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東京高等裁判所 昭和26年(行ナ)28号 判決

原告 秋山守雄

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「特許庁が昭和二十五年抗告審判第三二一号事件について、昭和二十六年十月二日になした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は、そのなした後記の測深記録方式の発明につき、昭和二十三年十二月十八日特許庁に対し特許出願をしたところ、拒絶査定を受けたので、昭和二十五年七月三日、特許庁に対し抗告審判の請求をし、同事件は特許庁昭和二十五年抗告審判第三二一号事件として審理された上、昭和二十六年十月二日右発明が特許法第一条の要件を具えていないとの理由で右抗告審判請求が成り立たない旨の審決がなされ、同審決書謄本が同月十三日原告に送達された。

(二)  而して原告の右発明の要旨は、「順次繰り出すように装定した記録紙に、その繰り出し方向に略々直角に移行するように導体の無端テープを設け、これに導体の記録用ペンを突設して、無端テープに電流の通じたときだけ記録紙の裏側に設けた金属板とペンとの間に電気火花が生ずるようにし、又無端テープに突子を突設して可動片を押圧したときだけ超音波発信器から超音波を発信し、この超音波を直接に或は海底で反射させたものを超音波受信器で受信して無端テープに電流を通ずることによつて、この超音波発信時と受信時とに夫々ペンと金属板間に電気火花を起して夫々基準点と記録点とを記録紙に表示して、その二点間の距離によつて深度を測り、そして基準点記録点が夫々集つてできる基準線記録線が測深グラフを形成するようにした測深記録方式。」であるところ、

審決はその理由に於て、右発明は昭和十九年九月二十日技術院発行の特許第一六五二一五号明細書に記載されてある「順次繰り出すように装定した記録紙にその繰り出す方向に略々直角に移行するような導体の螺旋状突起を具えた回転胴体(P+)を設け、その胴体に電流の通じたときだけ記録紙の裏側に設けた陰極(P-)と突起との間に電気火花を生ずるようにし、又回転胴体にカムを設け可動片がカムの凹所に陥入したときだけ超音波発信器(B)から超音波が発信し、この超音波を直接又は海底に反射させたものを超音波受信器(A)で受信して回転胴体に電流を通ずることによつてこの超音波発信時と受信時とに夫々螺旋状突起と陰極間に電気火花を起して夫々基準点と記録点とを記録紙に表示し、この二点間の距離によつて深度を測りそして基準点と記録点とが夫々集つてできる基準線記録線が測深グラフを形成するようにした測深記録方式」(以下引用例甲と略称する。)と大部分が相一致し、超音波受信器を利用して測深記録をすることに関する両者の作用効果は大部分同等であり、尚適確且高速度に記録することのできる簡易な測深記録方式を非常に経済的に得ると言う特長も同等であつて、両者間の差異は唯本件発明の方式が記録紙上を摺動する電極として無端帯に突設する記録用ペンを用いるのに対し、引用例甲が同様の電極として回転胴体上に設ける螺旋状突起を用いるものであると言う点にあるけれども、この構成の差異ある結果両者の作用効果に顕著な差異を来すものと認めることができないとした。

然しながら右は実験則を無視した誤断であつて、両者の間には次の通りの著しい差異が存する。即ち、

(1)  前記引用例甲は審決にも摘録してあるように、記録紙の繰り出方向に略々直角の方向へ移行するような導体の螺旋状突起を具えた回転胴体(P+)を設けているが、本件発明は全然之を欠除している。

(2)  引用例甲は前記回転胴体にカムを設け可動片がカムの凹所に陥入したときだけ超音波発信器(B)から超音波を発信するが、本件発明は全然之を欠除している。

(3)  引用例甲は前記超音波発信器(B)から発信した超音波を直接又は海底に反射させたものを超音波受信器(A)で受信して回転胴体に電流を通ずることによつてこの超音波発信時と受信時とに夫々螺旋状突起と陰極間に電気火花を生ずることがない。

