東京高等裁判所 昭和27年(う)4114号 判決
被告人 李国興
〔抄 録〕
弁護人控訴趣意第二点について。
仍つて案ずるに、刑法第五条本文の趣旨とするところは、或る特定の犯罪事実につき、その犯人が外国の裁判権に服すると共に、我が国の裁判権にも服するものあるにおいては、仮に外国の確定裁判あるも、その既判力は及ばず、我が国において、更に同一人につき裁判を為し得る旨の原則を定めたに外ならない、然し乍ら、斯くては同一犯罪者において、二個の裁判による刑の執行を受くることとなり、苛酷なるものあるを以て、でき得る限り、その不当の結果を避けんとするもの即ち同条但し書の存する所以である。即ち換言すれば、同条但し書の趣旨は、外国の確定裁判によりて刑の執行を受けたる者については、その執行を受けたる程度に応じて、我が国の裁判所において相当と認める刑の執行を減軽又は免除するにある。然し乍ら、我が国の裁判による無期懲役刑、無期禁錮刑又は死刑に至つては、その刑の執行の減軽は性質上あり得ないものと謂わなければならない。蓋し無期刑にありては、その刑期満了に期限の定めなく従つて外国裁判による刑の執行を受けたことに基きその執行を減軽するに由なく、死刑に至つては更に強き意味において刑の執行の減軽の余地を存しないからである。或はかかる場合には刑法の所謂加減例の規定を準用すべしとなすものあらんも(所論の趣旨亦然り)、かかる解釈は反つて刑法第五条の規定の趣旨に反し到底採用すべきではない。蓋し刑法加減例の規定たるや刑そのものの減軽に関するものであつて、刑の執行の減軽に関するものでないからである。
今本件につき観るに原判決が、被告人を無期懲役刑に処し乍ら、被告人が本件と同一行為につき第八軍軍事裁判所において言渡された重労働三十年の刑の中、執行を受けた部分を全部右無期懲役刑より減軽する旨言渡したのは、前記刑法第五条但し書の解釈を誤りたるに出でたる違法あるものにして、此の違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、此の点において論旨は結局その理由あるに帰し、原判決は到底破棄を免れない仍つて刑事訴訟法第三九七条第四〇〇条本文に則り、原判決を破棄し、本件を千葉地方裁判所に差し戻すこととし主文のとおり判決する。
註 本判旨は前号に掲げた第六刑事部の判決(第三号六四事件)と同趣旨である。尚本件の原審判決の主文は「被告人を無期懲役に処する。但し、被告人が本件と同一行為につき第八軍々事裁判所に於て言渡された重労働三十年の刑の中、執行を受けた部分全部を、右無期懲役刑より減軽する。」とある。