大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)4005号 判決

被告人 呉相吉

〔抄 録〕

一、論旨第三点及び第一点。

原判決が証拠として掲げる押収品の数量のみでは被告人の製造した本件医薬品の数量が約二万本に達しないことは所論のとおりである。しかし原判決が掲げる被告人の検察官に対する供述調書その他の証拠を綜合すれば原判決が認定する数量は勿論その余の犯罪事実は十分これを認めうるのであつて、本件記録を仔細に検討しても原判決には事実の誤認の存するものとは認められない。

而して薬事法第二六条第一項に医薬品の製造業を営む者とは所論のように必ずしも公然販売又は受注の目的をもつてする者に限るものではない。所論のように本件の如く自己のヒロポン中毒を医するためと知人に対する分け売りによる利益を得ることを目的とするものであつても、利益を得る目的のある以上継続反覆して医薬品の製造を営むならばここに謂う医薬品の製造業を営む者に該当するものと解すべきものである。而して業として製造を営む旨の判示は自から営利の目的をもつて反覆継続してこれを営むものである旨を判示しているものであるから原判決には所論のような事実の誤認も理由不備の違法も認められない。論旨はともに理由がない。

二、同第二点。

原判決が証拠により認めた本件医薬品はフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩含有のものであるから、これが所謂覚せい剤であることは所論のとおりであり、本件所為は一面薬事法に違反すると同時に他面覚せい剤取締法第一五条、第四一条にも該当するものである。けれども本件起訴状によれば公訴事実に対する罰条の記載は薬事法第二六条第一項、第五六条第一項のみであるから検察官は薬事法違反の事実のみを起訴したものと認められる。のみならず薬事法第二六条第一項、第五六条第一項の刑は三年以下の懲役又は三万円以下の罰金であるところ、覚せい剤取締法第一五条第四一条の刑は三年以下の懲役又は五万円以下の罰金であつて、両者の法定刑を刑法第一〇条によつて比較すれば後者の刑は前者のそれよりも重いものであることは自ら明である。従つて軽い前者の刑のみを適用処断した原判決に対し、重い後者の刑を適用処断すべきであるとする論旨は被告人に不利益な主張であるから、被告人の利益のためになされた本件控訴審においては主張することを許されないものである。次に薬事法第二六条第三項に定める医薬品の製造業者とは同条第一項の規定により所定の登録を受けている製造業者をいうものであることは薬事法施行規則第一三条乃至第一六条、第二二条の各規定に照して明白である。所論のように厚生大臣の許可をうけなければその登録を受けられないというのは逆であつて、登録をうけた者が薬事法に所謂公定書に収められていない医薬品の製造をする場合に初めて許可を受くべきものなのである。よつて本件医薬品がたとえ公定書に収められていない医薬品であつても同法第二条第四項第三号に定める人又は動物の身体の構造又は機能に影響を与えることを目的とされている食品以外のものである限り、薬事法にいう医薬品であることには変りはないのであるからこれが製造を業とする為には先づ同法第二六条第一項によつて厚生大臣の登録を受けなければならないのである。原審が被告人の本件所為に対し同法第二六条第一項を適用したのは正当であつて、原判決は何等法令の解釈適用を誤つたものではない。論旨はすべて理由がない。

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