大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)3421号 判決

賭博は財物の得喪を争う行為であり、一見、個人の自由な権利行使に属するもののように思惟されるけれど、その得喪たるや、偶然の事情にかかる勝敗によつて決せられるものであるから、賭博それ自体は人の射倖心の発露に外ならない。人の射倖心は賢明にこれを利用し、誘導すれば、産業の発達、文化の進展に寄与するもののあることを認めなくてはならないが、もと、これ、本能的性格をもつので、その発露をして自由奔放に委せるときは、延いては、おのずから社会の秩序を乱し、公共の福祉を害することとなる。近時、宝籖その他人の射倖心を剌戟し誘発するような賭博的行為が立法によつて多数公認されつつも、なお、且つ賭博の反社会性を否定するわけにいかず、従つて、これに対する法的評価に変化を来したものありとすることはできないので、すでに公共の福祉に反するもののある以上、刑法が原則としてこれを禁遏する規定をおいているのは、理の当然とする所であり、むしろ、憲法第一三条の規定の精神に合致するものといわなくてはならない。賭博行為は今や違法ではないとし、或は賭博行為を処罰する刑法の規定が憲法第一三条に反するとする所論の採るに足りない謬論であることは、云うまでもないことながら、さて、被告人の判示所為は賭博罪ではなくして、賭場開帳図利罪である。しからば、賭博罪の可罰性を否定したり、又その違憲性を主張したりして、被告人に対する本件控訴の理由とすることは、筋違いであつて、当然理由なきものとして排斥するの外はない。しかり、而して原判示賭博場開帳図利の事実は、原判決挙示の証拠によつて優に証明することができ、記録を精査してみても、原判決の認定に誤ある廉を発見することができないので、原判決が該認定事実に対し刑法第一八六条第二項の規定を適用して被告人を処断したのは、まことに正当である。しかし、同条項に規定する犯罪は、賭博場を開帳して利を図る行為から成るのであり、被告人において利益を得ようとする意思の下に賭博場を開帳したことの明かなる以上、被告人の所為はまさに右犯罪の構成要件に該当するのであるから、被告人が寺銭として収得した約三、〇〇〇円という金額は決して僅少なものとはいい難く従つて所謂零細な反法行為ではないというような説明は蛇足の譏を免れないのみならず、その理由とする所を述べるに当つて賭博罪の賭物の額に対する違法評価の基準を挙げたのは、原判決が根本において賭博罪と賭博場開帳図利罪とを混同した誤に陥つていたというの外なく、従つて理由にならないことを理由として掲げた憾みあるものといわなくてはならない。しかし、原判決が賭博罪の賭物の額について、それが「社会事情、賭博の方法、行為者の身分、地位、財力等によつて評価が異るべく」というたのは、それ自体としては決して誤つてはいない、これは、違法評価の対象たる事実の中には行為者の身分、地位、財力等の主観的要素も包含されることを指摘しただけのものであつて、行為者の身分、地位、財力等により法律上の取扱に差別をつけようとする意味ではない。従つて、右の解釈を以て憲法第一四条に違背するものとはいい得ない。これを要するに、原判決は、事実の認定、法律の適用その他につき何等違法の廉のあることなく論旨はいずれも理由がない。

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