(4)  引用例甲は前記のように回転胴体上に設けた螺旋状突起を用いて電極としているが、本件発明は之を欠除している。

(5)  本件発明の要旨は、審決に摘録されてある通り順次繰り出すように装定した記録紙に、その繰り出し方向に略々直角の方向に移行するように導体の無端テープを設け、之に導体の記録用ペンを突設して無端テープに電流を通じたときだけ記録紙の裏側に設けた金属鈑とペンとの間に電気火花が生ずるようにし、又無端テープに突設して可動片を押圧したときだけ超音波発信器から超音波を発信しこの超音波を直接に或は海底に反射させたものを超音波受信器で受信して無端テープに電流を通ずることによつてこの超音波発信時と受信時とに夫々ペンと金属鈑間に電気火花を起して夫々基準点と記録点とを記録紙に表示してその二点間の距離によつて深度を測り、そして基準点記録点が夫々集つてできる基準線記録線が測深グラフを形成するようにした測深記録方式であるが、引用例甲は之を欠除しており、両者はその構成に於て全く異つている。

(6)  引用例甲に於ては、前記のように回転胴体の螺旋状突起と陰極(P-)との間に記録紙を挾むようにしているから、その記録導体が回転すると、その螺旋状突起は全然弾性がないから直接記録紙の表面を左端から右端に順次接触点が移動してその記録紙を強く摩擦して之を損傷するばかりでなく、又前記螺旋状突起との関係上記録紙に幾分緩みがあるからその記録紙の移行によつて強く摺動される面とたるみの部分とが生じ、その為にも記録紙を損傷し、折角記録した深度グラフ迄も無にし、殊に浅海の測深に於ては回転胴体を急速に回転するからその螺旋状突起で記録紙を一層損傷し使用に耐えなくする欠点があるが、本件発明は前記のように導体の無端テープを装定し之に記録用ペンを突設して記録紙の裏側に設けた金属鈑との間にその記録紙を貫通させて電流を通ずるようにしたから、右の欠点が全然ない。

(7)  引用例甲に於ける螺旋状突起は、円筒の軸方向と斜に交わる線で之と記録紙上の直線との交点は螺旋状突起に何等の弾性もなく、又記録紙は厚みを持ち且圧縮可能であるから、その螺旋状突起と記録紙面との接触部分は点とならずに深度方向に或る長さのある線となることは幾何学上容易に考えられるところであつて、その線が記録紙上に記録されるのであり、且記録紙面を電流が通過する際生ずる着色の膨潤作用も加わつて広がりを持つ線となることが明らかであり、その結果記録の分解能を非常に低下させ、深度記録を不鮮明にし誤りを生ぜさせる欠点があるに対し、本件発明は記録用ペンの先端と金属鈑との接触点だけ記録紙を貫通して電流を通ずるからその接触点は可及的に小さく測深グラフが非常に鮮明に記録され誤断をさせることがない。

(8)  引用例甲は前記のような構成のものであるから非常に大型のものとなり、殊に回転胴体及び螺旋状突起並びにカム機構にいささかでも狂いがあるときは使用が不可能となるからその製作が容易でなく、又高速度で操作するに多くの損傷を来すから非常に不経済であるが、本件発明にはこの欠点がない。

(9)  本件発明は、無端テープに記録用ペンと発振制御用突子とを取付けて、無端テープの移行によつて記録紙の一定の位置に前記記録用ペンが来た時、前記発振制御用突子が常に同一の位置に於て発振制御用可動片を押圧して超音波発信器から超音波を発信させ、その超音波を直接に受信して発信点を記録紙上に記録するようにしたから、操作が高能率であつて測深が適確であるが、引用例甲のものはこの構成を具備していない。

以上(1)乃至(9)の差異は発明の作用及び効果の著しい差異であるに拘らず、審決はこの差異を無視している。

(三)  又審決は、無端帯を本件発明と同様の目的に用いることは、昭和十七年四月十四日特許局発行の昭和十七年実用新案出願公告第四三一〇号実用新案公報(以下引用例乙と略称する)特にその第三図に記載され本件特許出願前国内に於て公知であつてその取捨選択は容易であるとしたけれども、本件発明と右引用例乙との間には次の著しい差異がある。即ち、

(1)  引用例乙は、記録用回転体の周囲に適当な間隔を置いて数箇の走行ペンを配置し、各走行ペンを順次に同一の化学的発色記録紙に接触させて各走行ペンの材質を順次異ならしめた測深機記録装置の構造を記載し、殊にその第三図は単にベルト上に数箇の記録用ペンを取付けた構造を示したに過ぎないものであるが、本件発明は全然之を要旨としていない。

