家建渡り廊下建坪二坪を明渡し、且つ昭和二十五年六月一日以降右明渡済まで一カ月金二百四十円の割合による金員を支払うべし。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。

この判決は被控訴人勝訴の部分に限り被控訴人において金五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

二、事  実

控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は原判決を変更して主文第二項表示の家屋明渡部分と同旨及び「控訴人は被控訴人に対し昭和二十五年六月一日以降家屋明渡済まで一カ月金五百円の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。」との判決並び仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控被訴人訴訟代理人において「本件賃貸借の更新拒絶の通知は、その満了前六月ないし一年内である昭和二十四年十月下旬から同年十一月上旬までの間数回に亘り口頭を以てなされたが、更に念のため同年十二月十六日頃書面(甲第二号証)によつてもなされたものである。当審における控訴人の自白の取消には異議があり、原審における控訴人の自白を援用する。なお原判決において被控訴人に対し引換給付を命ぜられた金員につき被控訴人が弁済のため供託したところ、控訴人は右供託金を既に受領済であるから請求の趣旨を前掲の如く変更する。」と述べ、控訴人訴訟代理人において「控訴人が被控訴会社からその所有に係る被控訴人主張の建物中その主張の部分を賃借していることは認めるが、その賃貸借成立の日時、賃料、期間についての被控訴人の主張事実並びに法定期間内に賃貸借契約更新拒絶の通知のあつたこと、その他右更新拒絶につき正当の事由があるとの点はこれを争う。これらの点に関し原審において控訴人が被控訴人主張事実全部を認めたが、右は事実に反し且つ控訴本人の錯誤に基く陳述であるから、この自白を取消し、右認否をここに訂正する。元来控訴人は新潟県北魚沼郡小千谷町上山町五丁目で「クレンザー」の製造を業としていたのであるが、昭和十七年中被控訴会社代表取締役長谷川長松の申出により、同人外二名並びに控訴人の四名の共同事業として右「クレンザー」の製造販売を営みその製造工場として本件建物を使用していたものであるところ、事業不振の結果、昭和十九年四月頃他の三名は脱退し、控訴人は単独で「シヤンプー」の製造を開始し、その頃被控訴会社から、前記建物中被控訴人主張部分を、賃料一カ月金五十円毎月末払期間の定めなく賃借し、その後賃料は改訂せられ、昭和二十五年四月当時一カ月金二百四十円を支払つていたものである。仮りに本件賃貸借につき、被控訴人主張のような期間の定めがあつたとしても、本件賃貸借更新拒絶の事由として、食酢製造のための工場として本件建物を使用する必要ありとの被控訴人の主張は全く口実に過ぎず、その実は本件建物より控訴人の退去を求めてこれを空家とし、映画館に身売するためのものであつて、斯くの如き事情の下においては、更新拒絶につき正当の事由あるものではないことは明白であるから、本件賃貸借は被控訴人がその期間満了の日であると主張する昭和二十五年五月二十日から、前賃貸借と同一条件を以て更新せられたものである。なお被控訴人主張の供託金については、控訴人は受領済であるから、原審でなした造作の買取請求に関する主張は撤回する。」と述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人が、被控訴会社所有に係る新潟県北魚沼郡小千谷町字本町三百六十一番、三百六十二番所在家屋番号八十六番一、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建物置一棟建坪二十坪外二階二十坪及び土蔵亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫一棟建坪七十五坪のうち、裏町通りに面した別紙図面表示の間口三間奥行九間この坪数二十七坪並びに右二棟の建物をつなぐ平家建渡り廊下建坪二坪を、一括して賃借していたことは、当事者間に争なく、ただ被控訴人は、右賃貸借の成立したのは昭和二十一年五月二十日で賃料は一カ月金五百円毎月末払期間は昭和二十五年五月二十日までの約であつたと主張するに対し、控訴人は、原審において右の点に関する被控訴人の主張事実を認めながら、当審において右自白を取消し、右賃貸借の成立日時、期間の定めの有無並びに約定賃料額を争い、被控訴人は右自白の取消に異議を述べ前顕自白を援用するからこの点につき審按する。

成立に争のない乙第一号証、甲第三、第四号証、当審証人佐藤荒一郎、同佐藤恒吉の各証言並びに当審における控訴人本人及び被控訴会社代表者長谷川長松の各尋問の結果と弁論の全趣旨を総合すると、(一)、被控訴会社は本来味噌、醤油、酢、糀等の製造販売を目的とし、本件建物等を右営業の場所として使用していたが、戦時中企業整備のため右営業の遂行も困難となつた折柄、偶々昭和十七、八年頃当時被控訴会社の代表者であつた長谷川長松が、石鹸の製造販売を業としていた控訴人と知合となるに及び、訴外野沢某、萩野某等と共に控訴人の事業を後援することとなり、本件建物を提供して四名共同で事業に着手したが、幾許もなく不振に陥つた結果控訴人を除く他の三名は事業から手を切り、昭和十九年四月頃同一場所で控訴人が単独でシヤンプーの製造を始めることになり、前記建物中本件において被控訴人がその明渡を求めている部分を、被控訴会社から当初は別に期間を定めず賃料一カ月金五十円毎月末払の約で賃借したこと、(二)、その後終戦に伴う経済情勢の変化と控訴人方の内部の紛争等に絡み、被控訴会社においても期間の定めなく何時までも賃貸を継続して置くことを至難とするに至つたので、昭和二十一年中当事者合意の上、期間を昭和二十五年五月二十日までと定め、賃料も順次改訂して、最終期の昭和二十五年四月現在において月額金二百四十円であつたことが認められ、前顕引用の証拠中右認定に抵触する部分は採用できない。してみると控訴人の原審における自白は右認定に反する限度において真実に反し、且つ当審における控訴人本人の尋問の結果、その他弁論の全趣旨によるも、右自白が控訴人本人の錯誤に基く陳述であること明らかであるから、右自白の取消はこの限度において適法であるか、右自白の対象となつた前記事実に対する当裁判所の認定は前説示のとおりであるから、これをここに引用する。

