大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)3305号 判決

〔抄 録〕

一、記録を検するに被告人鄭順伊に対する本件酒税法違反事件の告発書には、国税犯則取締法第十三条第一項但書第二号により犯則嫌疑者逃亡の虞あるものと認めたので告発をしたものであることが記載されている。論旨は当時被告人が逃亡する虞のあつたことは其の裏付けがないから右告発は無効であると主張するのである。然るに収税官吏が右第十三条但書各号に、該当する事情が客観的に存在すると認められないのに有之ものと誤認して告発した如き場合ですら其の告発を無効であるとすべきではない。右条文は其の場の状況に応じて但書各号に掲げた如き事情が存在するか否かの認定を当該収税官吏にまかせた趣旨であるから、その誤認は告発の無効を来すとすべきではないのである。本件においても当該収税官吏は当時の事情からいつて被告人は逃亡する虞ありと認めたので右認定を不当であるとみるべき根拠も存在しないから論旨は結局其の理由がないことになる。

二、論旨は憲法第三十条によれば国民は法律の定めるところにより納税の義務を負うと規定しているが、被告人は朝鮮人であつて日本国民でないから右憲法第三十条に基き制定された酒税法を被告人に対して適用することはできないと主張するのである。如何にも酒税法は憲法第三十条に基き制定された法律であるには相違ないが単に日本国民のみに適用さるべきものではなく、日本在住の外国人にも適用されるべきものであることについては毫も疑いはない。即ち憲法第三十条の趣旨は国民の納税義務の内容は法律を以て之を定めるという主義を宣明したものであつて之によつてはじめて国民に納税義務を負担せしめたものではない。凡そ国家が国民に納税義務を負はせることは国権の作用上当然であつて敢て憲法の条文をまたないのであり憲法第三十条はこのことを当然の前提としているのである。而して国家が在住している外国人に対し納税義務を課し得べき場合であることは国権の作用上之亦当然視さるべきものであり、此の場合に於て其の納税義務の内容を国民に対すると同様法律を以て定めるものとすることは、納税義務について国民の享有する地位を外国人にも与えることになるのであつて立憲法治国としては当然且妥当であるといはなければならないのであるが、本件の酒税法の如きは恰も如上の如き主義を具現した法律であつて日本国民のみならず外国人に対しても納税義務についてよるべき根拠を定めたものであるから之を外国人に適用すべからざる理はなく固より斯く解することが憲法に違反すると認むべき根拠はないのである。よつて以上の論旨は理由がない。

尚論旨は酒税法に規定する如き酒類製造の許可免許は朝鮮人に対しては現実には与えられず此の点に於て人種的差別待遇がされているから結局本件については憲法第十四条、第二十二条違反があると主張するが右主張の如き人種的差別待遇が為されている点について之が裏付けとなるべき事実を認め得ないから右主張の理由がないことは明である。

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