東京高等裁判所 昭和27年(う)1246号 判決
原判決が、証拠として「押収にかかる契約書兼領収書(昭和二十七年領第一号の一)の存在及び同書面中被告人の文書としての記載部分」を挙示したことは論旨の指摘するとおりであるが、原審第二回公判調書及び同調書末尾添付の領置目録に徴すれば、原審裁判官が、検察官からの、差戻前の本件記録第十二丁編綴の「契約書、領収書と題する書面」の証拠調の請求を容れて、その取調をした上、これを右差戻前の本件記録第十二丁から取り除いて、右領置目録の記載のように、昭和二十七年領第一号の一として領置したことが明らかであり、結局原審裁判官が昭和二十七年領第一号の一として領置した「契約書、受領書と題する書面」なるものを、原判決に「契約書兼受領書」と表示したものであることが極めて明白であり、又右書面は書面の意義が証拠となる証拠物であるから、原審裁判官が、これを証拠物として領置したことは、極めて自然の措置であつて、敢えてこれを記録に編綴する必要はないから、原判決には、所論のように、理由のくいちがいもないし、又訴訟手続の法令違背もない。なお、原判示事実は、原判決が挙示引用した証拠によつて、十分にこれを肯認することができ、記録を精査しても、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認の疑もない。従つて、論旨は理由がない。
同第二点について。
原判決が証拠として挙示した「契約書兼領収書」――原裁判所が証拠調をした「契約書、領収書と題する書面」と同一物であることは、第一点において説明したとおりである。――は特に本件被告事件の証拠とする目的で作成されたものではなく、専ら当事者間の法律関係を明らかにする目的で作成されたものと認められるから、その意義を証拠とする場合においても、敢えて反対尋問によつてその信用性を検討するまでもなく、その存在が明らかになりさえすれば、直ちにこれを証拠とすることができるものと解すべきである。何となれば、刑事訴訟法第三百二十条が、いわゆる伝聞証拠の証拠能力を制限したのは、反対尋問によつてその信用性が保障されないものは、原則としてこれを証拠とすることができないものとした趣旨と解せられるが、前述のように、特に被告事件の証拠とする目的で作成されたものではなく、専ら当事者間の法律関係を明らかにすることを目的として作成されたと認められるような書面については、その存在が明らかにされさえすれば、おのずからその記載内容の信用性も保障されるものということができ、敢えて反対尋問によつてその信用性を検討するまでの必要はないと考えられるからである。ところで、原審の各公判調書を調査するに、右書面については、原審第二回公判期日の公判廷において、検察官から証拠調の請求があり、これに対して、弁護人は、別段に異議を申し立てなかつたが、右書面は不実の記載があるから同意できないと述べたので、原審裁判官は、被告人に右書面の成立経過を尋問し、その存在を明らかにした上、その証拠調をしたことが明らかであり、記録を精査しても、その存在を疑わせるような事由は何ひとつないから、右書面を証拠に採用した原判決には別段の違法はない。もつとも、原審第三回公判調書によれば、原審裁判官が、検察官の申請により、右書面につき、更に刑事訴訟法第三百二十二条の書面としての証拠調をしたことが明らかであるが、これは全くの蛇足であり、なおこのことは別段判決に影響を及ぼすものではなく、又原判決には、すでに第一点において説明したように、事実誤認の疑はなく、なお、原判決の事実認定には論理の法則乃至経験則に違背した違法もない。従つて、論旨は理由がない。