東京高等裁判所 昭和27年(う)2185号 判決
被告人 宍倉馨
〔抄 録〕
論旨第一点の(一)について。
窃盗罪の成立には、他人の財物について不正領得の意思をもつて他人の所持を奪つて自己の所持に移すことを必要とするから窃盗の事実を判示するには、何人の所持を奪つたのかを知り得る程度に記載しなければならないことは言うまでもないところである。原判決はこの点について「被告人は、昭和二十七年三月九日午前八時五十分頃大宮市高鼻町大宮公園内大宮競輪場附近の道路上において熊田小文治所有の現金千円紙幣十四枚(一万四千円)を窃取したものである」と判示している。これによれば奪つた紙幣が熊田小文治所有のものであることは明認できるが、何人からこれを奪つたのか即ち何人の所持を侵したのか特記されていないのではあるけれども、一般に特殊の事情のない限りこのような場合においては所有者と所持者は同一人であることが通例であるのだから、一応前記のような窃盗事犯の判示においては窃取の目的物の所有者が表示されておる限りその所持者も亦同一人たる熊田小文治であることを推認できるものと言うべく而して本件もその証拠によれば一般の事例のようにその所有者も共に同一人たる熊田小文治であつたことが明らかであつて原判示も亦同様の趣旨に出たものと認められるから、所持者が判文に特記されていなくとも所論のようにこれを目して刑事訴訟法第三百七十八条第四号に所謂判決に理由を附せない違法があるとまで断定することはできない。論旨は理由がない。