東京高等裁判所 昭和26年(ネ)749号 判決
控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和二十四年十二月十日附を以てなした控訴人に対する休職処分を取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴人訴訟代理人において、法令適用に関する意見として原判決は地方公務員たる身分を有する公立学校(都道府県立)の教職員の分限その他身分上の事項については教育公務員特例法第三十三条(本件休職処分当時施行されていた改正前の法条)同法施行令第九条(前同)により同法及び同令に別段の定めあるものの外当該都道府県の吏員(一般地方公務員)の例によらしめ、地方自治法附則(昭和二十二年法律第六十七号)第五条によれば都道府県の吏員に対しては官吏分限令第十一条が準用されるものと解されるから、本件休職処分についても同様官吏分限令第十一条の準用がある。旨判示するが、仮りに前記特例法三十三条が公立学校の教員の分限について政令に委任したと解しても、地方自治法施行規程(昭和二十二年政令第一九号)第二十四条によれば官吏の休職に関する手続の規定は都道府県の吏員に適用しない旨が規定されているから、官吏分限令の適用ありとする原判決の見解は失当であつて、同令を適用して控訴人を休職にした被控訴人の本件行政処分及びその手続は違法である。と述べた外は原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
(各証拠省略)
三、理 由
控訴人が控訴人主張のような経歴を経て、昭和二十年八月十八日新潟県立農林専門学校教授に任ぜられ(右学校は昭和二十二年三月三十一日法律第二十六号学校教育法第九十八条第一項による公立専門学校として存続)園芸学、農業概論の授業を担当中、被控訴人新潟県知事から昭和二十四年十二月十日附を以て教育公務員特例法施行令第九条(当時施行されていた改正前の法条)地方自治法附則(昭和二十二年法律第六十七号)第五条、官吏分限令第十一条第一項第四号により休職処分に付せられたことは当事者間に争いがない。
第一、よつて右の場合前記各法条により控訴人を休職に付した被控訴人の行政処分が違法なりや否やについて審究する。
(一) 前記学校教育法第九十八条第一項に規定する公立(都道府県立)の専門学校の教員である控訴人に対する休職処分についても、当時の法令の規定に従えば結局、官吏分限令第十一条第一項第四号が準用されるものと解した原判決の見解は正当であるからこの点に関する当裁判所の判断として凡べてこれをここに引用する。(原判決理由説示中(二)の(1)ないし(3)参照)従つて控訴人が原審で主張した(二)の(1)ないし(3)の法律上の見解は失当であつて採用し難い。
(二) 控訴人は更に当審において地方自治法施行規程(昭和二十二年政令第一九号)第二十四条の規定を援用して都道府県の吏員、従つて地方公務員たる身分を有する公立学校(都道府県立)の教員についてもその休職処分につき官吏分限令の適用なしと主張するので前記地方自治法附則第五条と前記地方自治法施行規程第二十四条との関係を検討する。
元来地方自治法は一般吏員に関しては、その身分取扱を法及びそれに基く政令に留保した事項を除いては、すべて別に制定さるべき普通地方公共団体の職員に関して規定する法律(後の地方公務員法)の定めるところによらしめ、その制定に至るまでの暫定措置として同法附則第五条第一項本文において、都道府県の吏員に関しては官吏または待遇官吏に関する相当規定を準用することとし、ただ準用困難ないしは地方自治法上準用を不適当とするものについては、政令で特別の規定を設けることができると定め(同項但書)更にその第二項に「都道府県の吏員は政令の定めるところにより、分限委員会の承認を得なければ事務の都合により休職を命ぜられることはない。」旨及び第三項に「前項の分限委員会の名称、組織、権限等は政令でこれを定める。」と規定し、右第一項の政令として地方自治法施行規程第二節第一款第十六条ないし第三十七条に詳細な定めをしている。そして前記控訴人援用の第二十四条はその中の一条文であるが、右は前記附則第五条第二項第三項において都道府県の吏員の休職処分の手続について事務の都合により休職を命ぜられる場合には分限委員会の承認を要する等特別の定めをなし、また同法施行規程第三十二条に右附則第五条第二項の分限委員会に関する規定を置いた結果、前記施行規程第二十四条において「官吏の……休職……の手続……に関する規定は都道府県の吏員についてはこれを準用しない。」旨を明らかにしたに過ぎず、即ち同条はその手続のみに関する除外規定であつて、従前の官吏または待遇官吏の休職に関する相当規定たる官吏分限令の第十一条第一項第四号(官庁事務の都合による休職処分の規定)の適用を排除したものと解せられない。そして、前記地方自治法附則第五条に基く政令として昭和二十四年一月十二日公布施行せられた政令第七号都道府県職員委員会に関する政令第二条によれば「都道府県の職員の……分限に関する事務……は地方自治法施行規程(昭和二十二年政令第十九号)の規定にかかわらず都道府県職員委員会が行う。2地方自治法施行規程の規定による都道府県の……吏員分限委員会は廃止する。」また、その第三条に「この政令に定めるものを除くの外都道府県職員委員会に関し必要な事項は都道府県規則で定める。」と規定している点から考えても、地方公務員たる身分を有する公立学校(都道府県立)の教員たる控訴人の休職処分につき、官吏分限令第十一条第一項第四号の準用あることを前提とし、前記学校長の申出に基き県職員委員会の承認を経て(右の事実は原審証人野坂相如同藤沢光雄同堀部健一の各証言及び右藤沢、堀部の証言により成立を認める乙第二号証の二、並びに真正に成立したと認める同号証の一によつてこれを認め得る。)任命権者たる被控訴人のなした本件休職処分手続はこれらの点に関する限りにおいては適法である。
第二、次に本件休職処分につき準用せられた前記官吏分限令第十一条第一項第四号には「官庁事務の都合により必要あるとき」休職を命ずることができる旨を規定しているが右は休職処分に付する事由があるかどうかの判断を全く行政庁の自由裁量に委したものでなく、ここに定められた基準に合するかどうかの認定をその客観的な基準に照らしてなすべきことを要求しているものであつて、それに該当するかどうかの判断は所謂法規裁量の問題として、法の覊束を受くべきものと解すべきである。
そこで被控訴人が本件休職処分の事由として主張する事実の有無並びに右事実が認められるとすれば、それが果して前記法条所定の基準に合致するかどうかの点を判断する要を見るのであるが、これらの点に関する当裁判所の事実の認定並びに判断は原判決の説示するところ(原判決理由説示(二)の(4)参照)と全く同一であるからここにこれを引用する。当審でなされた新たな証拠調の結果によるも、到底この認定を左右するに足りない。そして結局控訴人が公立専門学校の教員として適格性を欠き、学校の経営に支障を生ぜしめたものと認定し得る以上、前記官吏分限令第十一条第一項第四号所定事項に該当する一事例に属すること明白であるから、本件休職処分につき裁量の範囲を逸脱して不当に同条項を適用した違法は存しない。
よつて控訴人の本訴請求を失当として棄却した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条第一項に則り本件控訴を棄却すべく、控訴費用につき同法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 斉藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)