大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(行ナ)27号 判決

原告 加藤銀次郎

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

第一、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、昭和二十六年抗告審判第四〇三号事件について昭和二十六年九月二十五日にされた抗告審判の審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めると申し立て、被告代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二、請求の原因

一、原告は昭和二十五年十二月六日特許庁に対し、自己の使用する楷書体で「牛込西勘」の文字を縦書し、その文字の右側に平仮名で「うしごめにしかん」の振仮名を附記した商標につき、商標を使用すべき商品を第十九類農工器具と指定して登録を出願したが(昭和二十五年商標登録願第二七八一六号)、拒絶の査定がされたので、抗告審判の請求をしたところ、(昭和二十六年抗告審判第四〇三号)昭和二十六年九月二十五日「本件抗告審判の請求は成り立たない」との審決がなされ、その謄本は同年十月十二日に原告に送達された。

二、右抗告審判の審決の理由によれば、右登録出願の原告の商標は訴外水谷源次郎の出願にかかる登録第一八八三二九号の商標と称呼上及び観念上類似し、且つ指定商品が抵触するから登録することはできないといつておる。右引用の登録商標は、第十九類鏝類一切を指定商品とし、大正十五年十一月三十日登録、昭和二十三年七月十六日更新登録にかかり、の図形内に楷書体で「西勘」の文字を縦書し、の上部に楷書体で「本家」の文字を右から横書したものであつて審決は両者を比照して、外観上においては類似の範囲を脱しているものといえるが、呼称上よりみるときは、原告の商標は、「西勘」の文字に「牛込」の文字を上記に有し、平仮名で「うしごめにしかん」と振仮名を附しているとしても、牛込は商店街である東京都牛込を指称するにすぎず結局「西勘」が要部であり、また「ウシゴメニシカン」印の称呼を有するも単に「ニシカン」印と称呼せられるのが商取引の実情に照らし自然であり、次に引用の登録商標は、「本家」及び「カギ」の記号を有するとしても「西勘」の文字は極めて顕著に描き出されているから、これまた単に「ニシカン」印と称呼されることが商取引の実情に照し明白であるから、両者は「ニシカン」の称呼を共通にし、称呼を同一にしている商標は観念においても彼此相まぎらわしいといつている。

三、しかしながら、原告の本件出願商標は、「牛込西勘」と書き「うしごめにしかん」と顕著に振仮名しているものであるから、一箇の固有名詞である。蓋し日本という名は商品の生産地や仕向地を表わすものであつても、これを他のものに結合して分離し得ないようにすれば、それ自体固有名詞となることは「日本アルプス」「日本三景」等の例によつても顕著であつて、原告の商標「牛込西勘」も同様一箇の固有名詞に外ならない。これに対して引用の登録商標は、曲尺を起原とする記号の中に西勘をいだいたの記号であつて、は決して単なる無力の輪廓と見るべきではないからは一体として観察すべく、これが呼称は「カネニシカン」であつて単なる「ニシカン」ではなく、また観念上も「金西勘」と思われるのが自然である。

して見れば原告の「ウシゴメニシカン」「牛込西勘」と引用の「カネニシカン」「金西勘」とは呼称上類似しないのはもちろん観念上も全然別異である。しかるに審決は前述のように引用商標は「カギ」形図形内に「西勘」の文字を顕著に縦書し「カギ」形の上部に「本家」の文字を右から横書して成る商標だと認定しているが、元来は曲尺を起原とし「カネ」と指称されているのは顕著な事実であつて審決がこれを鍵カギと認定したのが既に誤であり、更に牛込は商店街である東京都牛込を指称するから「牛込西勘」の要部は「西勘」であると認定しているが、牛込は決して商家のみ立ち並ぶ商店街ではない。これを商店街と解し、「牛込西勘」を商店街にある西勘だと認定したのは誤である。

以上のように審決は、原告の出願商標及び引用商標の認定を誤まり、これを基として原告の主張を排斥したのは、重大な事実の誤認であり、また審理の不尽であるから、これが取消を求めるため本訴に及んだ。

