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東京高等裁判所 昭和26年(行ナ)32号 判決

原告 田沼一男

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

第一、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、昭和二十六年抗告審判第五八一号事件について、特許庁が昭和二十六年十一月十日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とするとの判決を求めると申し立て、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二、請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は、昭和二十三年六月二十三日、「円形の輪廓を中心部に置いて、三個の山形図形の裾をそれぞれ各裾に連結して、三角状の廓を描き出した図案の下部に「3FUJI」の文字をゴジツク体の程度で横記してなる商標(甲第一号証)を、第二十類車輛、船舶その他運搬用機械器具及びその各部を指定商品として、登録の出願をし(昭和二十三年商標登録願第九八二八号事件)、同年十一月十日出願公告決定を受け昭和二十四年六月三日出願の公告がなされたが、訴外株式会社日米商店から異議の申立があり、審査官は、昭和二十六年七月十二日異議決定と同時に原告の出願につき拒絶査定をした。原告は、これに対し、同年八月六日抗告審判の請求をなしたところ(昭和二十六年抗告審判第五八一号事件)、同年九月十九日新たな拒絶理由の通知があつたので、同年十月十九日意見書を提出したが、特許庁は、同年十一月十日「抗告審判請求は成り立たない。」との審決をなし、審決書謄本は、同年十二月一日原告に送達された。

二、しかしながら、右審決は次の各点において違法であるから取り消されなければならない。

(一)  原告の登録商標は、前記甲第一号証によつても明らかのように「ミツフジ」または「サンフジ」の称呼を有し、決して単なる「フジ」の称呼を有するものでないのに、審決は、故意に右商標の称呼を誤解し、勝手に頭初の「ミツ」または「サン」を除いて単なる「フジ」の称呼を有するものと認定し、原告の主張を排斥したのは、事実認定を誤まつたもので、審理不尽、理由不備の違法がある。

(二)  被告は、東京都丸の内株式会社日米商会が「FUJI」と称する登録商標を有し該商標は、自転車及びその類似する商品に付いて使用されているから、原告が本件の商標をそれらの商品に使用するときは、その出所に付き混同を生ぜしめる虞があると主張したので、原告はかかる事実があれば、その事実を被告において立証すべきであると主張したのにかかわらず、被告は全然立証をせず、被告自身の主観によつて原告の主張を排斥したのは、採証の法則を誤つたものである。

(三)  原告は、前述の審決の謄本の送達を受けたので、昭和二十六年十二月七日被告に対し、本件指定商品中「自転車及びその各部」を放棄する旨の届出(甲第二号証)をしたのに、被告は同年十二月十一日この指定商品放棄届は審決後の差出であるからとの理由で、不受理処分をなし、これを原告に返送して来た。

しかしながら、原審決は未確定の状態にあつて、事件はまだ特許庁に係属中であるから、原告が審決に対し訴を提起すれば、裁判所は、原審決後の事実についても裁判上の判断を下すことができるのであるから、被告としては、当然右届書を受理し、記録に添綴すべきである。しかるにこれをなさず、前述のように届書を不受理として返送したのは、何等の法規にも基かない違法処分であり、且つ不受理処分を行うならば、不受理の決定をなした上、これを原告に送達すべきであるのに、これをしなかつたのは、審判手続によらない行為で違法である。

