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東京高等裁判所 昭和26年(行ナ)14号 判決

原告 鈴木忠右エ門

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

(一)  請求の趣旨

昭和二十五年抗告審判第六三三号につき昭和二十六年四月二十七日特許庁がした審決を取消す、訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求める。

(二)  請求の原因

(1)  原告は昭和二十四年十二月十日甲第七号証の商標登録を出願した(昭和二十四年商標登録願第二三〇六七号)。それは第三十八類清酒を指定商品とし、「清正」の二文字を草書体で縦書しその上方に引き絞つた幔幕を、その右方に「有功清酒」の四文字を隷書体で縦書した幟を配した商標である。

然るに右出願商標は登録第七五〇六四号及第四九八六一号商標に類似するとの理由で拒絶査定を受けたので、原告は抗告審判を請求したところ(昭和二十五年抗告審判第六三三号)昭和二十六年四月二十七日抗告審判の請求は成立たない旨の審決があり、同年五月九日その送達を受けた右審決の理由とするところは本件出願商標は登録第七五〇六四号商標と類似すると謂うに在る。

(2)  原告は清酒につき本件出願のものと同一態様の登録商標第二二二三六号(以下甲商標と称する)を有したのである。此の商標は明治三十七年八月十八日出願、同年十月二十二日登録せられ大正十三年三月三日登録回復、同年十一月二十八日存続期間更新の登録を受け現在に至る迄原告が継続して使用して居るものであるが、昭和十九年十月二十二日期間満了により商標権が消滅したのである。

前記登録第七五〇六四号商標(以下乙商標と称する)は旧商標法第三条第二項の規定により大正四年十月十一日登録せられ、又原査定に引用せられた前記登録第四九八六一号商標(以下丙商標と称する)は明治四十五年一月十日登録せられたもので、この両商標は何れも清酒を指定商品とするものである。而して右乙、丙両商標は甲商標登録後に登録せられたのである。

(3)  審決は本出願商標は乙商標に類似するというのであるが、これを対照して見るに両者は「清正」の文字の書風を異にする点、前者が「清正」の二文字の上方に引絞つた幔幕を、その右方に「有功清酒」の四文字を隷書体で縦書した幟を配して文字及図形から構成されているに対し、後者が「清正」の二文字のみからなる点で外観を異にすることが明であるのみならず、取引上でも乙商標は単に「キヨマサ」又は「セイシヨウ」と呼称せられるに対し、本件出願商標は陣幕等の図形と原告の店舗の古い由来に基き「本陣清正」又は「本陣」と呼び慣はされていて両者は称呼及び観念にも区別せられる、従つて本件出願商標は乙商標と類似せず特別顕著性を有する。

(4)  本件出願商標は甲商標と同一態様のものであつて、これと丙商標とを比較すればその間には本件商標と乙商標との間に存する前掲(三)記載と全く同一の差異がある。甲商標登録後に丙商標が旧商標法第三条第二項の規定によることなく登録せられたことから推察するに丙商標は甲商標と外観上顕著な差異があるとして登録せられたものと考えざるを得ない。甲、丙両商標が互に類似しないとせられるならば甲、乙両商標も同程度の差異あり、互に類似しないと認むべきことは明であり従つて甲商標と同一である本件出願商標は乙、丙何れの商標とも類似でない、特許庁が甲商標存続中に丙商標の登録を許しながらこの両商標間の関係と同様な関係にある本件出願商標と乙商標との間の関係について全く矛盾する見解を示すことは了解し難いのである。

(5)  原告の有した甲商標権が消滅したのは更新手続を探らなかつた為めであるが、原告の清酒製造販売の営業は依然として継続したのである。戦時中酒類の価格が公定せられ商標の価値を無意味なくしめるような政府の処置が探られたことと戦争の不可抗力により、原告が更新手続を採り得なかつたことにより右商標権の消滅を来したのである。かくの如き特別の事情のある場合には更新と実質上同一の効果を有する救済の途がなければならない。本件出願はこの観点からも考慮せらるべきである。

(三)  被告の答弁

(1)  原告の請求棄却の判決を求める。

(2)  請求原因(一)及(二)の事実は認める。

(3)  本件出願商標では「清正」の文字は特に顕著に表現せられ他の部分は附飾的背景に過ぎないから、これを乙商標と離隔観察するときは両者は微差あるに過ぎず、「清正」の文字に看者の注日が強くひかれ、彼此相紛はしく外観上類似の商標である。原告は当審に至つて右両者の称呼及観念の差異を主張するが此等の点は抗告審判では全く主張のなかつたところであるから、かゝる新しい主張は審判の適否を判断すべき本訴において許さるべきものでない。

