大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ラ)35号 決定

抗告人は、原決定を取り消し、抗告人の課税徴収執行停止の申請を認容する趣旨の裁判を求めると申立てた。その抗告理由は別紙添付のとおりである。

よつて審按するに、行政事件訴訟特例法第十条第四項において、同条第二項に基き行政処分の執行を停止する決定をするに当つては、該執行の停止により、公共の福祉に重大な影響を及ぼすことのないよう、慎重を期するために予め当事者の意見を聴くべきことを命じているにすぎないのであつて、執行停止の申立を却下する場合に当事者の意見を徴することは法規上必要ではないのである。それ故原審が本件執行停止の申立につき春日部税務署長より提出された意見書に対し、更に抗告人の提出した反対意見書の内容に立入り、一々説示しないからといつて、これを以て違法若くは不当と為すことはできない。次に本件課税決定の執行停止申請書によるも、又抗告人の提起した本案訴訟たる浦和地方裁判所昭和二十五年(行)第一四号不当課税取消請求事件の訴状を見るも、その文詞いずれも簡略にすぎ、抗告人が本件課税決定を不当とする実質的の理由が果して那辺に存するか必ずしも明白ではないが、抗告人の真意が原決定に記載する如く課税の「額が過重である」というのではなく、これが「課税客体を誤れる不当課税」なることを主張せんとするにあるものとしても、原審は畢竟本件は金銭を以て償うことのできるものであり、行政事件訴訟特例法第十条第二項により行政処分の執行を停止すべき場合に該当しないものと判断し、その理由の下に抗告人の申立を却下したのであるから、この点に関する抗告論旨は結局採用の限りではない。抗告人は更に本件課税決定に基き滞納処分が為されるときは、抗告人の社会的名誉が毀損されるのみならず、家族の生存権をも脅威する重大なる結果を惹起するに至るものと主張する。しかしながら実際において抗告人が賦課決定にかかる本件税額を一時納付する資力なき為め、滞納処分を避けることのできない状況にあること及び滞納処分の実施により一家の生存権すら脅かされる重大な結果に陥るべきものなることは、記録に現われた資料だけではにわかにこれを認め難い所であり、一面軽々に課税決定の執行を停止するときは徴税手続の遅滞により国家公共の福祉が害さるべきことを思えば、原審が本件の程度では未だ以て課税処分の執行により抗告人が金銭を以て償い得ざる損失を蒙るものとは到底認め得ないものとして、該執行停止の申立を却下したのは相当といわざるを得ない、原決定に関与した裁判官立岡安正が抗告人より数度弾該訴追の請求をされ、忌避の申立を受けたが為に、抗告人に対し敵意を差し挾み故意に不当なる裁判をしたとの事実もこれを認めることはできない、要するに抗告論旨は凡て採るに足らず、原決定には別に違法の点を見出し得ないから、本件抗告を理由なしとして棄却すべく、よつて主文のとおり決定する。

抗告理由

一、原審裁判所は決定書の冒頭にて「当事者の意見に基いて次の通り決定する」と称するが、抗告人の昭和二十五年十月六日の意見書即ち第四号証の意見書に対して一言も言及せず、抗告人の意見を無視した違法なる決定である。

二、原審裁判所は却下の理由に於て「その額が過重であり」と称するが、抗告人は斯の如き主張をなしたることなく、抗告人は課税容体を誤れる被抗告人の不当課税を指摘して其の取消を求むるものである。被抗告人の錯誤による不当なる執行を防止する為に抗告人は執行停止を求むるのである。徴税容体として義務なきものを審査を誤りたる原審裁判所は「額が過重である」と抗告人の主張せざることを、恰も主張したる如く附加して理由の拠点としたるは、事実に沿わざる違法なる決定である。

三、原審裁判所はその理由に於て「申請人主張の本案判決確定前にその徴税処分を執行してそのため申請人が損害を蒙るとしても右損害は畢竟金銭を以て償うことのできるものであるのみならずその損害金額も昭和二十二年分前記税額総計五千百五十六円中の正当額を超過する部分に相当する額に過ぎずこれを以て償うことのできない損害とは認めることは到底できないのである」と判示したる原審裁判所は社会的通念に暗く、抗告人が前段に於て主張するが如く被抗告人の課税容体を誤認したる徴税のために抗告人が滞納処分を受け、その執行の結果差押物件の換価処分の為に市価の何十分の一の低価にて家人の必需品を競売に付せらるることになるとせば、抗告人の社会的名誉は毀損せらるるは勿論、家人の生存権を脅威することの重大事を思えばこそ、抗告人は右の申請に及んだのである。然るに原審裁判所は社会常識貧者の窮乏生活を察知せずして漫然として「金銭を以て償いうる損害なり」として抗告人の申請を却下したるは法の精神に背く違法苛酷なる決定である。

四、被抗告人は昭和二十四年十二月二十三日抗告人に昭和二十二年分及昭和二十三年分の所得税加算税追徴税を賦課決定しながら第一号証及第二号証に示す如く昭和二十五年十一月十四日に至りて卒然として訂正し来るが如く、無定見無目標に課税徴収せんとする被抗告人が、滞納処分後課税容体の誤認を発見して、また虚然として取消されたる際に於ける抗告人の損害は、金銭を以て償うこと能ざる損失である。その事実を無視して金銭を以て償うことをうる損失なりと嘯くは失当なる裁判である。

五、原審裁判所が前陳の如き不当なる決定を為すに至りたるは第五号証に示す如く、抗告人に弾該訴追及裁判官忌避申立らるること数度に及び抗告人に敵意を有つ裁判官立岡安正が右裁判に裁判官として参加したるが為にかゝる違法失当の決定をなしたのである。

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