第三、被告の答弁

原告主張の一及び二の事実は認める。

三の主張に対しては、次のように述べる。

原告の出願商標と引用商標とが称呼及び観念上類似するものであることは、審決に記載されたとおりであるが、更にこれをふえんすれば、原告の商標「牛込西勘」における「牛込」の文字は東京都新宿区内における有名な牛込商店街として極めて著名であり販売地表示として普通に使用される表示をしたものに過ぎないものと認められるから、この文字は商標法第八条の示すところにより、いわゆる特別顕著性の要件を具備しない。また「西勘」の文字は世人の注目を引き易い部分で印象強く感ぜられるものであることは商取引上極めて自然であるから、結局「西勘」の文字は原告の商標の要部というべく、従つて「ウシゴメニシカン」と称呼するが単に「ニシカン」とも称呼せられるものと判定したのである。また引用商標は、「本家」及び「カギ」の記号は有するとしても「西勘」の文字は極めて顕著に描出してなるものであるから、「ホンケカギニシカン」の称呼を以つて取引される場合があるけれども、単に「ニシカン」といつて商取引されていることは商取引の実状に照らし明白であつてこのことは、出願書類に添付された商標見本の説明書の記載によつても明白である。

第四、(各証拠省略)

三、理  由

原告主張の一、二の事実は当事者間に争がない。

よつて先ず原告の出願にかかる商標(甲第一号証記載)と引用商標(乙第一号証)とが類似するかどうかを判断する。原告の出願商標は、楷書体で「牛込西勘」の文字を縦書し、その文字の右部に平仮名で「うしごめにしかん」の振仮名を附記したもの、すなわち

牛(うし)込(ごめ)西(にし)勘(かん)

によつて構成するものであり、引用商標は、の図形内に楷書体で「西勘」の文字を縦書し形の上部に楷書体で「本家」の文字を右から横書きしたもの、すなわち

によつて構成するものであることは、それぞれその成立に争のない甲第一号証及び乙第一号証によつて認められる。右両商標が称呼上類似するかどうかについて考察するに、(右両者が外観上においては類似の範囲を脱していることは、すでに審決の判定しているところである。)商取引の実際において、商標が必ずしもその構成部分全体の名称によつて称呼せられず、冗長にすぎる場合には、しばしばその顕著な部分のみに省略限定せられ、簡単に称呼せられることは、われわれ日常つねに経験するところであつて、引用商標についてこれを見るに、その構成部分特に西勘の文字が顕著に描き出されていること、本家、元祖等の文字が取引上必ずしも顕著性を有するものでないこと、更に「カネニシカン」の称呼(の図形は鍵を表示するものとして「カギ」と呼ばれる場合もあるが、本件の場合においては、原告のいうように曲尺を意味し、従つて引用商標は「カネニシカン」と称呼されるのが普通であると解する。)が冗長にすぎる等の事実に鑑み、引用商標は取引上通例単に「ニシカン」と称呼されるものと解するのが相当であり、次いで原告の商標について見れば、「ウシゴメニシカン」の称呼は冗長であり、世人は取引上これを称呼するにあたり「牛込」は単なる東京都新宿区内に存する一般の地名を示す形容詞としてこれを省略して、単にその構成部分中最も顕著な部分すなわち「ニシカン」の略称を以て称呼するにいたるのが通常であるものと解する。この点について、原告は「牛込西勘」は「牛込」「西勘」の両者が綜合してなる一箇の固有名詞で、両者は分離し得られないものであるとして、「日本アルプス」「日本三景」の例を引いているが、原告の商標について、かかる特段の事情があるとの事実はこれを認める証拠がない。よつて両者は「ニシカン」の称呼を共通にしているものと認定せざるを得ない。

すでに称呼を共通にする以上、そのことのみによつても両商標は類似するものというべきであるが、更に進んで右両商標が観念上類似するかどうかについて考察するに、前段で認定したように両商標とも最も顕著な構成部分として「西勘」または「にしかん」の文字を共通にしているから、この点において両商標は観念上類似しているばかりでなく、その成立に争のない乙第二号証によれば、引用商標は同商標の出願者である訴外水谷源次郎の商標として、大正十五年六月の出願に先つ数十年その先代当時から、鏝取引業者及び需要者に広く認識されて来たものであることが推断せられ、原告の商標はその主要部分を共通にし、ただこれに一般に存する地名牛込を冠したものに外ならないから、一般取引者は両商標の併存により商品の出所を混同誤認するにいたる虞が極めて多いものというべく、両者は観念においても類似するものと認定せざるを得ない。

最後に原告が本件商標について指定する商品は、第十九類農工器具であり、引用商標の指定商品が第十九類鏝類一切であることは、当事者間に争のないところであるから、両者の指定する商品は互に抵触するものであること明白である。

して見れば、原告の商標は、商標法第二条第一項第九号に該当するものとしてされた審決は相当であつて、本件請求はその理由がない。

よつて原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決した。

(裁判官 中島登喜治 小堀保 原増司)

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