東京高等裁判所 昭和27年(う)2094号 判決
被告人 金龍煥
〔抄 録〕
一、論旨第二点について。
原審第二回公判調書には検察官から刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号によつて倉沢知子、高橋愛子、河本長市の各司法警察員に対する供述調書及び河本長市の検察官に対する供述調書について証拠調請求があつて、被告人や弁護人はこれに対し、右供述調書はいずれも信頼できないものであるから不同意と述べた旨記載があり、原審第四回公判調書には前記倉沢知子、高橋愛子、河本長市の各司法警察員に対する供述調書を爾余の供述調書と共に証拠調をした旨記載があることが認められるし、原審第十一回公判調書には原審弁護人林百郎から右倉沢知子、高橋愛子の供述調書が刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号の書類に該当しないとの理由で、これら証拠の排除決定の申立があつたのに、原審裁判官はこの申立に対する決定は判決と共にする旨告げたのみで、即日結審しているのである。ことろで原判決をみると、特に倉沢知子、高橋愛子等の司法警察員に対する供述調書を証拠として排除するともしないとも明らかにしていないのであるが、右倉沢、高橋両名の供述調書はもちろん、その他被告人の司法警察員に対する供述調書を除けば、原審で証拠調を行つた司法警察員に対する供述調書は一切証拠として引用していないのである。所論はそこで、原審の右手続は証拠の排除申立について何等の決定を与えなかつた違法があると主張する。
もともと、刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号は検察官の面前における供述を録取した書面について証拠能力の認められる場合を規定したものであるから、前記倉沢、高橋等の司法警察員に対する供述調書の如きは、同条第二号に該当する書面とは認められないし、同条第三号の要件を具備するとも認め難いので、被告人、弁護人がこれを証拠とすることに同意しない以上は、この書面について証拠能力を認め証拠調をしたことは違法であり、後日弁護人から、その違法を指摘されて、証拠の排除決定を求められながら、その旨決定をしなかつたのは妥当ではなかつたこと明らかである。しかしながら刑事訴訟規則第二百七条によれば「裁判所は取り調べた証拠が証拠とすることができないものであることが判明したときは、職権でその証拠の全部又は一部を排除する決定をすることができる」と規定しているとおり、証拠の排除決定を求める申立は、職権発動を促す行為に過ぎないのであり、裁判所が直ちに採否を決しなかつたことが直ちに違法と断ずべきではない。而して先にも説明したとおり、原審判決は、これら違法の証拠を引用していないところからみれば、原審も一応右証拠を違法とし、これが排除決定をすべきであつたと判断したものと認められないわけではない。又倉沢知子、高橋愛子を初め、その他原審で取り調べた司法警察員に対する供述調書は、別として、いずれもその内容からみると、有罪の心証形成に影響のあるものとは認められない。従つて原審が右のように証拠能力のない書類を取り調べた違法の措置や、証拠の排除決定申立に対し、決定しなかつたことが所論のように判決に影響を及ぼすこと明らかな訴訟手続の違法とは解されないから、論旨は理由がない。
二、同第三点について。
原審が昭和二十六年十二月十日の検証後同月十三日の公判期日に於て右「検証の結果を告知した」ことは所論のとおりである。而していうまでもなく裁判所が職権を以て証拠調をするについては刑事訴訟法第三百五条第二項が定めている方式によるべきであつて、原審裁判所の採つたような「検証の結果を告知」するというようなことが果して適法なものかどうか疑がないでもない。しかし刑事訴訟規則第二百三条の二所定のとおり、右証拠書類の取調をするに当り、訴訟関係人の意見を聴き相当と認めるときは、その書面の朗読に代えてその要旨を告げることによつて適法な証拠調をすることが可能なわけであり、検証の結果を告知したというのが検証調書を朗読したものとは認め得ないにしても、その要旨を告げることと結果的には同一の行為に該当するものと認められるのである。してみれば、原審の為した右証拠調の手続が訴訟法的に根拠のないわけではないし、訴訟関係人が右証拠調の終つた後直ちに異議を述べた形跡が認められないことからみても、原審の検証調書の証拠調の手続は適法に行われたものといわなければならない。それ故右証拠調の手続を違法であると主張する論旨は失当である。
註 本件は他の採証法則違背と事実誤認の点で破棄。