東京高等裁判所 昭和27年(う)1757号 判決
〔抄 録〕
一、同第二点について。
憲法第二十一条が結社、言論、出版その他一切の表現の自由を保障していることは所論のとおりであるが、右はもとより無制限なものではなく、常に公共の福祉に反しない限度において保障されているに過ぎないのである。
そして被告人の頒布した「平和のこえ」は、原判決挙示の証拠を綜合すれば、日本共産党機関紙「アカハタ」の後継紙として「新文化」「民主日本」、「自由」及び「平和の友」が順次発行停止処分を受けた後を承けて「アカハタ」の思想、政治目的並びに編集方針等を継承して発刊されたものであつて、真実を歪曲し、連合国占領軍に対する破壊的批評、論説等を掲げ、社会の無責任にして不法な小数分子を煽動して法秩序を乱し、一般の福祉を侵害する破壊的な共産主義者の宣伝を播布するものであることを認めるに十分であり、これがために、昭和二十五年六月二十六日附及び同年七月十八日附連合国最高司令官の内閣総理大臣宛指令に従い、昭和二十六年一月二十三日日本共産党機関紙「アカハタ」の後継紙としてその発行停止の処分が行われたのであるから右発行停止処分は何ら言論出版等の自由を保障する憲法の規定に反するものということはできないのである。したがつて、原判決が被告人の本件所為を右連合国最高司令官の指令に違反して連合国占領軍の占領目的に有害な行為をなしたものと認定したのは正当であつて、何ら所論のごとき憲法の違反は存しない。論旨は理由がない。
二、同第四点について。
所論は、要するに、被告人が本件「平和のこえ」を頒布した所為は、昭和二十五年六月二十六日附及び同年七月十八日附連合国最高司令官の内閣総理大臣宛指令にいわゆる発行には当らない、と主張するものであるが、同指令の全趣旨から考察すると同指令にいわゆる発行とは虚偽、煽動、破壊的な共産主義者の宣伝播布を目的とする日本共産党機関紙「アカハタ」及びその後継紙又は同類紙を普及するためにする一切の行為をいうものと解するを相当とし、したがつて、本件「平和のこえ」を発送若しくは頒布する行為も右指令にいわゆる発行に該当するものといわなければならない。さればこれと同趣旨に出でた原判決は正当であつて、所論は到底採用し難い。論旨は理由がない。
三、同第五点について。
按ずるに、「平和のこえ」が日本共産党機関紙「アカハタ」の後継紙であるか否かを認定し、その発行停止処分を命ずることは、最終的には前記の指令を発した連合国最高司令官の権限に属するのであつて、既に「アカハタ」の後継紙と認定され、その発行停止を命ぜられた以上は、裁判所においてこれと異なる認定をなすことは許されないものといわなければならない。そして本件「平和のこえ」が昭和二十六年一月二十三日「アカハタ」の後継紙と認定され、その発行停止を命ぜられたことは原判決挙示の昭和二十六年三月三日附法務府特別審査局長より新潟地方検察庁検事正宛日本共産党機関紙「アカハタ」後継紙発行停止処分に関する件回答書謄本によつて明らかであるからこの点に関し原判示以上に特に「平和のこえ」がアカハタの後継紙と認定された所以を証拠によつて説明することはこれを要しないものというべく、論旨は理由がない。
四、同第六点について。
憲法第十四条はすべて国民は法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されないことを保障するものであるが、政府が昭和二十七年四月二十八日を基準日として恩赦法に基き政令第百十七号大赦令を公布するに当つて、昭和二十五年政令第三百二十五号占領目的阻害行為処罰令第二条の罪のうち、一部所論のごとき覚書又は書簡の趣旨に反する行為からなる罪を赦免の対象から除外したからといつて、特に被告人に対してその社会的身分又は門地による差別的取扱をしたものと解することはできない。また右政令第三百二十五号は、講和発効と同時に占領終了し占領目的阻害行為も存在しえないため廃止されたのにかかわらず、講和発効の日から起算して百八十日間なお法律としての効力を有するものとされたことは所論のとおりであるが、右は本件被告事件のみを対象としたものではないのであるから、毫も憲法第十四条第一項の規定に違反するものではない。なおまた、右のごとき立法措置に出たからといつて法律を乱用し、国民の憲法上の権利を侵害したものということはできない、したがつて憲法第九十八条の規定に違反するところもないのである。畢竟所論は採用し難く、論旨は理由がない。