(2)  引用例乙は記録用回転体に聯動するカムを設け、そのカムの凹所に可動片を嵌入した時に超音波を発信するものであるが、本件発明はそうではない。

(3)  本件発明に於ては、無端テープに突子を突設して可動片を押圧したときだけ超音波を発振するようにしているが、引用例乙はそうではない(尚引用例甲も同様である)。

(4)  引用例乙は、無端テープが記録用回転体上に沿つて移行するに従つて、漸次その接触点にずれを生ずることによつて測深グラフの記録にもずれを生じて適確な測深記録をすることができないから之を実用に供することができない欠点があるが、本件発明は無端テープに記録用ペンと発振制御用突子とを取り付けて無端テープの移行によつて記録紙の一定の位置に前記記録用ペンが来た時に前記発振制御突子が常に同一の位置に於て発振制御用可動片を押圧して超音波発信器から超音波を発信させ、その超音波を直接に受信して発信点に記録するようにしたから、ずれが絶対に生じない(この差異は測深器に於ては重大な差異である)。

従つて、本件発明は引用例乙と発明の要旨及び工業的効果に於て著しい差異があるのに、審決が之を無視しているのは失当である。

(四)  又審決は本件発明の方式が可動片を押圧した時、即ち出願書添付の図面によれば、回路の閉合によつて超音波を発信するものであるのに対し、前記引用例は、可動片がカムの凹所に嵌入した時、即ち回路の開放により超音波を発信するものであるとの差異があるが、このような差異も任意容易に取捨し得る程度の微差に過ぎないとしたけれども、測深記録方式の生命は、浅海でも高能率に適確に誤差なく記録し得ることにあるから、この工業的効果を生ずるものは、その着想が仮令簡単であつても特許せらるべき発明であるのに、審決が本件発明と前記引用例との間の前記のような発明の要旨及び工業的効果の差異を以て、程度の微差に過ぎないものとして本件特許出願を排斥したのは失当である。

尚仮に本件発明が前記引用例甲及び乙の各一部を取捨選択したものであるとしても、之が為直ちに前記の差異が微差に過ぎないものとすべきではない。即ち一の機械が各部分の組合せから成り、その組合せによつて特殊の効果を生ぜしめた場合には、之を組成する各部分が各別に観察すれば公知であり且容易に応用することができる程度のものであつても、特殊の効果を生ぜしめる組合せであると言う点に於て新規の発明となる(大審院大正九年(オ)第一三〇号判決、及び昭和六年(オ)第二三二〇号昭和七年四月二十六日言渡判決参照)。本件発明も同様であつて、仮に任意に前記引用例甲及び乙から容易に取捨選択して本件発明のような具体的な測深記録方式を得たとしても、之によつて右各引用例の達成し得ない高能率で浅海でも容易且適確に測深でき、而も耐久性強く頗る経済的に作り得ること前記の通りである以上本件発明は特殊の効果を生ぜしめたものと解すべきであり、従つて右各引用例から容易に実施し得ない新規の発明であると言わなければならない。然るに、審決が本件発明と各引用例の工業的効果及びその要旨につき深く探究することなく、両者の差異が微差であつて本件発明が新規のものでないと速断したのは誤りである。

(五)  要するに、本件発明は前記各引用例とは発明の要旨及び工業的効果に於て著しい差異があり、新規性を具えたものであるから登録を許容せらるべきものであり、その出願を排斥した審決は失当であるからその取消を求める為本訴に及んだ。

と述べ、

被告の主張に対し、

(一)  記録紙には乾式と湿式との二種類があり、記録感度の点に於て湿式が乾式に遙かに勝るが、唯湿式のものは柔く損傷し易い欠点があるので引用例甲は乾式のものにのみ適するばかりでなく、その螺旋状突起が被告主張のように尖鋭でなく丸みを持つとすればその記録分解能を著しく低下させ測深記録に適しないこととなるに対し、本件発明の方式は、高感度の湿式記録紙に使用することもでき、記録紙を傷めるか否かの点につき被告主張のような記録機構の操作技術の巧拙、記録紙の紙質その他の使用条件如何に形響されることがない。

