東京高等裁判所 昭和26年(行ナ)29号 判決
原告 合名会社清水源商店
被告 特許庁長官
一、主 文
昭和二十六年抗告審判第三四八号商標登録願拒絶査定不服抗告審判事件について、特許庁が昭和二十六年十月十二日付でした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
二、事 実
第一、請求の趣旨
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めると申し立て、被告指定代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求めた。
第二、請求の原因
一、原告は、昭和二十四年十月十七日特許庁に対し、「横に帯状の程度で下辺を稍下向きに山なりの廓線を施し、その上部に山形状の輪廓を配し、下部の帯状廓内にはゴシツク体で、BOY SCOUTの英文字を顕著に横書し、上部山形状輪廓内中央には円を描き、その中にボーイスカウトが正しく立脚する図形を画き、その他附記的文字を配してなる商標」を、第三類香料及び他類に属しない化粧品を指定商品として、登録の出願をなし(昭和二十四年商標登録願第一八四五三号)、昭和二十五年二月二十八日出願公告の決定がなされたのにかかわらず、昭和二十六年四月二十五日拒絶査定を受けたので、同年五月十九日抗告審判を請求したが(昭和二十六年抗告審判第三四八号)、特許庁は、同年十月十二日右抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、右審決謄本は同月十三日原告に送達された。
二、抗告審判の審決の理由は、原告の出願にかかる商標は国際的連繋を以つて公共福利事業を目的として純真なる青少年層により組織された「日本ボーイスカウト聯盟」の図体員を顕わした図形と、それを表わすBOY SCOUTの英文字を要部としてなり、このような商標を営利の目的とする事業の商品の用に供することは、公共福利事業に専念する団体憲章の精神に反することは明かであり、公共福利精神に燃える純真な青少年層の良心と信用とを害する虞が十分であり、またこの団体の信用をも害する結果を招来し、社会的悪影響を及ぼすこと多大であるから穏当を欠くものである。
従つて本件商標は現下の社会情勢を勘案し、秩序又は風俗を紊る虞あるものというを相当とすべく、商標法第二条第一項第四号の規定によりこれを登録することができないというのである。
三、しかしながら、この種の商標で公共的性格を持ち、従つて登録を拒絶すべきものは、商標法第二条第一項第一号ないし第三号に列挙してあるので、これ等に該当しない商標を同項第四号を適用し、登録を拒絶することは不当であつて、現に同様の商標で登録されている事例も少くない。以上の理由により原告は右審決に服することができない。
第三、被告の答弁
原告主張の一、二の事実は全部認める。
しかしながら商標法第二条第一項第四号の制定された趣旨は、およそ商標の構成が治安を害するもの、社会公共の道徳律に背反するもの、国際信義に反するもの、猥褻なものその他社会公共の利益に反し又は善良の風俗をみだす虞のあるものはいずれも本号の適用により、その登録は拒否されるべきものとするに在ることは明かである。同項第一号ないし第三号は公共の利益に反すること特に顕著なものを列記したのに止まり、それ以外に公共的理由により登録を拒否すべきものがないとの原告の主張は何等の論拠もない。そして本件商標は国際的連繋を保持しつゝ公共福祉事業を目的とする純真な青少年層により組織された「日本ボーイスカウト連盟」の団体員を顕わした図形とそれを表わす「BOY SCOUT」の文字を要部としてなるものであるから、このような商標を営利を目的とする事業の商品に使用することは公共福祉事業を目的とする団体憲章の精神に反し、公共福祉の精神に燃える純真な青少年の良心と信用とを害するもので、結局社会公共の利益に反する虞があるものといわなければならない。また原告は現に同種の商標が既に多数登録されていると主張するけれども、登録の許否は、現下の社会事情を綜合して決定すべきものであるから、右の事実は、前記の判断に何等の影響をも及ぼすものでない。
第四、(証拠省略)
三、理 由
原告が請求原因の一及び二で述べた事実は、全部当事者間に争がない。したがつて本件における唯一の争点は、原告の出願にかかる商標が、審決にいうように、商標法第二条第一項第四号の「秩序又ハ風俗ヲ紊ルノ虞アルモノ」に該当するかどうかである。
よつて案ずるに、右商標法第二条第一項第四号の規定は、商標自体が矯激な文字や卑猥な図形等秩序又は風俗をみだすおそれのある文字図形、記号又はその結合等から構成されている場合及び商標自体はそのようなものでなくても、これを指定商品に商標として使用することが、社会公共の利益に反し、又は、社会の一般的道徳感念に反するような場合に、その登録を拒否すべきことを定めているものと解するのを相当とする。しかしながら、本件の商標は、その見本(甲第一号証)によつて見ても、単にボーイスカウトの服装をした少年が直立する図形とその下に横書きした英文のBOY SCOUTの文字を要部とし、これと原告のいうような廓線、輪廓、円等の附記的な記載とで構成せられるものであつて、商標自体が前述のようなものでないのはもちろん、原告の指定商品は、第三類香料及び他類に属しない化粧品であるから、右の商標を、これらの商品に使用することが、秩序又は風俗をみだすものとは解されない。被告代理人は、原告の商標のように、国際的連繋を保持しつゝ公共福祉事業を目的として、純真な青少年層により組織された「日本ボーイスカウト連盟」の団体員を表わした図形と文字を要部とする商標を、営利を目的とする事業の商品に使用することは、公共福祉事業を目的とする団体憲章の精神に反し、公共福祉の精神に燃える純真な青少年の良心と信用とを害するもので、結局社会公共の利益に反するおそれがあると主張するが、前記の商標は、その使用が特定の指定商品との関連において、商品の誤認又は混同を生ぜしめるおそれのあるような場合は格別として、(審決の引用する商標法第二条第一項第四号以外の事由に該り、この事由については何等の審理もなされていない。)これを、被告代理人のいうように、一般的に営利を目的とする事業の商品に使用すること自体が、社会公共の利益に反するとは考えられない。
以上の理由により、審決が原告の商標は商標法第二条第一項第四号の規定により、これを登録することができないと判断したのは違法であつて審決は取消を免れない。
よつて原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 三宅多大)