東京高等裁判所 昭和27年(う)389号 判決
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(判旨)按ずるに、橫浜市条例第四八号橫浜市風紀取締条例第七条にいう売春をさせる目的で婦女を雇い入れた者云々というのは文理上から見ると原判決の解釈するように雇入契約を締結した者というようにも読めないでもない。しかしその第一条にこの条例は売春に関する諸行為を取締ることにより善良の風紀を維持し社会秩序の健全な発達を図ることを目的とする旨規定されていること並びに第七条全文の趣旨及び同条例第三条によれば売春をした婦女はその都度処罰を免れない事実更に地方自治法第一四条第五項によれば普通地方公共団体は法令に特別の定があるものを除いて、その条例中に条例に違反した者に対し一定の刑を科することができる旨を定めているのであるが、婦女に売春をさせることを目的としてこれと雇傭契約を締結した場合は昭和二七年五月七日法律第一三七号によつて存続せしめられた昭和二二年政令第九号婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する政令第二条によつて処罰しうるものである事実等を考え併せると、右は婦女に売春をさせる目的でこれと雇傭契約を締結した行為を処罰の対象とするものではなく雇い入れている行為自体、即ち継続的就労状態を維持している行為を処罰の対象とするものと解するのを相当とする。
従つて或る婦女に売春をさせる目的で成る期間雇い入れていた行為が処罰され、その判決が確定した後も依然同一婦女を引続き同一目的で雇い入れている状態が存在すれば、それは別個新たな犯罪行為を構成するものというべく、確定判決の既判力はこれには及ばないものでこの新たな事実は先の事実と同一事実と解すべきではない。
しかるに原判決が本件公訴事実中被告人が第一、昭和二七年六月一二日頃から同年八月一八日頃までの間甲女を、第四、同年六月一二日頃から同年八月一八日頃までの間乙女を各売春をさせる目的で雇入たものであるという点について、第一は昭和二六年七月頃甲女を、第四は同年六月頃乙女を各同一目的で雇い入れたものと認め、該事実は己に昭和二七年五月二九日橫浜簡易裁判所において橫浜市風紀取締条例第七条違反として罰金一万円に処する略式命令(その事実は昭和二七年二月二〇日頃から同年四月三〇日頃まで甲女を、同年二月中旬から同年三月二六日頃まで乙女を各売春をさせる目的で雇い入れていたものである。)を受け該命令は同年六月一三日確定したものであるから右各雇入行為は確定判決をうけた事実であるとして免訴を言渡したのは、明らかに法令の解釈を適用を誤つた違法の存するものというべきである。
この違法は勿論判決に影響を及ぼすものであるから、論旨は理由があり、原判決は爾余の論旨につき判断を加えるまでもなく失当であるから、刑事訴訟法第三九七条に則りこれを破棄すべきものとする。
(説明)・本件は、二八・三・三〇第五刑事部判決(二七(う)第四三三号事件)と全く同趣旨である。問題は橫浜市風紀取締条例(二六・一〇・一同市条例第四八号)第七条の「雇入れた者」の解釈如何に係る。参考のために同条例を掲げると、その第一条は「この条例は、売春に関する諸行為を取締ることにより、善良の風紀を維持し、社会秩序の健全な発達を図ることを目的とする。」その第二条は「この条例で売春とは、報酬を受け又は受ける約束で不特定の相手方と性交することとをいい、(以下略)」その第七条は「売春をさせる目的で婦女を雇入れた者、同居させた者、自己又は他人の管理する家に居住させた者は六月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。」とある。この問題は曾つて戦時中の地代家賃統制令第三条の「地代又ハ家賃ヲ定ムルコトヲ得ス」の解釈と全く同じと思われる。結論も亦同様であり当審判決の見解に賛成したい。