又記録紙の幅及びその繰出速度が同一であるとき、引用例甲では円筒上の螺旋状突起の全長が記録紙面上を摩擦するに対し、同一時間内に於て本件発明の方式では前記円筒の中心軸の長さに相当した距離だけ記録ペンと記録紙面とが摩擦するだけであるから、引用例甲の方が右摩擦の長さが遙に長く、従つて本件発明の方式に比してペンと記録紙との接触により紙面を損傷する機会が遙に多いことが明らかである。

(二)  被告主張の分解能の比較の三基準につき、(イ)の走査点の接触面積の大きさは本件発明に於ては記録ペンの先端に過ぎず、引用例甲の接触面積たる螺旋状突起の接触部分に比較して遙に優秀である。(ロ)の走査点のズレに関する被告の主張は認めるけれども、只本件発明に於ては引用例甲と異り基準線から各反響の記録点との間の距離には一定のズレがあつて、そのズレが一定である為予め之を補正することによつてその誤差を絶無にすることができるから、本件発明に関する限り右ズレは分解能には全然影響がない。(ハ)の記録紙の送出方向に於ける綿密度に関しては分解能は深度記録感度の濃淡を可及的に短い距離に於て鮮明に判別し得ることを指称するものであるから、被告の主張するように記録ペンの復路に於ける記録の密度には無関係であるばかりでなく、本件発明に於ては無端テープに数個の記録ペンを設けることによつて引用例甲と同一の実効線密度とすることができるから、被告が復路に於ける実効線密度の半減することを分解能の判別の基準としたのは誤りである。

(三)  引用例乙の公報に於ては、無端テープに二個のペンを附した図形を掲げてあるに過ぎず、発振制御をどうするかと言うことにつき何等具体的な記載をしておらず、又引用例甲の公報には記録導体の回転軸と同一回転軸に固定された発振制御用カムの構造とが記載されてあるに過ぎず、この事実から本件発明者たる原告が走行無端テープでは必然的に避けられない従つてその為同テープが実用に適しないとの先入観念を持たれていたズレが予めキヤリブレーシヨン(較正)によつて容易に誤差がなく記録されることに着想し、尚同一無端テープに記録ペンと発振制御突子とを設けてズレを極小にし、且基準線の位置を厳密に決定し僅かに残るズレの誤差を較正することによつて走行する無端テープによる測深方式を工業的に完成したものであつて、測深方式に於て不可能視されたものを可能にした点で被告主張のように単なる尋常の設計にすぎないものとすることはできない。

(四)  引用例甲では、カムに取りつけた突子を以て間接に継電器、レバー、作動杆、電磁石及び中間カム又は三極放電管を介して発振を制動するようにしたから、之等の作動の時間的誤差が集積して発振点を大きくぐらつかせて深度の誤差を生じさせるに対し、本件発明に於ては、無端帯上に設けた発振制御突子を以て超音波発振器から直接に超音波を発振させるようにしたから発振点のぐらつきを完全に除去できる工業的の効果があり、之は尋常の設計とすべきではない。

と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、

原告の請求原因事実中(一)の事実を認める。

同(二)の主張につき、

原告は、本件発明と引用例甲との差異の(6)として、引用例甲はその螺旋状突起で記録紙を損傷する虞れがあるが、本件発明ではその虞れがないとしているけれども、本件発明の方式に於ても、無端テープに突設した記録用ペンの走査方向に於ける力と記録紙の送り方向に於ける力との合力が記録紙に働き、ペンと記録紙との接触点に於て、ペンが記録紙を損傷する虞れのあること引用例甲と同様であつて、この点に於て本件発明の方式が別段引用例甲に勝つていない一方、引用例甲に於ける螺旋状突起の先端は尖鋭なものではなく、ある程度丸みを持つており、之が記録紙を痛めるか否かは記録機構の製作技術の巧拙、記録紙の紙質その他の性質及び使用条件等にもよることであつて、それ等の点が特に不良でない限り原告主張のように記録紙を損傷することはない。