次に当審証人佐藤恒吉の証言及びこれによりその成立を認め得る甲第一、第二号証、当審における被控訴会社代表者長谷川長松の尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、昭和二十四年十月十五日被控訴会社においては緊急重役会を開催して、企業整備により一時中絶していた会社の営業再開につき協議を遂げ、近時食酢の製造販売を始めたけれども、現在の設備では狭隘を告げ営業成り立たない事情に鑑み、近く期間満了となるべき本件賃貸建物の明渡を期限までに受けられるよう交渉すべく議決し、その後晩くも同年十一月中旬頃までの間に被控訴会社側から口頭で、右決議の結果を近隣の控訴人方に伝達し、更に念のため同年十二月十六日頃書面(甲第二号証)で念達し、以て右賃貸借更新拒絶の意を明らかにして置いたことを看取し得る。尤も前顕長谷川長松の尋問の結果中には「甲第一号証の決議から甲第二号証を出すまでは控訴人の方へ明渡の交渉をしない」旨の供述はあるが、この点に関する前顕佐藤恒吉の証言と対照すると右は長谷川長松自身が交渉に当らなかつた趣旨を述べたに止るとも解せられ、かかる言辞のみでは到底前示認定を妨げるものでなく、その他右認定を左右するに足る証拠はない。従つて本件賃貸借の期間満了前六月乃至一年内に適法な更新拒絶の通知があつたことを推認するに十分である。

よつて進んで前記更新拒絶が正当の事由に基くか否かについて検討する。

本件賃貸借の成立事情、その後賃貸期間を定めてからその更新拒絶の通知をするに至つた経緯は、上来説示のとおりであるところ、前顕甲第一号証成立に争のない甲第三、第四号証、当審証人佐藤作太郎、同佐藤荒一郎、同山本喜一、同佐藤恒吉の各証言当審における控訴人本人及び被控訴会社代表者長谷川長松の尋問の結果を総合すると被控訴会社は終戦後昭和二十四年頃から、一時中絶していた営業を再開すべく、小規模ながら食酢の製造を始めたが、設備狭少で本件建物の明渡を受けてこれに充用するのでなければ到底その目的を達し難いこと。尤もその頃被控訴会社において他に賃貸中であつた本件平家建倉庫一棟(控訴人に賃貸部分を除く)を他人に売却し、現在映画館に改造されているが、本件主要建物である他の一棟まで同様映画館に身売のため、その明渡を求めているとは断じられないこと。賃貸当初より相当長期間に亘り、その間経済情勢並びに双方当事者側における事情についても変遷があり、現に控訴人においても本件賃貸借期間満了後の明渡請求に対して一旦は大体これを諒承し、唯だ昭和二十八年五月三十日までその猶予を懇願していた位であつたが、その後態度を急変し、本件建物明渡の場合に他に移転先の提供ないしは相当の代償を払うとの被控訴会社の申出をも拒否するに至り、遂に本訴提起となつた経緯のあること。控訴人側としては現在既に鉄屑の回収業を転業して居り、従前の営業に復活することは必ずしも有利とするわけでなく、他に移転先なしというも既に賃貸借期限到来も前々から予期されていたところであつて、現下の住宅情勢からすれば、これが窮境を打開することも不可能と目し難いことなどを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そして以上認定の一切の事情を斟酌するときは、被控訴会社のなした本件賃貸借の更新拒絶は、正当の事由に基くものと断定して憚らない。

してみると、本件賃貸借は前記昭和二十五年五月二十日の期間満了により終了したものと謂うべく、その後も被控訴会社が控訴人に対し、期限後の使用につき遅滞なく異議を述べ、その明渡を請求してきたことは、前示認定並びに弁論の全趣旨によりこれを窺い得るから、控訴人は被控訴会社に対し従前賃借していた前記建物(本訴明渡請求の目的となつている部分)を明渡す義務あることは明らかである。尤も被控訴人は一、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建物置一棟建坪二十坪外二階二十坪の部分につき、造作畳建具一式附属有形の儘これが明渡を求めているが、原判決においてこれらの造作等については、控訴人が適法に附加した造作であつて、その時価金三万二千九百三十一円七十五銭であると判定せられ、控訴人の右買取請求を認容して被控訴人に対し右代金額の引換給付を命じたものであるところ、控訴人は被控訴人が供託した右代金を既に受領済であることは当事者争がないから、右造作等も被控訴会社の所有に帰したものというべく、これが造作一式有形の儘その引渡を求めるものとしての本訴請求は正当である。

次に被控訴人は右明渡期限後たる昭和二十五年六月一日以降右明渡済までの明渡義務不履行に因る損害の賠償として一カ月金五百円の割合による金員の支払を求めるけれども、本件賃貸物件に対する最終期頃であたる昭和二十五年四月現在の約定賃料が一カ月金二百四十円であつたことは前認定のとおりであるから、他に特別な反証のない本件にあつてはその相当賃貸料額は一カ月金二百四十円と認めるの外なく、被控訴人の本訴損害金の支払を求める請求は、右金額の範囲においては正当なるもその余は失当として棄却を免れない。

よつて、原判決を主文第二項第三項記載の如く変更すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十六条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

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