東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2638号 判決
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和二十五年六月二十日附でなした控訴人に対する昭和二十四年度分所得金額及び所得税額更正決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、「佐野税務署勤務の丸山昭吉が控訴人方において、昭和二十四年五月から九月までの生産実額調査をした結果、控訴人の右五ケ月間の取引金額は三百三万四千八百三十円と算定した。この割合で昭和二十四年一ケ年間の取引金額を算出すると七百二十八万三千五百九十二円となる。しかるに控訴人の申告した取引高税申告書による昭和二十四年度の取引金額は六百八十二万円であるから、右申告額は実際の額よりも少いと考えられる。被控訴人のなした控訴人の所得額の算定は右申告額に基くものであるから、所得額の算定が過大であることはない。」と述べた外、原判決事実摘示の記載と同一であるから、こゝにこれを引用する。
(各証拠省略)
三、理 由
控訴人が織物製造販売を業とする者であること、控訴人が昭和二十四年度所得金額として六十二万円と確定申告したこと、被控訴人が昭和二十五年六月二十日附で、所得金額百二十八万円、所得税額七十八万四百五十円と更正決定をなし、その頃控訴人に通知したことは、当事者間に争なく、成立に争のない乙第四号証によれば、控訴人が同年七月二十日右更正決定に対する審査の請求を関東信越国税局長にあて、佐野税務署長に提出したことが認められ、それ以後昭和二十六年三月二十二日本訴提起までの間に右審査の決定がなされなかつたことは弁論の全趣旨によつて明らかである。
被控訴人は、控訴人の確定申告書に記載された所得金額が被控訴人の調査したところと異つているので、被控訴人の調査によつて前段認定のように更正決定をなしたと主張し、その調査したところとして、(一)控訴人の所得税確定申告書に添附された収支明細書の純益の総収入金額に対する割合(所得率)が二割二分三厘六毛であつたこと、(二)控訴人の申告した昭和二十四年中の取引高税申告による取引金額が六百二十七万十四円で、これから昭和二十四年度分織物消費税額五十四万四千六百八十六円を差し引いた額五百七十二万五千三百二十八円に前記の所得率二割二分三厘六毛を乗じた積、百二十八万百八十三円をもととして、控訴人の昭和二十四年度所得額を百二十八万円を決定したこと、(三)控訴人及びその内縁の夫藤沼源作の昭和二十四年中の銀行予金、(四)控訴人の昭和二十四年中の資産の増加をあげている。よつて証拠を検討するに、被控訴人主張の(一)の事実、すなわち、控訴人提出の昭和二十四年度収支明細書によれば、同年中の総収入は二百七十七万千八百三十五円、経費合計二百十五万千八百三十五円、(但し経費中には織物消費税は含まれていない。)で純益は六十二万円となり、総収入に対する純益の割合(所得率)が二割二分三厘六毛であることが成立に争のない乙第一号証によつて認められる。次に被控訴人主張の(二)の事実については、成立に争のない乙第二号証の一ないし十二、並びに原審証人上村新三の証言を綜合すれば、昭和二十四年度の控訴人の取引高申告による取引金額が、六百二十七万十四円であること、同年度中に納付した織物消費税額が五十四万四千六百八十六円であること、右取引金額から織物消費税額を差し引いた残額五百七十二万五千三百二十八円が右(一)の総収入金額にあたることを認定することができる。それ故右残額に(一)において算定された所得率二割二分三厘を乗じた積が百二十八万百八十三円であることは計数上明らかである。控訴人は、昭和二十四年度の取引高税申告書に記載した取引金額は当時の税務署係員にその額を指示せられ、やむなくこれに従つて申告したもので、当時それだけの取引高はなかつたと主張しているけれども、成立に争のない乙第五号証と当審証人丸山昭吉の証言とを綜合すれば、控訴人の昭和二十四年中の取引高は七百二十八万三千五百九十二円と認定するのが相当であつて、控訴人の申告高は決して過大でないことが認められるから、控訴人の申告取引高から織物消費税額を減じ、これに控訴人の提出した収支明細書から算出した所得率を乗じて控訴人の所得額を算出した被控訴人の調査の結果は正当であると認められる。成立に争のない乙第三号証、同第六号証の一ないし六を綜合して認められる控訴人及びその内縁の夫藤沼源作の銀行予金額は右の結論を更に補強するものである。なお、当審証人藤沼源作の証言によれば、控訴人提出の昭和二十四年分所得税確定申告書は、帳簿不備のために正確な計算をしないで提出したものであること、更正決定額が高いというのは他人に対する決定額と比較し、かつ控訴人の懐具合によるものであること、指定生産織物以外の帳簿は備えていないことが認められ、その他本件一切の証拠を検討しても、被控訴人の調査の結果が誤りであると思われる点は認められない。それ故被控訴人が右認定の調査の結果にもとずきなした前段認定の所得金額、所得税額の更正決定は相当と認められ、その間違法の点は認められないから、これが取消を求める控訴人の本訴請求は理由なく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 大江保直 梅原松次郎 猪保幸一)