東京高等裁判所 昭和27年(う)2898号 判決
論旨は、原審は刑事訴訟法第二百九十一条第二項の規定に違反し検察官の起訴状の朗読が終つた後に被告人に対して被告人の権利を保護するに必要な事項を告げていないから違法である。というのであるが、刑事訴訟規則第四十四条の規定によれば裁判長が刑事訴訟法第二百九十一条第二項所定の手続を履践したことについてはこれを公判調書の必要的記載事項としていないのであるから、所論のごとく原審公判調書にその旨の記載がないからといつて直に右の手続を履践しなかつたものとはなし難いのである。そして右刑事訴訟規則第四十四条第一項第九号の規定によれば刑事訴訟法第二百九十一条第二項の機会にした被告人及び弁護人の被告事件についての陳述についてはこれを公判調書の必要的記載事項としているところ、原審第一回公判調書によると、「被告事件に対する陳述」として被告人は「事実は起訴状記載のとおり間違ありません」、弁護人は「被告人と同趣旨である」と述べている旨の記載があり、これによれば原審はまさに刑事訴訟法第二百九十一条第二項の手続を履践し、その機会に被告人及び弁護人から右の如く被告事件に対する陳述をなしたものであつて、原審公判調書はこの事実を明らかにしたものというべく、又この点に関し原審において被告人及び弁護人から何等の異議申立もなかつたことよりすれば原審が刑事訴訟法第二百九十一条第二項の手続を履践したものと推定するに難くないのである。畢竟論旨は理由がない。
同第二点について。
論旨は、原審は検察官申請の証人を弁護人の同意を得て採用決定をしておきながら弁護人の同意を得ずに取消決定をしているから違法である。というのである。
そこで記録を調査すると原審第一回公判調書の記載によれば検察官が犯罪事実並びに情状を立証するため証人柳田ツマの尋問を申請し、弁護人はこれに同意し、裁判官はこれが採用決定をして次回公判期日に尋問する旨を宣したこと、同第二回公判調書の記載によれば検察官は右柳田ツマに対する証拠調の請求を徹回し、原審裁判官は弁護人の同意を得ずしてその取消決定をしていることは所論のとおりである。
しかしなから、かかる場合に相手方である弁護人の意見を徴することは適当な措置とはいい得るけれども、その同意を得なければ検察官の証拠調請求の徹回を許容し、さきになした証拠調の決定を取り消し得ないとする法律上の根拠がないのみならず、被告人の犯罪事実並びに情状を立証しようとする検察官請求の前記証拠調の決定を取り消したからといつて、被告人に何らの不利益を被らしめないのであつて、若し仮りに特に被告人の利益のため必要であると考えるならば弁護人から改めてその証拠調の請求をなし得るものであり、この権利は何らそこなわれないのであるから、この点に関する原審の訴訟手続には何らの違法も存しないものといわなければならない。
論旨は理由がない。