東京高等裁判所 昭和27年(う)2578号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(爭点)
原審は、朝鮮人である被告人が昭和二二年五月二日勅令第二〇七号外国人登録令施行の際、東京都内に居住していたのに同令の定めるところにより所定の同月三一日迄に所轄区役所に登録の申請をしなければならないのに、これを怠り昭和二六年一一月一四日まで申請をしなかつたという公訴事実に対し、右期間の経過と同時に公訴時効が進行し三ケ年を経過すると共に完成し、その後の起訴は不適当として免訴の判決をした。検察官はこの見解を不当として控訴した次第である。
(判旨)
外国人登録令(二二・五・二勅令第二〇七號)は、外国人の入国に関する措置を適切に実施し、且つ、外国人に対する諸般の取扱の適正を期することを目的として制定されたものであるが、この目的を達成するためには、在日外国人を登録することが最も肝要であるところから、同令は在日外国人に対し、登録申請義務を課したものと認められるから、同令所定の登録申請義務は、その性質上、当該外国人が同令所定の登録を申請するまでは消滅することがないものと解すべきであるから、同令施行の際、現に本邦に在留していた外国人に対し、昭和二二年五月二日から三〇日以内に所定事項の登録を申請すべきことを規定した同令附則第二項は、同令の周知徹底をはかり、登録事務の円滑を期するため、登録申請の猶予期間を与えたに過ぎないものというべく、従つて、右期間徑過によつて、直ちに登録不申請という犯罪が完成するとともに終了し、それ以後は登記申請義務がないと解することは相当でない。……(中略)……結局、原判決が右期間の経過と同時に公訴時効が進行するものとして、被告人に対し免訴の言渡をしたのは、法令の適用を誤つたことに帰し、その誤は判決に影響を及ぼすことが明らかである。
(説明)
この問題も周知のように、全く相反する見解が対立し最高裁判所の判例の速やかな出現が期待されるものの一つであるが、東京高等裁判所の裁判においても見解の対立が見られる。例えば、昭和二六年一〇月二七日第一二刑事部判決(二六(う)第三〇六七號事件)や同年一二月二八日第一三刑事部判決(二六(う)第四九四一號事件)は時効完成免訴説であり、同年八月二〇日第一一刑事部判決(二六(う)第一六三〇號事件)・昭和二七年三月二二日第二刑事部判決(二五(う)第四四七五號事件)・同年四月八日第九刑事部判決(二七(う)第四五六號事件)・同年七月三〇日第六刑事部判決・(二七(う)第一三〇三號事件)・同年六月二六日第一刑事部判決(二七(う)第一の八二號)等本判決と同樣登録申請義務の存続を認め公訴時効の完成を否定している。時効完成説は、昭和二四年一一月一日附法務府民事法務長官及び刑政長官連名の各都道府県知事宛通達「未登録外国人の新規登録申請に関する件」(法務府民事局、民事甲第二四九一號(六)一五九號)を有力な論拠として前記期間経過後未登録者については市、区、町、村長は登録申請を受理しないこと従つて申請義務の履行ができないことを説いている如くであるが、本判決も指摘しているように、これとその前後に発せられた昭和二四年四月三〇日附法務府法務行政長官の各都道府県知事宛」外国人登録事務に関する件」(同民事局甲第九七五號)及び同年一二月三日附同民事長官の各都道府県知事宛「外国人登録事務について」(同民事局甲第二七七二號(〓)二三二號)とその添付の「外国人登録事務取扱要領」によれば右期間経過後の登録申請も受理すべきことを明示している点を考え合せると、前者必ずしも絶対に不受理を指示したものではないようである。そこで登録申請義務は依然存続し通常の者については何時にてもその履行は可能と解し、公訴時効は前記期間の終了と共に進行するとするは失当ではなかろうか。