同(7)の差異として、原告は、引用例甲に於ては螺旋状突起と記録紙との接触部分が深度方向に長くなつて深度記録を不鮮明にする欠点があるが本件発明にはこの欠点がないと主張するけれども、引用例甲の螺旋状突起は円筒の軸方向と斜に交わる線であるから之と記録紙上の直線との交点は、さ程不正確なものではない。引用例甲と本件発明との分解能を比較するには、(イ)走査点の接触面積の大きさ、(ロ)走査点のズレ、(ハ)記録紙の送出方向に於ける線密度の三点につき比較しなければならない。而して(イ)については本件発明の方式の方が稍々勝れているようにも考えられるが、(ロ)については本件発明の方式では超音波の発射時刻に於ける記録ペンの位置(基点)と反響信号記録時に於ける記録ペンの位置との間にはズレが不可避であり、このズレは回転が高速度になれば加速度的に増加する。(ハ)については本件発明の方式では記録ペンの復路(ペンが記録紙から離れて走査方向と反対方向に移動し基点に復帰する道程)に於ては記録を行わないが、この期間も記録紙は一定速度で送り出されているから実効線密度は半減し、従つて分解能も半減する。その上、測深機では船体のローリングの為測深機自体が上下左右に動揺し、この動揺による測深誤差は極めて大きく、前記の分解能上の測深誤差は閑却して差支えないものである。

同(8)の差異として、原告は引用例甲による装置は非常に大型となり装置に狂いがある時は使用不能となり又製作が容易でないが本件発明の方式のものはそうでないと主張するけれども、引用例甲に於ても記録紙送出機構及び巻取機構等の配置を適当に選べば相当小型にすることができ、本件発明の方式のものでも小型にする為に無端テープを駆動する滑車の径を小にすればズレが増加して分解能が低下するから自然その大きさに限度があり、大きさの点で両者の間に大きな相違はなく、唯引用例甲は非常に深い海底の深度測定にも適するように、即ち円筒の数回転に及ぶ深度にも適用できるようにしてあるから、その為附加的装置を具備した為大型となるかも知れないが、浅海の測定だけで足りる場合には本件発明の方式によると同程度の大きさとなる理由である。又装置に狂いがあれば使用不能となることは本件発明の方式も同様であつて、特に引用例甲に於て顕著であると言うことはない。尚製作上の難易は要求される精度によつて相違するだけであつて、引用例甲の方が本件発明の方式に比して常にその製作が著しく困難であると言うことはない。

請求原因(三)の(4)の主張につき、

無端テープに滑車を使用した場合に滑車と無端テープとの間にズレを生ずることは、機工学上の常識であつて、このようなズレは時間と共に加算されるから、無端テープによる測深記録方式が引用例乙によつて公知である事実と、測深記録方式に於ける発振制御機構を記録導体に直結して設けることが引用例甲によつて公知である事実が存在する以上、ズレの影響を除いて無端テープ方式を実用化する場合に、発振制御用突子を記録ペンに直結するか又は記録ペンの取付台である無端テープ自体に設けることは当業者が必要に応じて容易になし得る尋常の設計に過ぎず、之を以て格別新規の発明とすべきものではない。

以上の外、原告が本件発明と引用例甲及び乙との間の差異として挙げた点は、本件発明が新規の発明を構成するか否かを決するにつき何等の影響をも及ぼすものではない。

要するに本件発明の測深記録方式と引用例甲とは、記録機構に於て前者が発振制御用突子をそれ自身に具えた無端帯式であるに対し、後者が発振制御用カムを同一軸上に具えた螺旋状突起を表面上に持つ円筒式である点が相違し、その効果に於ても多少の相違はあるけれども、測深記録方式に於て記録機構として無端帯式を使用することは引用例乙により公知であつて、引用例乙には本件発明の方式のようにその無端帯に発振制御用突子を具えるということを特に要求していないが、記録ペンを支持する無端帯に発振制御用突子を設けることは無端帯にズレが生ずると言う常識的な事実と引用例甲に於ける発振制御機構を記録導体と一体的に設けると言う公知の手段とから考えれば尋常の設計に過ぎないものとすべきであり、本件発明のように引用例甲に於て、その発振制御用カムを同一軸上に具えた螺旋状突起を表面上に持つ円筒式記録機構に代え、発振制御用突子をそれ自身に具えた無端帯式記録機構を使用するようにすることは、当業者が発明的工夫を要することなく為し得る尋常の設計変更の範囲を出ないものであつて、本件発明に新規性がないとして本件出願を排斥した審決は相当である。