(4)  乙商標は旧商標法第三条第二項の規定により甲商標の登録あるに拘らず、登録が許されたものである。かくの如き特別の規定のない現在右乙商標と類似する本件出願は許されない。

(5)  本件出願商標は乙商標と類似するとの前記理由だけで既に拒絶査定を受くべき関係にある。これと丙商標との関係はこの拒絶査定の結果に影響を及ぼすものでない。

(6)  原告主張の(五)の点は立法論に過ぎない。

(四)  (立証省略)

三、理  由

原告の請求原因として主張する(一)及(二)の事実は当事者間に争のないところである。

成立に争のない甲第七号証に示された本件出願商標と成立に争のない乙第一号証に示された乙商標とを比較対照して見るに、前者は草書体の「清正」の二字を中央に大きく縦書しその上方に引き絞つた幔幕を、又右方に「有功清酒」の四字を隷書体で縦書した幟を配して成るものであり、後者は草書体の「清正」の二字を縦書した文字だけから成る商標である。而して前者の「清正」の文字は上方の幔幕及右方の幟に比し特に顕著に現はされて居るので幔幕及幟の図形は単なる附記的な背景を構成するに過ぎないと認められる。従つて右両者を離隔的に観察すると外観上彼此相紛はしく類似のものと判断せざるを得ない。次に称呼の点から見るに証人川島伊三郎の証言によれば、本件出願商標を附した原告製造の清酒は業者間では「本陣清正」或は略して「本陣」とも呼ばれて居るが、顧客は一般に「キヨマサ」と呼ぶ事実が認められ右商標を消費者間で一般に「キヨマサ」と呼ばれることはその商標の構成からして当然と考えられる。而して乙商標が取引上「キヨマサ」と呼称せられることは勿論であろうからこの両者は同一の称呼を持つと認められる。更に両者は観念上からは「加藤清正」なる人物を連想せしめるのが当然であるから観念上からも相紛はしいものと判断せざるを得ない。結局本件出願商標は乙商標と外観、称呼及観念上相紛らはしく乙商標と類似し且つ同一の商品清酒に使用せられるものであるから、本件出願商標は商標法第二条第一項第九号に該当し登録せられないものと判断せられる。(被告は称呼及観念上の類否は審判手続で主張せられなかつたから当審で新にこれを主張することは許さるべきでないと抗弁するが、原告のこの主張は商標の類似なりや否やの争点の一方面を主張するものでかくの如き主張を制限すべき法規上の根拠はない。)

本件出願商標が乙商標と類似する故に登録が許されないと判断せられた以上丙商標との関係は判断を要しない筋合であるが、原告はこの点を問題にするから一言これに触れることとする。本件出願商標は原告が前に有した甲商標と同一のものであることは争のないところである。乙商標はその登録当時に行はれていた旧商標法第三条第二項の特例によつて登録せられたものであることは争のないところであるから、乙と甲との類否は問題にならない関係にある。乙第三号証に見られる丙商標は「清正」の二字を草書体に表示したもので乙商標とは「清正」の書体に僅かの相違あるに過ぎない。而して右乙第三号証の公報には丙商標は前記商標法の規定によつて登録せられたものであることの表示はない。然しながら公報に右の記載のない事実だけからして右丙商標は前記旧商標法第三条第二項の規定にはよらずして一般の手続により審査せられて甲商標と類似のものでないとして登録せられたと確定するこはと早計であり、本訴においてはこの点を確定すべき証拠はない。又仮に丙商標は当時特許局において甲商標と類似しないと認められて登録せられたものであつたとしてもこのことは本件出願商標と乙商標との類似か否かを判断する当審に拘束力を及ぼすものでない。「原告請求原因(五)の主張は現行法上その根拠がない。証人幅野柾三及川島伊三郎の証言を綜合するに原告は古い祖先の時代から清酒の製造販売を継続して来たもので、明治三十七年以来は甲商標を登録して使用し来つたものでこの商標は広く業者間で原告の商標として認識せられて居ることが認められる。而して本件出願商標は右甲商標を同一のものであるからこれにつき或は商標法第九条による保護はあるかも知れないが、本件出願商標を新しく登録を求めることは許されないこと前段説示の通りである。」故に原告の出願を拒絶する趣旨に出た審決は相当であり本訴は理由がないから民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小堀保 角村克巳 原増司)

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