東京高等裁判所 昭和27年(う)1720号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(爭点)
原判決によると、裁告人は容疑者として赤羽署に留置中、偶々窃盜容疑で同樣留置されていた甲との間に、被告人の持つている拳銃と甲の進駐軍の洋服と引きかえる約束をしたが、このことを甲は警察署員に告げたので、同署では被告人が現に拳銃を持つているという見込で搜査を始め、その方法として巡査を甲の友人と名乗らせて釈放中の被告人を訪問させ右取引の交渉をさせた。結局被告人は「おとり」となつた巡査の申込に応じ拳銃を他から入手してこれを引渡そうとするところを逮捕され、右拳銃の不法所持で起訴され有罪の判決を受けるに至つた。そこでこの搜索方法が問題となつたわけである。
(判旨)
記録を精査するに、本件犯罪は被告人の自発的意思にその発生原因があるもので、所謂おとり搜査により何ら犯意なき被告人がはじめて犯意を抱くに至つたものと認むべきでないことも亦原判決認定のおとりであると認められる。然るに論旨は本件搜査権の逸脱があり、個人の自由権を侵害していて憲法第一三条の違反があると主張するのであるが、警察では被告人が拳銃を現に所持しているという見込の下に搜査を開始したのであるから巡査を買受人に仕立てて、被告人に陥穽をかけたのは拳銃の所持の如き犯罪に対する搜査手段としては違法であるとはいはれない。故に之を目して憲法第一三条の個人の自由権を侵害する搜査手段であるということはできない。又被告人が逮捕の当時現実に所持していたと認められる本件拳銃はおとり搜査が所期の通り奏功すれば搜査官の手中に帰すべきものであつたろうか、おとり搜査は必ずしも奏功するとはきまつているわけではないから被告人の拳銃は勿論危険性のあるものであり、之を何らの危険性なき所持であり銃砲所持取締令第二条の所持と認むべきでないという議論も亦採用に値しない。
(説明)
今迄「おとり」搜査が問題とされたのは主として麻藥取締法違反の犯罪搜査であり本件のようなのはめずらしい。既に東京高裁としても公表された判例は数件有するわけでいずれもその搜査を適法とし犯罪の成立を認めている。結局問題は「おとり搜査」が手続面において合憲適法であるかということと、実体面でこれが犯罪の成立に如何なる影響を与えるかの点とにわかれているのだが、具体的事案として今迄のところ全然犯意のない被告人を挑発して犯罪をさせた場合は現われていないようである。