と述べ、

被告の答弁に対する原告の主張に対し、

原告は本件発明の方式では記録ペンによる走査点のズレは一定であるから補正ができ線密度は分解能に影響しないとして無端帯式の優位を主張しているが、本件発明の方式のような導体の無端帯では、薄くて弾力性があり自由に変形できるものを作ることが困難であつて、之をプーリーに掛けたとき一直線になりにくく、強いて一直線にする為には強く引張つておく必要があり、而もその張力を絶えず一定に維持することは困難であるから、無端帯とプーリーとの間の接触圧力従つて両者間の摩擦力が変化し易いので、ズレを一定に保つことは容易でない。又無端帯の継目は、厚さを一様にする為には熔接を必要とするが、熔接部分は他部と同様な組織となりにくいので破損し易いばかりでなく、継目がプーリーと接する場合とそうでない場合とでは条件が相違するのでズレにも変化を生ずる。従つてズレの補正は困難であり、更に使用中磨耗その他の原因により漸次ズレが増加した場合でも、之を判断する方法がなく、測深誤差を生ずる危険がある、尚無線帯上の究子が発振制御開閉器に接触した場合に、不規則なズレを生ずる。更に無端帯には横振れば当然であるから、ペンの走査点の位置によつて記録点の濃度が変り、感度に影響する。又原告主張のように線密度が半減しても、目標物が比較的滑かな海底のような場合には分解能に影響はないが、目標物が小さく、且測定位置と目標物との位置が相対的に移動する場合には目標物を見逃す恐れがある。

尚被告の答弁に対する原告の主張(四)につき、超音波発振の制御に継電器を介在させるか否かは尋常の設計に属する事柄であり、之が問題とするに足りないものであることは本件の発明が直接制御を要旨としていない点に徴しても明らかである。

と述べた。(立証省略)

三、理  由

請求原因事実中(一)の事実は被告の認めるところであつて、原告の本件発明の要旨が原告主張の通りであることは被告の明らかに争わないところであるからその通り自白したものとみなす。

而して成立に争のない甲第一号証(特許第一六五二一五号即ち引用例甲の明細書及び図面)には、順次繰り出すように装定した記録紙に接してその繰出方向に略々直角の方向に移行するような導体の螺旋状突起を有する回転胴体を設け、この導体に電流を通じたときだけ記録紙の裏側に設けた陰極と右究起との間に放電を生ずるようにし、又回転胴体の軸にカムを設け可動片がカムの凹所に陥入したとき音響衝動発信器内の線輪の電流が断たれて継電器が作動し、それに応じて送波器より音響衝動が発信せられ、この音波を直接に及び海底で反射されたものを受信器で受信し、増幅して回転胴体に電流を通ずることによつて、この音波発信時と受信時とに夫々螺旋状突起と陰極間に放電を起して、夫々基準点と記録点とを記録紙に表示してその二点間の距離によつて深度を測り、そして基準点記録点が集つてできる基準線記録線が測深グラフを形成するようにした測深記録装置が示されてある。又成立に争のない甲第二号証(昭和十七年実用新案出願公告第四三一〇号、即ち引用例乙の公報)には、その『実用新案ノ性質、作用及効果ノ要領』の項に『測深記録方式ニ於テ最モ簡単確実ナルハ定速回転体ニ取附ケタル走行「ペン」ニテ記録紙上ニ記録スルモノナリ斯ノ装置ニ於テハ測深ノ目的ヲ以テ走行「ペン」ノ記録紙上ニ接触セル瞬時ニ超音波ヲ水中ニ発射シ之ガ水底ニテ反射セル反響音ヲ電気的ニ受音シ其ノ拡大増幅電圧ヲ走行「ペン」ニ導キ其ノ接触セル記録紙ニ反響音ヲ記録ス』という書出しを以て、測深機の記録装置に関する考案が記載せられ、その第三図には順次繰り出すように装定したものと認められる記録紙に接して、その繰り出方向に移行するように無端テープを設け之に記録ペンを突設した記録装置が示されてあり、この図面は記録紙、無端テープ及び記録ペンの部分だけを示しているに過ぎないが、右の書出しの説明及び引用例甲の説明に照らすときは右第三図の装置はその記録ペンが記録紙に接触した瞬間に超音波を水中に発射する発信器と、その直接音及び反響音を受信して記録ペンに電流を通ずる受信器とを組合せて使われるものであることが認められる。