第三、被告の答弁

被告指定代理人は、原告の請求原因事実に対し、次のように述べた。

一、原告主張一の事実は認める。

二、しかしながら同二は、次のように、いずれもその理由がない。

(一)  審決は、原告が(一)でいつているような認定はしていない。

(二)  抗告審判において新たに拒絶すべき理由並びに審決の理由として引用した、訴外株式会社日米商店(同会社は、その後昭和二十六年七月三十一日商号を日米富士自転車株式会社と変更して現在にいたる。)が有する「FUJI」印の登録商標は、その指定商品である自転車及びその各部について、取引界において、頗る周知のものとなつていることは、特許庁においては、顕著な事実である。同会社は、登録第七〇五三一号ノ一ノ一商標及びこれに聯合する商標として数十件の聯合商標を有することも特許庁備付の商標原簿により明らかである。右各商標は、いずれも「FUJI」の文字または富士の図形の一方または両者を組合せ、または「フジ」、若しくは類似の称呼を生ずるものであるから、本件出願商標は以上各商標の個々とは類似していないとしても、これをその指定商品中の自転車及びその各部に付いて使用するときは、恰も前記会社の製造、販売または取扱にかかる商品であるかのように誤信させ、商品の出所について混同を生じさせる虞が十分である。従つて審決が原告の商標は、商標法第二条第一項第十一号に該当するものとしてその登録を拒否すべきものと判定したのは、何等不当でない。

(三)  原告がその主張のような指定商品放棄届を提出し、特許庁が、不受理処分をなし、原告に返送したことは争わない。しかしながら右放棄届は、すでに抗告審判の審決書謄本が原告に送達された後にいたり初めて提出されたもので、事件は審決によつて終了したものであるから、その後提出にかかる書類を不受理として、提出人に返戻するのは当然な措置である。

第四、(各証拠省略)

三、理  由

一、原告主張請求原因一の、特許庁における手続に関する事実は、当事者間に争がない。

二、原告は同二の(一)において、審決は原告の商標の称呼を不当に認定したと非難しているが、特許庁の送付にかかる記録中審決書によれば、審決は、後に述べるように商標法第二条第一項第十一号の規定を引用して、原告の商標はその登録を拒否すべきものであるとしたもので、その称呼について原告主張のような認定をして、原告の抗告審判の請求を排斥したものでないことが認められるから、原告の右の非難は当らない。

三、その成立に争のない甲第一号証(商標登録願)によれば、原告の本件登録出願にかかる商標は、頂上を鋸歯状の三ツ峰とし、その下部に三本の山ひだを表わし、稍図案化した富士山三ツを中央の小円を中心とし、上部中央及び下部左右に各一箇ずつ等間隔に、且つ各山裾を互に共通せしめて放射状に描き、その下部に3FUJIの五文字をゴジツク体で左横書した図形及び文字の結合によつて構成せられ、第二十類車輛、船舶その他運搬用機械、器具及びその各部を指定商品としているものであることが認められる。

原告がその後昭和二十六年十二月七日特許庁に右商標について、指定商品中「自転車及びその各部」を放棄する旨の指定商品放棄届(甲第二号証)を提出したこと及び右放棄届が特許庁に提出されたのはすでに抗告審判における審決がなされ、その謄本が原告に送達された後であることは、いずれも当事者間に争がない。

しかしながら、抗告審判における審決とともに、特許庁としては、出願手続においてなすべき一切の手続を終了し、その後いかなる出願の訂正変更の申出があつても、審決はもちろん、登録の許否について、どうすることもできない状態に立ち到つたものであり、裁判所もまた、右審決当時における出願の内容を標準として、審決の当否、従つて出願にかかる登録の許否を判断するものであるから、右放棄届は、商標法上何等の効力をも生じないものといわなければならない。

四、よつて当初出願の指定商品を標準とし、商標法第二条第一項第十一号を適用して、原告の出願を拒絶すべきものとした審決の当否を判断するに、その成立に争のない乙第一ないし第十号証を綜合すれば訴外日米富士自転車株式会社(審決当時は、商標原簿上株式会社日米商店の商号で登録されていたが、その後昭和二十六年七月三十一日付商号変更により、現在のように変更登録がなされた。)は、指定商品を第二十類自転車及びその構成部分品(但し、自転車タイヤ自転車スポーク及びニツプルを除く。)とする登録商標第七〇五三一号ノ一ノ一及びその聯合商標として登録第二一二五〇八号、第二七二四五二号、第二八一〇七二号、第二八六五六四号外二十八件の商標並びに指定商品を第二十類車輛、船舶その他運搬用機械器具及びその各部とする登録第三七五五四号の商標を有しており、それらの商標は、いずれも「FUJI」の文字または「富士」の図形を主要部分とするものであること及び右日米富士自転車株式会社は、明治三十三年の創設にかかり、現在はわが国におけるいわゆる四大完成業者の一として、自転車の製造及び販売業を営んでおること(その生産台数は、月九千台から一万台で全国完成車生産数量の約一割に当る。)及びその製造販売する自転車及びその部分品には、「富士」または「FUJI」或いは「富士の図形」等の商標を使用し、右の事実は、古く大正年間から取引業者及び需要者の間において著名であることが認められる。

