東京高等裁判所 昭和27年(う)1682号 判決
成程、原審第一回公判期日に検察官が提出した検察官に対する金井美代子の所論供述調書については、被告人及び弁護人においてこれを証拠とすることに同意するところのなかつたこと並びに検察官は原審第七回公判期日に金井美代子の所在不明の証拠として、広島地方検察庁から東京地方検察庁江幡検事宛の電文一通(昭和二十六年一月十一日附)及び南千住警察署勤務巡査門馬利己作成名義の「所在捜査方について復命」と題する書面(同年二月三日附)を提出し、右電文には「金井ミヨ子」後者の「所在捜査方について復命」と題する書面には「金井みよ子」とそれぞれあり、且つ同書面によれば、金井みよ子は昭和二十三年六月二十一日以降転入並びに居住した事実がない旨の記載あることは洵に所論のとおりである。
然し乍ら、右二通の書面によれば、金井ミヨ子と金井みよ子は、金井美代子の居住先につき、同一人物として調査されたものであることが窺い得られるのみならず、記録によれば、検察官は、右二通の書面を証拠として提出するに先だち、先ず証人金子美代子の取調を請求し、原審は当時(昭和二十五年五、六月中)被告人山田勘一方に居住しているものと推認された同被告人方に昭和二十五年六月二十六日の公判期日に出頭すべき旨の右金井に対する証人召喚状を発したところ、同女においてこれを受理し乍ら右期日の公判に出頭しないところから、原審は更に次回公判期日(同年八月十六日)に同証人の出頭を命じた召喚状を被告人山田勘一方に送達し、同居人山田トヨノにおいてこれを受理したが、美代子はついに同期日にも出頭せず、原審は三度び、その転居先と目される福島県西白河郡日坂村字杉ケ苗一番地に次回期日(同年九月十八日)出頭の召喚状を送達しようとしたが、行先不明の故をもつて不送達に終り、右期日における右証人の出頭は実現せず、原審は更に同年十二月二十二日の公判期日(第六回)の出頭を期するため、念のため被告人山田勘一方に同証人に対する召喚状の送達を計つたがこれまた送達不能の故をもつて成功するに至らなかつたことが明白である。されば、斯かる経過に鑑み、原審裁判所に右公判期日当時証人金井美代子の所在不明であつたことの洵に顕著であつたことの事情に照らすときは仮に右検察官の提出にかかる二通の所在不明の証拠書類のみをもつてしては、未だもつて証人金井美代子の所在不明を推認するに難きものありとする所論主張を採用するとするも、これら二通の書面の記載にも鑑み、原審が刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号及び第三号の規定に基ずく検察官請求にかかる金井美代子の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の証拠調を施行した上これらを事実認定の証拠としたからといつて、これをもつて訴訟手続に違背するものありと非議すべき限りでなく、たとい被告人及び弁護人において単にこれらの証拠調に異議のない旨を述べたにすぎずして、その趣旨が毫もこれらを証拠とすることに同意する趣旨でなかつたとするも、刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号及び第三号の各但書等の規定に照らし、これらを排斥すべき特段の事情の認められない本件において、敢て採証の法則違背乃至は原審の訴訟手続に法令の違反ありとすることはできない。
論旨は採用し難く理由がない。