よつて本件発明と右引用例甲及び乙とを比較するに、本件発明に於ける発信器及び受信器を備え、記録紙を順次繰り出し之を通じてその裏側の金属鈑への放電を以て発信点及び受信点を記録し之等の記録点で測深グラフを形成せしめる等のことは、前記甲第一号証にその一例を見るように、記録紙を繰り出す測深記録方式には共通且普通な事項であつて、本件発明が格別之等の点を特徴とするものと解することはできない。而して本件発明の要旨と前記引用例乙の第三図から察知し得られるものとの相違として、本件発明に於ては

(一)  無端テープが導体であること。

(二)  無端テープに突子を設け、この突子が可動片を押圧したときだけ超音波を発信すること。

を明示してあるに対し、引用例乙の公報ではこの点の記載がないと言う点だけが考えられる。よつてこの差異につき審案するに、

(一)の差異につき右引用例乙の公報の第三図のものに於て、若し無端帯が導体でないとすると、之に突設した記録ペンにそれが相当の速度で移動する間、常に確実に電流を導く為には特別の工夫を要するから、無端帯自体に導電性を持たせることが考え得る最も簡単な方法であつて、右の無端帯が導電性のものであること又は之を導電性のものとすることは当業者が常識を以て容易に思いつき得るところと解さなければならない。

(二)の差異につき、本件発明のように無端帯を使用した場合に(超音波の発射時刻に於ける記録ペンの位置と反響信号記録時に於ける記録ペンの位置との間に)ズレが生ずることは不可避であるところ、引用例乙の公報に於て、前記の通り『走行「ペン」ガ記録紙上二接触セル瞬時ニ超音波ヲ水中ニ発射シ』、と記載されてあるところを考えるに、之は発信回路を制御する手段を走行ペン自体或は之を搬送する無端帯に関聯せしめる意味であつて、プーリーの側に関聯せしめる意味ではないものと解さなければならない。即ち引用例乙では前記第三図に示された無端帯が導体であり、且発信回路が無端帯の側に関聯して制御されるものであることを示していると言うことができる。而して右関聯の手段として、無端帯そのものにより、或は無端帯に突出部以外のもの即ち陥入部を設けることによつて発信回路の開閉を掌らせることは、その方法自体に徴し普通のものとは解し難く、無端帯に突出した部分即ち本件発明にいわゆる突子を設ける以外に常識的な方法を見出すことができない。更に電器回路の制御手段として回転体上に突子を設け之が可動片を押圧したとき回路を閉ぢるようにすることはその過程自体に照らし通常用いられる手段であるものと認むべく、而も可動片に対して突子と均等の作用をするカムを螺旋状突起を有する回転胴体の軸に設けた測深記録装置が引用例甲に示されてある以上、本件発明に於ける前記(二)の工夫は引用例甲及び乙のような測深記録方式に於て引用例乙の無端帯式を採用した場合に採られる極めて自然な設計であると言うべく、その間特別な工夫が必要であるとは認めることができない。

以上述べて来た通り、引用例乙の公報の前記第三図には突子及び可動片は示していないけれども、この種の方式の完成した一箇の測深機として具体化する場合には、設計の当然の結果として本件発明の方式と同一構成のものとなるべきものと認むべきであつて、以上当裁判所が判断した点以外に原告は本件発明と前記各引用例との差異につき種々論述しているけれども、之等原告の挙示した点は、何れも右の設計として当然到達し得べき範囲内のものに過ぎないものと認むべく、従つて、引用例甲及び乙が既に存する以上之等の点につき本件発明に格別の新規性があるものとすることができない。

之を要するに、本件発明の測深記録方式は、前記引用例乙に、容易に実施することを得べき程度に記載せられたものであつて、新規の発明とはなし難く、之を特許すべからざるものとした審決は相当であつて、原告の本訴請求は失当であるから、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)

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