以上認定の事実を、原告の前記出願の商標と対比して考えると、日米富士自転車株式会社が古くから製造販売する自転車及びその部分品は、取引上広く富士印として、取引業者及び需要者に印象せられまた原告の出願商標も「FUJI」の文字及び「富士の図形」を主要部分とする前記会社の商標を直感的に聯想させるか、少くともこれと何等か密接の関係があるかのように想像させるものと解するのを相当とするから、これを自転車及びその部分品に使用するときは取引者殊に一般需要者をして、当該商品が、日米富士自転車株式会社が製造販売する富士印の自転車またはその部分品であるかのように誤信させるおそれが多いといわなければならない。原告は、この点について、甲第三号証ないし第十二号証を提出し、幾多の「富士」「富士」「FUJI」「不二」等の登録商標が存する他の指定商品については、本件と同一な原告の商標について出願公告がなされた事実を証明しているが、これらの事実は、他の要件の存在を前提とする前記の認定を左右するものではない。

して見れば、原告の商標は、商品の出所についての混同を生じ、商標法第二条第一項第十一号にいわゆる商品の誤認または混同を生ぜしめる虞あるものに該当するから、審決が同条を適用して、原告の商標を登録すべきものでないとしたのは相当である。

五、原告は、請求原因二の(二)において、被告は原告の商標がその出所に付き混同を生ぜしめる虞があることを争つたのにかかわらず、何等立証することなく、被告自身の主観により、原告の主張を排斥したのは不当であると主張するが当裁判所は、証拠調の結果に基き、前述四のように判断するものであるから、審決における採証の当否は直接本判決の結果に影響を及ぼすものではないばかりでなく、審決によるも、(一)株式会社日米商会(日米商店の誤記なることは明白である。)の「FUJI」印の登録商標が、その指定する商品である自転車及びその各部について、取引界において頗る周知のものであることは、当庁において顕著な事実であり、また(二)同会社が前述の各商標を有することは、当庁備付の商標原簿によつて明らかである旨を説明している。そして抗告審判においては職権を以つて証拠調をすることができ、該手続に準用される民事訴訟法中証拠調に関する規定によれば、特許庁に顕著な事実は、証拠を要せず、これを事実確定の資料となし、判断の基礎とすることができるから、前述の(二)の事実はもちろん、(一)の事実についても、通商の振興及び調整、工業品の生産等に関する行政事務を主管する通商産業省の一部局である特許庁がこれについてはつきりした認識を有することは何等異とするに足りず、審決がこれらの事実を顕著な事実とし判断の資料としたことは、何等採証の法則に違反するものではない。

次いで原告の商標が商品の出所に付き前述のよう混同を生ぜしめる虞があるとしたのは、特許庁が右確定した事実に基いて判断を示したものに外ならないから、以上原告の非難も当らない。

六、最後に、原告は特許庁における原告提出の指定商品放棄届の処置について論難しているが、右届書が商標法上何等の効力をも生じないものであることは、前述三において説明したとおりであるから、その処置の当否は、抗告審判の審決の違法であるかどうかを判断する本件訴訟の審理の対象とはならない。

七、以上の理由により、原告の本訴請求はその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 三宅多大)

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