東京高等裁判所 昭和27年(う)2302号 判決
被告人 塚田貞人
〔抄 録〕
同辯護人の控訴の趣意第一点について。
しかし、原判決挙示の各証拠を総合すると、塚田佐平は昭和二十年一月頃から肺浸潤に侵され、昭和二十三年七月頃からその病気が重くなり、昭和二十四年七月一日も原判示自宅の病床にあつたが、同日午前十時頃、かねてから原判示のような理由で別居していたその妻ふさよがその実家から帰つて来たので興奮し、同女に対して悪口雑言をいい、同女も亦これに逆らうような態度を示したため、佐平は興奮の余ふさよを殺すといつて台所から刃物か何かを持つて来るような気配を示したことが認められるけれども、右各証拠によると、同人がそのように興奮したことはその病状に何等かの影響があつてもこれをもつて直ちに同人の生命、身体に差し迫つた危難があつたものとは認めがたく、また右各証拠によれば、その場には被告人のみならず、小出まきや名倉才治等も来ていたことが認められるから被告人として、単独あるいは右小出や名倉の協力を得て病人たる佐平の行為を制止し、佐平がこれに従わないときには実力をもつてこれを中止させるとか、ふさよをその実家たる原判示坂城町の池田修三郎方へ送り届ける等有効且つ適切なる処置をすることができた筈であつて、被告人において、原判示のような方法によつてふさよを逮捕監禁しなければ所論のような塚田ふさよ又はその夫塚田佐平の生命身体等に対する現在の危難、即ち右両名の生命、身体等に対し切迫している直接の侵害又は危険を防止することができなかつたというようには解せられないから、所論緊急避難に関するその余の論点について判断するまでもなく、被告人の原判示逮捕監禁の所為を目して刑法第三十七条第一項本文所定の行為にあたるものということはできない。尤もこの点についての原判決の説明はいささか簡に失する憾があるけれども、その言わんと欲するところは以上説明の趣旨とすこしも異なるところがないことは原判決を一読して充分これを理解することができる。それ故、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。